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51 戦場


 よく考えたら今まで南へ向けて街道を通ってたのを今度は北だ。

 つまり、来た道を戻っている。なんとなく見知った道を進む。ちらっとロックを見るとモルティットを抱えて歩いている。気がついたモルティットが手を振ってきた。くっ、羨ましい。


「マクレイ…」

 隣にいるマクレイに声をかける。

「なんだい?」

「見知った道を歩くと、疲労が溜まりやすいよね?」

「は? そんなの知らないね! さっさと歩く!」

 何故か半ギレされてる。手をつないでるフィアが励ました。

「頑張りましょウ!」

 応援は嬉しいけど、違うんだ。もう休みたい!

「ダメだよ! あと少し歩きな!」

 エスパーかな、この美人さんは? 渋々、めちゃ疲れた顔をして歩く。

 そんな事をしつつ、とうとう勇者カイトと出会った所まで戻ってきた。はぁー。やっと野営だ。



 やがて街道を外れ数日、草原を歩いていると前の方に二人の武装した者が見えた。

 向こうもこちらを認識すると手を振っている。

「おーい! ここから先は危険だから通行はできないぞ!」

 一人が大声で警告する。よくわからないので近づいていく。

「何かあったのかい?」

 マクレイの顔を見た二人は急に慌てだした。


「あんた…ひょっとして! ああっ! すみません、少し待ってください!」

「お、俺、ちょっと行ってくる!」

 ものすごい早さで一人が駆けていく。なんだ?

「いったい何?」

「“紅蓮(ぐれん)の刃”様ですよね? あと、後ろにいるのは“氷の魔法使い”様…」

「プ。紅蓮(ぐれん)…。氷…」

 思わず吹き出したら横からどつかれ、鬼に(にら)まれた。ロックから降りたモルティットもこちらに来て

「あー、マクレイディアが怒る理由がわかった。ナオに言われると何か腹立つね!」

 珍しく憤慨している。胸元にいるクルールは口元を両手でふさいで笑い顔を隠している。ズルイぞ!

「だろ。ホントにこの男は…」

 マクレイも憤慨している。武装している男はなぜか目を合わせずに下を向いて震えていた。


 しばらくすると三人の武装した男がやって来た。先ほど走っていた男と一人は大柄な男で片腕に手の代わりに銃器のような物をつけてる。もうひとりは初老の(いか)つい男だった。初老の男はマクレイを見ると笑顔で近づく。

「おお! 久しぶりだなマクレイディア! ちょうど良い時にいてくれた!」

「あんたキリークかい!? ずいぶん年を取ったね!」

 驚いたマクレイが初老の男とガッチリ握手している。モルティットも知っているようだ。きっかけがつかめず見つめていると、

「ああ、すまなかった。自己紹介しようか。ワシはキリーク、冒険者達の代表だ。こちらは傭兵団“(とどろ)きの雷鳴”頭領のガエル殿。今、共同で魔物を掃討している所だ。ぜひ協力してほしい。もちろん報酬は出すぞ」

「なるほどねぇ。ナオ、どうする?」

 マクレイが俺に確認してきた。え? 俺が決めていいの?

「いや、マクレイ達が役に立つなら協力しようよ?」

「はぁー。とんだお人好しだよ、それじゃ。ま、しょうがない」

 するとキリークが嬉しそうに手を叩く。

「それじゃあ決まりだな! どうやら、お前がリーダーか、坊主。この暴れ馬は大変だぞ」

「全然平気。っていうか、大人しいもんだよ?」

 握手をしながら会話する。マクレイに肘で小突かれた。

「ワッハッハ。気に入った。よし! ついてきてくれ! そこで詳しく話そう」

 結局一言も話さなかったガエルも一緒にキリークの後についていった。移動してる間に俺達の紹介もした。



 しばらく歩いていくと簡易的に作られた大きな天幕があり、中には机や簡易的な椅子が並んでいるのが見える。その周りにはお揃いの黄色い腕章をした傭兵達や、装備や武装もバラバラな冒険者達がざっくばらんにくつろいでいた。

 俺達が近づくと周囲の注目の的になっているようで、ヒソヒソ囁いたりしている。やがて中に案内され、大きなテーブルを囲むように座った。ロックは天幕に引っかかるので外で待機している。


「じゃあ、いいかな。これを見てくれ」

 キリークが大きな巻物状の地図を出して広げる。ここの周辺の詳細図のようだ。港町でみた地図よりも細かく正確に見える。

「この街道から外れて、その先に行った盆地に誰が設置したか描いたかわからないが、召還の魔方陣があるのだ。この魔方陣はどこから召喚したかわからんが、魔物を休み無く出現させている。ここで食い止めるか、魔方陣を破壊しない限り終わりなき戦いが待っている。すでに我々、冒険者と傭兵団の連合は五日も戦い続けているんじゃ」

 手を上げて質問する。

「何でここに魔方陣があるってわかったの?」

「うむ。最初は魔物が多くいるとの通報が商業ギルドからあって、ワシら冒険者ギルドが調査したからだ。この事態に傭兵団に助力を求め、ガエル殿が来てくれたんじゃ」

 キリークが話しながらガエルの肩を叩く。

「わかりました。ありがとう」

「ハハッ、礼儀正しいな坊主。ここは戦場だ。そんなに(かしこ)まらなくていいぞ!」

 キリークがガエルを見ると、ガエルが立ち上がり話し始めた。

「正直、我々だけでは事態が硬直したままで打つ手が無かった。だが、名高い実力者二人が来てくれたことにより、こちらから反撃する可能性が出てきた。そこで教えて欲しい、ナオヤは何ができるのか? 後はフィアとゴー…ロックについても教えて欲しい」

 全員が俺に注目してきた。やめて! 緊張してしまう!


