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40 ガハラの村


 一匹の巨大ワニを倒したところで、島の周りにいた仲間のワニが一斉に頭を浮き上がらせてきた。水面から大きな目と鼻を出し、こちらの様子を(うかが)っている。

 一気に襲われたらひとたまりもない。マクレイを見ると頷いてきた。フィアの手をギュッとする。


 危機を察知したワニ達は再び目と鼻を水に沈めた。逃がさないぞ!

「アクア! ソイル!」

 と、水面に小さなしぶきがあちこちに上がり、水が黒く(にご)ってきた。

「シルワ!」

 ギュルリと鈍い音が水中から聞こえてくる。しばらくすると、先ほどとは打って変わって静けさが辺りを支配している。

「……」

 感知してみる。…付近にいるワニ達は全て排除できたようだ。精霊主のみんなありがとう!


 ホッとして皆を見てみると、ボランはいぶかしげな顔をしているし、マクレイは安心したのか微笑んできた。フィアとロックは普通な感じだ。クルールはよくわからず飛び回っている。よし! 大丈夫だな。

「じゃ、行こうか?」

「相変わらずとんでもないね! 何がどうなってんのさ」

 マクレイは剣を鞘に納め俺の手を握ってきた。

「おおう? もう終わったのか? 何だかわからんがいいか! ワハハ!」

 ボランは驚きながら笑うという器用な事をしながら足を進めた。それを真似するクルール。ダメだってマネしちゃ!

 しばらく進むとうっすらと霧が晴れ、辺りの様子がよく見えてきた。が、相変わらずの背の高い草が生えている。

 やがて、草の背丈が低くなる頃、幾分(いくぶん)地面も固くなってきた。


 さらにボランの案内で歩んでいく。あの巨大ワニの遭遇以来、襲ってくるものはいないようだ。

 進んで行くと先に人工的な柵が見えてきた。何かの集落だろうか?

「ボラン! ここってわかる?」

「う~ん。さっぱりだな! ワハハ!」

 …聞かなきゃ良かった。マクレイに視線を向けると肩をすくめる。

 クルールは、はしゃいで疲れたのか俺の頭に座っている。落ちないかな?


 すると、柵の向こうから人影が現れ、こちらへ向かってくるみたいだ。警告がないから安全かな? きっと。

 姿が見えるようになると相手の様子がわかった。

 トカゲのような頭、恰幅(かっぷく)のいい人型の身体に尻尾が出ていた。皮の鎧を着け手には短い槍を持っている。

「リザードマンだ。ここは彼らの集落だったのか! 情報を得るには最適だな!」

 ボランが解説してくれた。なるほど、初めて見た! 背も高いから強そうだな。


「ようこそ、旅人よ。このガハラの村に用かな?」

 何故かボランが俺の背中を押してきた。え? あんたがリーダーじゃないの?

「こ、こんにちは! 俺はナオヤと申します。ここの近くにあるお宝を探してるところです。ご存知ですか?」

「そうか…。私はモドロ。お宝か、長老なら何か知っているかもしれないな」

 無い(あご)に手をやって考えているようだ。敵意が無いようなので安心した。

「じゃあ、案内いただけますか?」

「うむ、よかろう。だが、見たところ中々の手練れ揃いの様子、ぜひお手合わせをお願いしたい」

「それなら…。マクレイ? いいいかな?」

 振り返って見ると露骨に嫌な顔しているマクレイがいた。モドロは嬉しそうな顔をしている。

「頼むよマクレイ?」

「はぁ。わかったよ。こいつらタフだから面倒なのさ」

 ため息をついて、俺の横に来てくれた。と、モドロの横にフードを被った者が来て何事か(ささや)いている。

 モドロは頷くと視線を俺に合わせた。


「すまない。手合わせはナオヤにしてもらおう。いいかな?」

 マクレイがニヤッとして俺の肩を叩いた。えぇー! どう考えてもおかしいでしょ? こんなにひ弱なのに!

「ああ、アタシはいいよ。頑張ってナオ!」

 俺が答える間も与えず、マクレイが返事して俺を押し出した。勢いモドロに近づく。でかい! マクレイより大っきい!

「こ、ここで始めるの?」

 恐る恐る聞くと

「ぬ、スマン。ここでは不味いな。場所を変えよう。ついてきてくれ!」

 モドロとフードの人の後に付いていく。クルールとフィアは楽しそうだ。



 案内された先はちょっとした広場のようだ。集落からは少し離れていて、何人かのリザードマンが興味深そうにこちらを見ている。

 その中央でモドロと対峙(たいじ)している。なんか足が震えてるんですけど。肉弾戦なんかやったことないからめちゃ怖い。

「準備はいいかな? 武器は無いようだが…」

「ぶ、武器はあるけど、普段使わないから」

 短い槍を構えたモドロは口を歪めた。

「ほう。と、いうことは魔法か何かか…。よかろう! 面白い!」

 モドロの体が一瞬ブレたかと思ったら、目の前に現れ槍を下から突き出してきた!

 なんでこんな目に! 慌てて全力で後ろに飛び下がる。が、突き出した槍をそのまま移動してきた! 刺さりそう! もうダメ!


