47 ソビトの村
成り行き上、バラランがソビト族の代表のような形になり話し合いが続いているが、平行線のままだ。
できれば仲良くしてもらいたいけど…。ああ! できるかも! ミレーアに質問してみる。
「話し合いの途中で申し訳ないけど、ミレーア達っていつも何を食べてるの?」
『ふむ、面白い質問ですね。我々は木の実や虫など、たまに川魚を食べています』
「ソビト族とかは食べないの?」
俺の質問にバラランが青ざめている。
『ははは。皮ばかりで食べようもない。それにマズそうです』
ミレーアは不思議そうにしているが、ちゃんと答えてくれた。今度はバラランに向き直る。
「バララン。ソビト族はミレーア達を食べるの?」
「ええーっ!? そんな恐ろしい! 無理です。食べないし、戦えません!」
バラランは両手を振って否定している。まあ、そんなに重要でもないけど。意地の悪い質問だった、ゴメンね。
そこでミレーアがこちらの考えがわかったようで聞いてきた。
『“契約者”様。どういう事でしょうか?』
「うん。実はお互いが一緒に暮らしたらいいかな、って思うんだけど。どうかな?」
すると、バラランを始め、周りの猫達もざわつき始めた。
「む、む、無理です! そんな恐ろしい……」
「そうかな? ソビト族は木の実とかを取るのが上手そうだし、一緒に暮らせばお互いの足りない所を補えると思うんだ。ある程度はガマンしないといけない部分もあるとは思うけど」
『ふむ、確かに我々は細かい事は苦手です。面白い考えですね、それなら一々排除しなくても良い』
震えているバラランに説明した俺の言葉にミレーアは頷いている。これは上手くいくかも?
「これは私の一存では決められません。一度、村へ帰っていいですか?」
バラランはこう答え、村に戻ることになった。
『なるほど、ならば私も行きましょう。その方が早い』
ミレーアはそう言うと腰を上げる。他の猫はこの広場で待っているようだ。
それからバラランを先頭にソビト族の村へ歩み始めた。
やがてソビトの村が見えてきた。
細い枝を幾重にも重ねた鉛筆の先のような円錐型の家があちこちにあった。ソビト族の人々は俺達、特にミレーアを見てビックリして、中には家へ隠れる者もいた。
バラランの案内で族長の元へ行く。噂を聞きつけたのか、族長と思わしき者が何人かと共に出てきた。
「ぞ、族長! お話しがあります!」
駆けて族長の元に行き、バラランが説明をしている。族長は顎に手を当てて聞き入っている。
話しが終わると、こちらに向かって来た。
「ようこそ。旅の方々、四足の獣よ。ワシは族長のムイイル。大筋は聞いた。して、何か要求はあるのか?」
「こんにちは。旅人代表のナオヤです」
『私はミレーア。代表として族長との話し合いに来ました』
取り敢えず要求は無視して、自己紹介を済ませ俺の案を皆に話した。
案と言うほどのものではないが、ソビト族、ミレーア達それぞれ自分達の生活のサイクル、相手への希望を述べて共に暮らせていけるかどうかと言うものだ。
俺の説明にお互いに納得して、それぞれ自分達の一日の行動と生活の様式を述べる。その結果、思ってた以上に融和しやすそうな感じだ。これにはソビトの族長とミレーアも驚いていた。
これから細部を詰めていこうとしていたところに村人が飛び込んできた。
「た、大変です族長! 大きな獣が出ました!」
村が騒然となり族長が指示を飛ばし始めた。俺はマクレイ達と合流し、獣を迎え撃つ為に前線に向かう。ミレーアとバラランもついてきた。
逃げ出す村人の流れに逆らい進むと、大きな熊が円錐の家を壊しているところだった。周りを見たが怪我や死んだ者はいないようだ。
「ありゃ、ビッグベアだね。こんな所にもいるとはねぇ」
マクレイが説明する。その後をミレーアが続けた。
『あの熊は前からいて私達が追い払っていたのですが、巡回していない隙をついてきたようです』
横にいたバラランは木の弓をつがえ、口笛を吹きつつ矢を放った。すると弱い風が吹き、矢を後押ししているようで長距離をビッグベアまで飛んでいく。しかし、矢は刺さらず当たって落ちてしまった。
それを見て質問する。
「バラランは魔法が使えるの?」
「いえ、使えません。私達は風を少し扱えるのです。それで今、矢を強化しましたがダメでした……」
肩を落とし俯いたバラランが答えた。
なるほど。これはいけるかも? 警戒しているマクレイに声をかける。
「マクレイ。お願いがあるんだけど」
「ん? これならロックだけで倒せるよ?」
「そうじゃなくて、彼らをサポートしてほしいんだ」
「ああ、なるほどわかった! ロック行くよ!」
「ヴ」
マクレイは俺の肩を叩いてロックと共にビッグベアーに向かって行った。さすがマクレイ! 理解が早い!
