45 闇の精霊主
翌日、何故か少し疲れているマクレイとリンディを連れ朝食を済ませ、ダンジョンに向かった。
俺達と同じように朝からダンジョンに入るグループが何組かいて次々と穴の中へ消えていった。
続けて入ろうとしたときに問題が発覚した。
「ヴ!」
「マジかよ。ロックがでかすぎて入れない…」
ダンジョンの入り口がロックのサイズより小さい為、入ることができなかった…。
「ロック…。残念だけど、ここにいてくれ」
「ヴ、ヴ!」
え? なんとかするって? どうするの?
すると、両腕が地面に落ち、ロックの体がバラバラになった。突然の事でビックリしていると、今度はバラバラになった岩が再構成してちょうど俺と同じぐらいの背丈になっていた。
「そんなことできたのか! 凄い!」
「ヴ」
ロックはサムズアップしてる。マクレイは関心したようで、
「へぇ~やるねぇ、ロック。小さくなるとかわいいねぇ」
とナデナデしてる。
「ま、待ってよ! 普通、ゴーレムって大きさ変えられないじゃん! 変だよ!」
リンディが慌てて言ってる。マクレイは肩を上げて、
「ナオと一緒だと大体こんな感じだよ。イチイチ驚いてたらキリないよ」
ニヤリとリンディに笑いかける。
「なにその余裕。あたしはこれからイイ関係になるから関係ないし」
君たちなにを張り合ってんの? 意味がわからないよ。もう、ほっておこう。
ロックの準備が整ったところで、本格的にダンジョンに入ることになった。ちょっとドキドキするな。
入口からマクレイが先頭に立ち入っていく。殿はロックがいるが、いつもみたいに大きくないので、後ろの空間が広いと少し不安になる。
入ってすぐに下りの階段があり、その先は暗闇が広がり不安と恐怖を助長していた。
明かりは俺とロックが掲げているが、周囲を照らすには少し足りない感じだ。
壁に手をつき、微かな振動を確認する。先に入った冒険者達や魔物達の立ち回る様やうろついている魔物など雑多な感覚にクラクラしてきた。全体じゃなく、範囲を絞って確認する。
すると奥から小型の魔物らしきものが、いつくつか駆け寄ってくるのが感じられた。
「マクレイ前方から魔物が複数来る!」
「はいよ!」
マクレイは剣を構えていつでも待っている形だ。そこへリンディが前へ駆けていく。
「ハハッ。これぐらいなら、あたしにお任せ!」
前方の暗闇の中へ吸い込まれて行くと、くぐもった叫びが聞こえてきた。やがて両手に短刀を持ったリンディが明かりの中に入ってきた。マクレイは剣を降ろして、腰に手を当てている。どうもイライラしてるようだ。
「まったく手応えがないねぇ」
「リンディ…。あ、あんまり先行すると大変だよ?」
マクレイが睨むので、遠回りに言ってみた。ニッとしたリンディは短刀をしまうと俺の隣に来た。
「心配してくるの? 嬉しいな!」
「違うって! わかってるでしょ?」
「全然!」
絶対わざとだ、これ。美人さんがますます睨んでいるし。リンディはそれを受けて涼しい顔をしている。どうしたものかと考えてると、フィアが手を握ってきた。つられて見ると頷いている。ありがとう。
さらに奥へ続く通路を進む。単発的に魔物が現れるが、ソイルの振動探知とベントゥスの微風による空間感知で事前に察知し、マクレイとリンディが撃退している。二人は余裕そうだ。思ったより危険が少なくて安心した。
たまに冒険者らしき死体が横たわっていたりするのを見ると怖くなってしまう。ネクロマンサーのタツミがいたら喜ぶ場所かな? そうでもないか。
階段を発見し、下の階へ進み探索しつつリンディはお宝を見つけては嬉しそうにしていた。
やがて広い通路に出た。横は人が五人ぐらい並んで歩けるほどで、長い一本道が先が見えないほど続いていた。ベントゥスに調べてもらう。だいたい一〇〇メートルくらいの長い通路のようだ。
「嫌な感じだね」
マクレイが呟く。
静まり返った通路を進み中ほどまで来た時、前後で何かが落ちる音が響いた。すると、無数の振動を感知し、前方と後方から魔物の集団が向かってくるのがわかった。
「魔物に挟まれた! 対処できる? マクレイ、リンディ! ロックは後ろを警戒して!」
それぞれ無言で構えをとり、警戒する。いろいろ雑多な足音が通路に反響して大きくなってくる。
先に発見したのはリンディだった。夜目が利くのかな。
「ありゃ凄い数だよ。ちょっと無理かも」
「そうかい。あんたは後ろでロックを補佐してな」
マクレイが指示を出すとリンディは素直に後ろに下がる。やがて無数の足音が間近に聞こえた時、相手の姿が見えた。
緑色やら黒い色、小さいのから大きいのまで、より取りみ取りで魔物が揃って向かって来た。圧迫感が違う。怖えぇ。
「ま、マクレイ! 大丈夫?」
「やるしかないね!」
うっすらと汗をかいたマクレイが剣に炎を纏わせ、先頭で走ってきた魔物を筆頭に斬り始めた。後ろを見るとロックとリンディも戦闘に入っている。しかし、数の多さで押されている。
たまに金属音がしてフィアが狙撃している。が、あまり効果がないようだ。
焦る。このままだと全滅だ。ふと壁を見て気がつく。そうだ! ここはまさに独断場だ!
