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42 落下物

 

「ハハッ! 知ってるよ、アンタ。有名だもんね“紅蓮(ぐれん)の刃”!」

 リンディが挑発している。ダメだ、ここで吹いたら目標が俺になる。我慢だ! ふと胸元を見るとクルールが吹いていた。

「なら話しが早い。ナオは関係ないだろ!」

 俺の後ろを(にら)み付けているが、どうも俺と目が合うんですけど。俺に言ってるの?


「待て! 待てい! そのお宝は山分けだ!」

 今度はボランが入ってきた。後ろにいるフィアとロックはヒソヒソ話をしている。何しているのかな。

「あーもう! ボランは引っ込んでな! 今はナオの事だよ!」

 マクレイがボランを一喝してる。すると耳元でリンディが

「ホントにあんなのに惚れてるの? 不思議ね~」

 と(ささや)いた。余計なお世話だ! と、ちらりとマクレイを見てから顔を寄せて唇を重ねてきた。え? 頭、真っ白…。


「な……な! な! な!」

 真っ赤になったマクレイが固まっていると、唇を離したリンディがニヤニヤしながら呪文を詠唱する。

「ハハッ! 面白~い! じゃあね!」

 すると部屋が急に暗闇で包まれた。真っ暗で何も見えない。これは魔法か?


「女~~! ブッ殺ーーース!!」

 マクレイの叫びとともにどこかが崩れた音がする。あちこちで破壊音が鳴り響く。怖えぇ。流れ弾が来そうだ。ヒュッと頭の上を何かが飛んでいった。マジでヤバい! パニックになって両手両足を地面について出口を目指す!

 ああ、なんて日だ! 昨日までは楽しかったのに。と、くだらない事を考えていたら少し冷静になれた。

 ソイルとベントゥスを使って部屋と人の位置を把握しながら扉へ向かった。背後では地獄のオーケストラが鳴り響き、ときどきボランの叫びとマクレイの怒号が聞こえる…。


 やっと隣の部屋へたどり着くと、ロックに捕まったリンディがいた。

「久しぶり! 元気?」

 腰にはフィアの魔導銃が突き付けられていた。ああ、それでさっきヒソヒソしてたのか。(すご)いなフィアは。

「どうしまスか? ナオヤさン」

 フィアが聞いてきた。

「ありがとうフィア、助かったよ。とりあえずこのままで」

 リンディに近寄り目を合わせる。

「マクレイに謝ってくれよ、リンディ!」

「なんで? 別に付き合ってる訳じゃないでしょ?」

「ぐっ! そ、そうだけど、これからその予定なの!」

 リンディは意地の悪い笑顔をしている。

「可愛いねぇ。フフッ」


 と、暗闇の中からボランを片手で引きずりながらマクレイが現れた。顔は伏せているが、まだ怒ってる雰囲気だ。

 ロックにつかまっているリンディを一目見ると、ボランを放し怪しいオーラを漂わせながら近づいてきた。怖えぇ。

「まだいたんだ。じゃあ死にな!」

 言うが早いか剣を振り上げる。慌てて二人の間に入った。

「ま、マクレイ! ストップ! やりすぎだよ!」

「そうそう。あんたメチャクチャ!」

「リンディは黙ってて!」

 挑発するリンディを黙らせ、マクレイの目と鼻の先まで出た。

「退きな! 一緒に斬るよ!」

 見上げて目を合わせるとマクレイの瞳は燃え上がって全然まわりが見えてないような感じだ。胸元にいるクルールが服をギュッとしている。

 ど、どうすれば…。前のモルティットの時より酷くなってるし。うん? これはやるしかない!


「ナオ! いつまでもそこ…っぷ」

 言いかけたマクレイの首に手を回して無理やり唇を重ねた。見開いた目でそのまま固まっている。クルールが俺達の周りを飛び回っていて、なんとなく祝福されているような感じ。恐る恐る唇を離す……。

 すると、マクレイが腰から崩れ落ちて座ったまま固まった。目はうつろになって顔は真っ赤だ。


「ハハッ! 度胸のある男は好きだよ! またね!」

 いつの間にか部屋の出口にいたリンディはそう言うと颯爽(さっそう)と駆け出していった…。

 ロックとフィアを見ると二人とも固まっていた。え? なんで?