ついで、バラランを持ち上げミレーアの上に跨がせる。
「ひえぇえ! ナオヤさん! これは?」
「さっきの様に風を呼んで攻撃して。サポートするから! ミレーアお願い!」
『突然で驚きましたが、考えがわかりましたよ“契約者”様。ソビトよ、しっかりつかんで!』
軽い悲鳴を漏らしつつバラランを乗せたミレーアがビッグベアーに向かっていく。何故かミレーアの頭の上にクルールが乗っているのを目撃してしまった……。
「ベントゥス! バララン達をサポートして! ソイル! ビッグベアーの足止めをお願い!」
そう叫ぶと風が通り抜けバララン達へ向かい、マクレイ達が牽制しているビッグベアーの足をソイルが土で固定した。
「ワタシはどうしましょウか?」
魔導銃を構えたフィアが聞いてきた。
「ここに一緒にいてくれると安心かな」
そう言って手を握った。フィアは魔導銃をしまって、こちらを見た。
「ワタシはいつでもいまスよ。ナオヤさン」
手を握り返したフィアはそう言って前をみた。相変わらず癒やしだなぁ、これは。
身動きできないビッグベアーにバラランが口笛を吹いて矢を放つ。すると暴風が矢をつかみ目標に当てる。深々と刺さった矢に絶叫するビッグベアー。足が固定されているため、両手をめちゃくちゃに振るがミレーアが素早く避ける。その間にバラランが次の矢を放つ。
何本かの矢が根元まで刺さった時、ビッグベアーは仰け反った格好で倒れた。とうとう息が絶えたようだ。ありがとう、ベントゥス、ソイル。
ミレーア達がこちらに戻ってきた。体中に汗をかいたバラランがふらふらしながら降りてきた。
「た、た、倒せました! ありがとうございます!」
『なかなか上手でしたよ。ソビトの戦士よ』
汗を拭いながらバラランがお礼を言い、ミレーアが褒める。
族長達もこちらにやって来た。
「おお! あの獣を倒したのか! ありがとうございます! 旅の方!」
「いえ、倒したのはバラランとミレーアです、族長」
そう言うと一人と一匹を前に出す。
「そうか! それは凄い、バラランよ! ミレーア殿も感謝します!」
バラランは恐縮しているようだ。ミレーアは九本の尻尾がユラユラしてる。まんざらでもないのかな?
どこからかクルールが俺の肩に乗ってきた。満足そうに興奮してる。マクレイとロックはビッグベアーを解体しているようだ。行動が早いですね、今夜はお肉だな。
それから、途中で止まった話し合いがもたれたが、思いの外スムーズに進んだ。
ソビト族の中には抵抗がある者も多いので、徐々に共同で生活していく事で話しがまとまった。今回の功労者、バラランが両者を取り持つ役目になったようだ。ミレーアはこの話しを仲間にするため広場に戻る事になった。
「まさか、このような形になりましたが村を救ってくれてありがとうございます。ナオヤさん」
バラランはお礼を言って握手をしてきた。後ろには族長や村人が大勢、見守っている。
「いや、まだだよ。後は自分達で頑張って! ……ベントゥス」
すると、風の精霊主が現れた。
『お呼びですか、ナオヤさん』
するとソビト族の全員が跪いた。ああ、そんなに畏まらなくても…。しょうがない。
「急で申し訳ないけど、精霊達をこの地に住まわせる事ってできる?」
『フフ。問題ありませんよ、あなたの望み通りに。いくつかに話しておきましょう』
「ありがとう、ベントゥス」
『ソビト族に猫族の者よ、我らを呼べばいつでも応えるでしょう。それでは』
そう言ってベントゥスは風の様に消えていった。これで一安心かな。
あれ、頭が重い。何かが頭にあるようだ。見るとミレーアが手を乗せていた…。
『“契約者”様よ。“ネコ族”とは何ですか?』
は! しまった! ベントゥスが俺の思考を読んでて、そのまま出たんだな。これ。
「え、えーと、ほら! ミレーア以外に君達の名前もないし、便宜上?」
助けてマクレイ! ちらりと見ると目を逸らされた…。ヒドイ。ロックも向こうを見ていて、フィアだけは興味津々に見ている…。
『ふ~。真に勝手ですが、いかしかたないですね。これより我らは“ネコ族”としましょう』
そう言って手を降ろした。あードキドキした。
それからソビト族に別れを告げ出発した。途中までミレーアは同行するようだ。
では行きますか!




