50 導きの途切れ
モルティット以外の皆が俺に注目している。え? 俺が言うの?
「えーと、モルティット。昨日、マクレイの妹さんに会ったよ」
「は!?」
「それで、昨日の内に里に戻っていったみたい」
唖然としているモルティット。マクレイが俺の後に続ける。
「あの子はナオを狙って来たのさ。とんだ返り討ちに会ったけどね」
「それは予想できたけど。昨日か~、すれ違ったなぁ。まっ、しょうがないね」
満面の笑みで言ってる。絶対、嘘だ。知ってて追わなかったな。演技してるな、これは。
そんな俺の顔をモルティットはマジマジ見ると
「ホント、時々鋭いね…」
俺の頬に両手を添えてくる。なにしたいの? と、マクレイがその手を振り払う。
「鋭くても何でもいいから、なんだいこの手は!」
マクレイが睨んで怒っている。それを見てモルティットは口に手を当てて笑っている。
「あら? 私のいない間に何かあった?」
マクレイの目をのぞき込む。美人さんは目を逸らした。耳が赤いぞ。
「あら? あら?」
「もうその辺デ、あまり追及すると暴れまスよ」
フィアが止めてきた。的確な判断はさすがだ。俺も内心焦っていた。見てしまった…握りこぶしを作っているマクレイを。
それからモルティットと再び一緒に旅する事になった。
夜、久しぶりの再会にマクレイとモルティットの話がはずんでいる。
俺はフィアにクルールと共に勉強している。最近はだいぶ文字を覚えてきた。日常的な単語ならいけそうだ。だぶん。
クルールと試しに筆談で会話し、フィアも加わって静かだが楽しいひと時になった。
翌日、街道を南へ歩き始めた。
街道をしばらく進む。再び同行するモルティットはロックに抱えられている…。すっかり定位置になってるな。羨ましい。
フィアは俺と手をつないで、マクレイの横を歩いていて、その回りをクルールが飛んでいる。
しばらく進んだ時、突然、何かが切れる音が体内から聞こえた。あれ? 立ち止まって佇む。
「どうしたんだい? ナオ?」
マクレイが心配そうに顔を覗き込んだ。その時、切れる音の正体がわかった。
「切れた…」
「何をだい? まさか!?」
「ああ、導きが切れた……」
驚いたマクレイがモルティットに顔を向ける。
「聞いたかい? こんなことってあるのかい?」
ロックから降りたモルティットがこちらに来た。
「う~ん。初めて聞いたね。でも、ナオと関わってからだとあり得る話しだね」
ああ、今の言葉でピン! ときた。
「ひょっとしてさ、“契約者”がもう一人いるってことかな?」
恐る恐る聞いてみる。あまりにもありえるからだ。
「あら? さすがね! その通り、この世界には“契約者”は二人いる。でも、二人だけとも限らない。他の要因もあるかも?」
モルティットが答える。マクレイは口を真一文字に結んでいた。何を考えてるんだろ?
行先が分からなくなった以上、この道を進んでもしょうがない。だが、どうしたらいいんだろう?
よくよく考えれば、俺は導かれるままに旅をしていただけだ。自分から進んで来たわけじゃない。ひょとしてマクレイに出会わなければ、ここまで来ていないかもしれない。
──ああ、でもフィアに約束したんだ、“世界を見せる”と。俺自身ではなく人の為に旅するのもいいかもね。と、その場で思考を巡らせていたら、声が聞こえてきた。
「ナオ!? ナオ? 大丈夫かい?」
ハッと気がついて見ると、美人さんが両手で俺の頬を挟んで聞いてくる。もう、こんなことするから勘違いするんだぞ。と、目を閉じて唇をつきだしてみた。
「なっ!? 人が心配してるのに!」
あああああ、そのまま投げられた。痛ててて! 顔面から地面にダイブ!
「あら、始まった。もう少しショック受けてると思ったけど」
モルティットが感想を漏らす。クルールが横たわってる俺の前にきて、唇を出して真似してる。からかってるつもりでも、かわいいから! それ。
それから、行先を決めるため一旦、近場で野営をすることにした。
マクレイとモルティットが狩に出ている間、野営の準備をしたが、あっさり終わったので見晴らしの良い場所にフィアと並び座って景色を見ている。ロックは見張っていて、クルールは珍しい花を見て楽しんでいる。その様子をボーっと見ていたらフィアが話しかけてきた。
「ナオヤさン。これからどうしましょウか?」
「考えたんだけどさ、このまま世界を巡ろうかと思うんだ。フィアとも約束したし」
「…ありがとうございマす。でも無理しないで下サい」
「してないよ! 元々、根無し草だし。今度は有名な所に行くとか? それで、行き尽くしたら、皆でフィアの家におじゃまして住むってのはどうかな?」
「ワタシは嬉しいでスが、それはダメでス」
フィアが俺の目を見て応える。え? ダメなの?