「マクレイ? 大丈夫?」

 固まっているマクレイに声をかける。ハッと気が付いた美人さんは、ぎこちなく立ち上がった。

「だ、だだだ大丈夫。アタシは…」

 そう言って俺を見てまたハッとする。

「ナオ! ナオ?」

 ダメだ壊れた。ほっておいて、ボランの元へ向かう。ボランはマクレイに放された状態のまま気絶していた。


「ボラン! 大丈夫か?」

 肩を揺すると気がついたらしく、うめき声をあげ起き上がる。

「おぉ~。ビックリしたぞ! 下手な罠より恐ろしいな! ワハハ!」

「ボランが丈夫でよかったよ」

 立ち上がるのを手伝ってフィアとロックの元に行った。

「すみまセん。ビックリして取り逃がしてしまいまシた」

「ヴ…」

「いや、いいんだ。皆が無事ならそれで。リンディは重要じゃないし」

 フィアが手を握ってきた。“リンディ”の単語にマクレイが寄ってくる。


「あの女…。ま、いいか。皆、ご、ゴメンよ。迷惑かけたね」

 頭を下げたマクレイにフィアは慌てて、

「大丈夫でスよ。悪いのはあの女ですカら」

「ヴ」

「俺もゴメンね」

 それから洞窟を抜け地上へ出た。

 探索自体は短時間ですんだのでまだ日が明るい。



「ボランはこれからどうする?」

 ボランに尋ねると肩を震わせ不気味な笑い声をあげた。

「ふっふっふー。見ろ! これを!」

 と、(ふところ)からお宝を取り出し頭上に(かか)げた!

「あのお嬢さんが離れたあと、すかさず棺の中に入って残りのお宝を回収したのだ!」

(すげ)ぇ! さすがボランだ! その執着心!」

「ホントだねぇ。よくやるよ」

 俺とマクレイが褒める。上機嫌のボランが今度は両手をあげた。意味がわからん。

「おおう! そうだ、山分けだったな!」

 お宝を分けようとする手を止めさせ、

「いや、大丈夫。ボランはすっからかんだろ? お宝はボランのもんだ!」

「アタシもそれでいいよ。迷惑かけたし」

 二人が言うと、ボランは嬉しそうに(ふところ)に戻す。

「おう! ありがとな! 来てよかったぞ!!」


 それから順調に湿地を抜け、草原の街道が見える所まで出た。

 その間、なぜかマクレイはそわそわしている。思い当たる節はあるが、知らない振りをして歩いた。が、クルールが何故か気に入ったようでキス魔になっていた。最初、全員にしてたが、マクレイの唇が一番感触が良いみたいでチュッチュしていた。めちゃ可愛い!

「俺は一旦、ブルークの町へ戻り換金する予定だ。坊主達はどうだ?」

 ボランが聞いてきた。

「俺達はこのまま進むよ。ありがとボラン」

 手を差し出すとボランも握ってきた。

「それでは! 坊主! お嬢さん達! ロックくん! また会おう!」

「ああ! またな!」

「また会いましょウ!」

「…そうだねぇ」

「ヴ!」

 お互い手を振って道を反対方向に向かって歩き始める。

 ボランとはまた会いそうだ。



 しばらく街道沿いに進むと、

「ナオ…」

 マクレイから声がかかった。

「何?」

「な、なんでもないよ」

 ふっと横に顔を向けた。耳がピクピクしてるぞ。クルールは俺の肩でハミングしている。フィアとは手をつないでロックは後ろを歩いていた。

 やがて街道からはずれて草原の中へ入っていく。


 その日は野営し、翌日も歩みを進めた。

 晴天の中、草原を歩いていると、ふと辺り一面が影になった。上を見ると遥か上空に巨大な岩が浮かんでいた…。

「マクレイ! あれって何?」

 指を向けて聞くと、マクレイは珍しそうに、

「あれは、浮遊大陸だね。アタシも初めてみたよ。話しに聞くよりでかいね!」

「へ~。誰か住んでるのかな?」

「もちろんいるさ。どこかの都市とは交流があるみたいだよ」

「ワタシも初めてみまシた!」

 フィアがワクワクしながら見ている。しかし真上を通過しているのでゴツゴツした岩の部分しか見えない。

 と、何かが(はじ)け落ちてくるのが見えた。最初は小さかったが段々と大きくなってきた!


「ま、まずい! みんな! 逃げよう!」

 小さな岩かと思ったが、近くになるにつけ巨大な岩がぐんぐん迫ってくる。距離感がわからないので、どこに逃げても当たりそうで怖い!

 フィアと一緒に駆け出す。クルールは上着の胸元へ入っている。マクレイは先行して走っていたが、こちらを心配して戻ってきた。

「マクレイ! 先に行って!」

「バカ言ってんじゃないよ! あんたがいないとダメなんだよ!」

 俺の手を取って走る。後ろを振り向くとロックが遅れてきた。

「ロック! がんばれ!」

「ヴ」

 何言ってんだロック! 先に行けなんて…。影が段々と濃くなってきた。今の場所だと直撃ではないが衝撃がありそう。


「ソイル!」

 自分達の後ろに壁を何枚も出現させ、衝撃にそなえた。

 と、地面が激しく揺れ、(すご)い轟音が鳴り響く! ついで大量の岩が空から降ってきた!


 マクレイはとっさに俺を抱え込み地面に伏せる。その際にフィアと手が離れてしまった。

 マクレイに叫んだが轟音でかき消されて届かなかった……。



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