「ソイル!」
前のマクレイと後ろのロックとリンディが戦っている前に下から壁を出現させ安全を確保した。無数の魔物が壁を叩いたり、体当たりしているがビクともせず壊れる気配がなかった。
「ナオ! ありがと! さすがにキツかったよ!」
マクレイが振り返って微笑んだ。今日は素直な美人さんですね。俺もニッコリしたところで、後ろから走ってきたリンディに抱きつかれた。
「これはナオヤがやったの? あたしが見込んだだけはあるね! こんな魔法、見たことない!」
「違うね! 精霊使いだよ、ナオは!」
マクレイがドヤ顔で訂正した。それを聞いたリンディはさらに笑顔になって強く抱きしめてきた。少し苦しい。
「ハハッ。よっぽど凄いよ! 初めて見た! 精霊使いをさ!」
「どうでもいいけど、離れな!」
マクレイが威嚇してる。しぶしぶリンディが離れた。フィアとロックもこちらに来た。
すると、ゴリッ、ブシュ、ボキン。
壁の向こうから何かが潰れ、破れる音があちこちからしてきた。無数の断末魔が聞こえる…。自分でやっておきながら怖い。でも、ありがとうソイル。
「壁の外はどうなっているんだい?」
マクレイが質問してきた。あまり気が進まないが答えた。
「えーと、魔物達を閉じ込めて両側の壁で押しつぶしている感じ?」
「……」
「は~。意外に残酷だねー。ナオヤって」
マクレイは無言になって、リンディが正直な感想を述べた。クルールは胸元にいて、プルプルして震えている。
やがて音もなくなり、振動を調べたが魔物はいなくなったようだ。
ソイルを解除して壁を消すと、綺麗な状態の通路が現れた。
「痕跡すら無いとか。ひょっとして、あたしの想像以上に凄い人?」
「どんな想像したか知らないけど、凄くないから!」
リンディの感想を否定したら、仲間からさらに否定された。
「ナオは十分凄いよ!」
「ホントでス!」
「ヴ」
マジか…。
それから先に進む。
と言っても、リンディにお宝探索するか俺達と先に進むか尋ねたら、一緒に行くとの返事をもらった。なので、ソイルを使い簡易的なエレベーターで地下に降りていった。
「ねぇ、そこのエルフ。こんな話ししても誰も信じないよね?」
「フフ。信じないどころか牢屋に入れられるよ」
「だよねぇー。はぁ~、ここまで無茶苦茶だとは思わなかったよ…」
美人さん同士が会話している間に最下層に着いたようだ。
最初からこの方法にすれば良かったと思うほどあっけなく円形の広場の中央に丸い台座のある部屋に出た。
クルールとリンディは初めてなので、興味深そうに辺りを見ている。
導きの元へ歩き台座を上がる。すると漆黒の環が現れ部屋を暗闇に包むとやがて神話にいるような美しい女性が出てきた。
『ようこそ導きの者よ。長い年月が経ちとうとう呼びかけに応える者が現れました』
「そこまで言われると光栄です。さ、どうぞ!」
そう言い、手を差し出すと精霊主はためらっていた。あれ? 今までは積極的だったのに。
『私は闇の精霊を束ねる精霊主。それでもよろしいですか?』
「はい! かまいません。どうぞ!」
差し出している手をそのままに答える。そうすると闇の精霊主は顔をほころばせて、
『ああ、なんてこと! とても嬉しい! でも、無理してませんか?』
「全然してません!」
段々手がプルプルしてきた。体力が無いのにこの仕打ち。わざとなの?
『ありがとう。途中で大変だったら契約を破棄してもいいわ』
「え? できるの?」
『あら? いっぱい契約しているのに知らないのね』
するとソイルが出てきた。珍しい。
『久しぶりです。闇の精霊主よ』
『まあ、本当に! 会えてうれしいわ!』
ソイルは闇の精霊主の手をとり、
『彼は少し特殊なの。詳しくは後で話すわ。先に契約をお願い』
『あら、そうなの。それでは“契約者”よ、お願い』
やっと来てくれた。もう腕が限界です。早くして! でも、何故かためらっている。
「? どうしました?」
『差し出がましいのだけど、私にも名前をつけて欲しいの』
「ああ、大丈夫! えーと、“アーテル”ってどうかな?」
『ありがとう! よろしくお願いします』
嬉しそうにプルプルしている手に触れた。するとアーテルが手の中へ入ってくる。
〈皆さんお久しぶりです〉〈名前を貰えてよかったわ〉〈フフ。お久しぶり〉〈良かった〉〈よろしくねアーテル〉もうだめだ、全員の声を聴き分ける事が難しくなってきた。皆でワイワイしている。
台座から降りると、口を開けたマクレイとリンディがいた。クルールは嬉しそうにフワフワしてた。フィアとロックの表情は読めない。
「な、なななんで、精霊主様と契約できるわけ? しかも二人? 二柱?」
「契約破棄なんて聞いたことないよ! どういう事?」
二人同時に話してくる。ホントは仲が良いんじゃないの?
「そう言われてもわからないよ。いいんじゃないの?」
今度は二人に睨まれた。なんなんだ。