「え、えーと、お、おおお俺は精霊を使えて、フィアは魔導銃の扱いに()けて、ロックは十分強いよ」

「なに? 精霊使いなのか! 素晴らしい! これは儲けものだ!」

 なんかガエルが興奮している。キリークも嬉しそうだ。マクレイや仲間達は当たり前みたいな顔をしている。そんなに期待されても困る。

 それから、キリークとガエルは作戦を組み立てる為、話し合いをするようで俺達は天幕から出た。決まったら使いを出すようだ。


 ちょうど空いた場所があったので仲間と座り待っていると、どこからか女性の冒険者が集まってきた。

「マクレイディアさんですか? 一緒に戦えて光栄です! あっ! 大魔法使い様もいる!」

 次々とマクレイとモルティットに挨拶に来ている。前から思ってた以上に有名人なのかな?

「マクレイ達ってけっこう有名なの?」

 質問するとマクレイとモルティットは互いに見合い吹き出した。え? 何?

「ふふっ、面白いね。長く生きていればいろいろあるの!」

 モルティットはそう言って、俺にしなだれてきた。が、すぐさま怒りのマクレイがモルティットを引き戻す。

「はー。もう、マクレイディアって堅いんだから」

「人の目があるよ!」

 モルティットは口に手を当てて。

「あれかな? 人目がなければいいのかな?」

「あーもう! なくてもダメ!」

 いつものが始まった。からかい役を取られた、悔しい…。俺も混ざりたい。

 それから雑談などをしているとキリークからお呼びがかかった。


 天幕の中に入ると、各部隊のリーダーらしき人たちが詰めている。キリークとガエルは中央にいるようだ。

「おお! 来たか! こちらへ!」

 俺達に気がついたキリークが手招きしてる。皆で中央のテーブルに向かう。

「皆、紹介しょう。マクレイディア殿とモルティット殿は大方わかるな? こちらのナオヤ殿は精霊使いだ!」

 すると、リーダー達から「おおおぉー」と、どよめきが起きる。

「そして、この魔導人形のフィア殿は銃の使い手だ。外にいるゴーレムのロック殿は…見ての通りだ」

 またどよめきが起きた。って、ロックについては何も思いつかなかったな。

「今までの戦いで疲れていると思うが、これからの作戦で最後になるかもしれん。気合いを入れていくぞ!」

「「「うぉおおおおおおおおお!!」」」

 おおぉ。(すご)い! めちゃ体育会系だ! こういうノリも嫌いじゃないぞ。

 横を見たらマクレイが同じように雄叫びを上げていた…。モルティットは俺に気がついてニッコリしてきた。


「よし! 作戦を発表する! 冒険者組は今まで通り俺が指示する。そして、盆地の周りの魔物を掃討しつつ、傭兵団を援護する。いいな? この中にマクレイディア殿、モルティット殿、フィア殿が参加する!」

「「うぉおおおおおおおおおーーーー!!」」

 なんか、一部がめちゃ喜んでる。逆に一部は落ち込んでいるようだ。俺ってハズレ?

「傭兵団は直接、魔法陣を潰す。この中にナオヤ殿、ロック殿が参加する。以上!」

「おおおーー」

 少な! 期待されてないし。ガエルは俺を見てニヤッとした。どういう意味?


 マクレイが心配アリアリな顔をして近づく。

「ナオ、ロックと二人で大丈夫かい? ヤバくなったらいつでも逃げな!」

 まるで信用無し。一番付き合い長いのに、そんな顔してると……

「はぁえええ!」

 押し倒した! いつもより変な声だ。

「マクレイ! 俺が……おぐぅ!」

「なにやってんだい! この男は!」

 腹に膝蹴りされた。もんどりうって、床に転がる。ううぅ、キツすぎる!

「あら? お盛んね!」

 しゃがんで俺を見ながらモルティットが笑って感想を漏らした。


 なんとかヨロヨロと立ち上がると、まわりがザワついている。

「押し倒したぞ!」「見たか、今の?」「すげぇ~」「怖いもの知らずだ!」「あんな男がいたとは!」

 なんか俺の評価が変わっている…。なんだか意味わからん。ガエルが俺の肩を叩いた。

「やるな! その度胸は(すげ)えよ! 俺の傭兵団に来ないか?」

「いや、間に合ってます」

 恐る恐る断る。真っ赤な鬼のマクレイはめちゃ俺を(にら)んでいる。あぁ、しばらく怒ってそう。


 いろいろ騒がしい中、解散となった。



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