「ソビト族の村を見てワタシは思いまシた。ナオヤさンは、人々のお役に立てる方ダと。道中で困っている人がいたら助けてくだサい。できれば、ワタシもご一緒させてほしいデす」
フィアが俺の手を握る。握り返して、
「何いってんだ、フィア。もう家族同然じゃん! 今更離れるなんて考えた事ないよ! あと、俺はそんなに善人でも聖人でもないから」
「………かぞク…」
フィアは遠くを見た。と、
「おや、モルティットはまだかい?」
マクレイが後ろから声をかけてきた。フィアはビックリしたらしく、少し浮いていた。クルールはマクレイを見てこちらに戻ってくる。
「まだ戻ってきてないよ」
返事をすると、マクレイが俺の横に座ってきた。
「そうかい。で、これからどうすんだい?」
「今、フィアとも話していたんだけど、このまま世界を巡ろうと思ってたとこ」
すると美人さんは微笑んで、俺の頭をクシャクシャにした。その髪の上にクルールは降りてきた。
「フフ。そうかい。実はナオの導きが切れて安心したんだ」
「マクレイ…」
「いくら何でも限度があるのに、ナオはホイホイ契約するからねぇ。人の気もしらないでさ」
マクレイも遠くを見ながら言っている。フィアもそうだけど、あの風景の先に何があるのか? じゃなくて、今、重要な事をいったぞ!
「なぁあああ!?」
マクレイの両肩をつかんで押し倒した! 変な声が出たけど気にしない!
「マクレイ! 気持ちはわかった! って、あああ! 痛いです!」
下から顔面つかまれた。目の前、真っ暗で何も見えないぞ。
「この男はホントにしょうがないねぇ。皆が見てる前で」
「痛いです! マクレイさん!」
「はぁ。まったく!」
呆れているマクレイの背後から声がかかる。
「あら? 皆がいなければいいのかな?」
「も、もももモルティット!?」
いつの間にかモルティットがいたようだ。うろたえてる割には力が変わってない! 痛いし、暗いし、どうなってんの?
「あノ。そろそろ止めないと…」
フィアが助け船を出してくれた。天使だ! ありがとう!
「フン!」
そう言うとマクレイは手を放す。はぁー。助かった。頭の上ではクルールが興奮して髪の毛を引っ張っている。
あの後、モルティットがマクレイをからかっていた。
「それじゃ、このまま旅をするって事でいいのね?」
夕食時、モルティットにも今後の予定を話した。終始ニコニコしているので何を考えているかわからない。
「ああ。モルティットもいいよね?」
「もちろん! 楽しみだね! マクレイディア?」
「あ、アタシに振るな!」
耳が赤くなってますよ、美人さん。
「でも、特に今までと変わらないと思うよ」
俺が指摘するとモルティットが腕をつねってきた。
「気分よ! キ・ブ・ン」
そう言って顔を近づけてきた。と、マクレイが俺を抱き寄せる。
「なにやってんだ! モルティットも変だよ!」
「あら? 親密な関係なのかな?」
モルティットに指摘されると俺を突き飛ばした。ひでぇ。とばっちりだ!
突き飛ばされたまま横たわってると、クルールが来てチュッチュしはじめた。
「まて、待てってば、クルール! 行くならマクレイの方へ!」
と言っても聞かず迫ってくる。立ち上がって逃げるが何故か素早く先回りされた。何故だ? 普段はフラフラ飛んでいるのに…。
フィアとロックは温かい目で俺を見守っている。助ける気はないのね。
マクレイとモルティットは何故か口論してる…。その日は賑やかに過ぎていった。
『………』
……来た!
「さてと、どこを目指そうかね? ナオは決めたかい?」
翌朝、準備も終わった頃、伸びをしながらマクレイが聞いてきた。
「ああ、もちろん! 今度は北だ!」
その言葉を聞いて、周りの仲間が固まる。
「ちょっと、まさか導きがあったの!?」
モルティットが驚いて聞いてきた。マクレイは伸びたままだ。
「そう! 寝たら新しい導きがあった! 心配かけてゴメンね!」
後ろ手に頭をかきながら笑顔で言ってみる。クルールは嬉しそうだ。って、いつもか。
「な、ナオ! なんで? 導きって切れたり、新しくなったりできるもんなの?」
「いや、俺もわかんないけどさ」
マクレイに詰め寄られる。顔が怖いよ。
「あーもう! だからナオと一緒にいると常識がわかんなくなるよ!」
頭をクシャクシャにしてマクレイが嘆いている。横でモルティットは笑っている。
「ワタシはこうなると思っていまシた」
フィアが手を握ってきた。ロックを見るとサムズアップしてる…。
「ナオヤさンは、精霊に愛されていますカら」
「えー、そう? わかんないけど」
「フフッ。そうでスよ!」
顔を傾けながらフィアが答える。相変わらず癒しだ。
「じゃ、行こう! 北へ! みんな!」
ブツブツ文句言うマクレイを引っ張りつつ、仲間と共に街道を北へ進みはじめた。
お読みいただきありがとうございます。
仲間が増えました。
六人……。もうこれ以上は増えない予定です。