「ソイル!」

 地面が隆起し俺を持ち上げる。と、下の方で凄まじい音がした。槍とモドロが土壁に突撃したようだ。ふー、怖かった。汗を拭って下を見るとモドロが(すご)い早さで登って来た!

 妖精を助けた時の大蜘蛛を思い出す。この高さからじゃ逃げようが無いことに気がついた。いや、できる!


 その場から先へジャンプ! すると目の前に足場ができあがり、着地する。それに応じてモドロも反対側へジャンプした。

 すると一瞬の内に出てきた岩の手がモドロをつかみ地面に引きずり込む。槍を使い抵抗するが岩の手はびくともしない。そのまま地中に埋まっていった。


 首まで地面に埋まったモドロの元へ足場を下げて行く。

「どうかな?」

「うむ。私の完敗だ。まさか精霊使いとは恐れ入った」

 フードを被った人が駆けてきた。マクレイ達も寄ってくる。

「大丈夫?」

 埋まったモドロの元に座ってフードの人が聞いている。なんとなくシュールだ。

「ああ、大丈夫だ。ナオヤ、私の妻ユイカだ」

 俺に振り向きフードを取ると、黒髪を後ろで纏めている三〇代ぐらいの女性の顔が現れた。温和な雰囲気の美人だった。

「よろしくね、ナオヤ。夫と戦ってもらったのは“転移者”としての技量が見たかったからなの。ごめんなさい」

「いや、なんともないから大丈夫! こんなところにも同じ“転移者”がいたなんてビックリだよ!」

 モドロを地中から出しながら答える。

「ふふっ。いろいろあってね。私も驚いたの」


 そこにマクレイが割って入ってきた。

「ユイカって、あの“大魔法使い”様かい? アタシはあんたに憧れてたんだ!」

「あら? 昔の事を知ってるのね。さすが“紅蓮(ぐれん)の刃”ね」

「プッ」

 あ、吹き出したら頭つかまれた。横から睨んでくる…怖い。マクレイは向き直り、

「こんな所にいたなんて。魔法ギルドは血眼で探してるって噂だよ」

「はー、断ったのにねぇ。まったくしょうの無い人たち」

「客人。このようなところだが、我が家にお招きしたい。ぜひ来てくれ!」

 モドロが勧めてきた。ボランを見るとサムズアップしている。調子いいなぁ。

「ありがとう! こちらこそお願いします!」

「ははっ。堅苦しい言葉は不要だ。ついてきてくれ」

 モドロとユイカの後を皆でついて行く。


 モドロの家は木と(あし)を組み合わせたような素朴な造りで、平屋のようだ。といっても中は広々しており、大広間を中心に他の部屋に分かれている構造になっていた。ロックは門番のように玄関の扉の前で待っている。

 広間に案内され腰を下ろす。お茶を振る舞われ、お菓子に手をつける。どちらも故郷を思い出すような不思議な味がした。

 ユイカが作ったんだろうか? そうかもしれない。

 クルールはお菓子が気に入ったのか両手に持って食べている。フィアはその姿を見守っているようだ。マクレイは俺と一緒にボランにつきあっている。一応、クルールに水玉を出しておいた。

 それから、ボラン主導でこの集落に来た目的などを語った。


「なんと! 薬草の島のワニを退治したのか! これは有り難い!」

 モドロは握手を求めてきた。ボランは自分の手柄のようにドヤ顔で握りかえした。えぇー! 隠れてただけなのに?

「あそこのワニは大きくてタフで数が多いから困ってたの」

 ユイカが補足した。するとマクレイが

「でもユイカなら問題ないでしょ?」

「う~ん、私がやるとあの辺り一帯が無くなっちゃうから…」

「え? あ、ああ。そう…」

 軽い言葉で重い答えにマクレイは言葉がつまったようだ。なるほど、前に聞いた“転移者”は規格外のものが多いとは本当だったみたいだ。自分の身で考えたが、ほとんど精霊主のお陰だった。と言うことは普通だな、俺。〈そんな事ありませんよ〉とほほ。

「よし。じゃあ、私が長老に聞いてこよう。客人はくつろいでくれ」

 そう言うとモドロは玄関に向かっていった。

 マクレイは憧れのユイカと話している。俺はボランと今後の事を話しつつ、クルールとフィアと一緒に遊んだ。かわいいなぁ。


 しばらくしてマクレイがこちらに来た。耳が真っ赤でピクピクしてるぞ。

「ユイカが話したいってさ。い、行ってきな」

「どうしたの?」

「な、なんでもないよ! さっさと行きな!」

 押し出されてユイカの元まで行って隣に座る。

「こちらから行くべきだと思うけど、ごめんなさいね」

 ニコリとしたユイカに謝られた。

「いや、全然。近いし」

「ふふっ。ありがと」

 大人の魅力が場の雰囲気を変えているようだ。なんか照れてしまう。


「ところで、何でマクレイが真っ赤なの?」

「ああ! ん~、乙女の心得。かな?」

「は?」

「あの娘はいいの。それより、これを」

 そう言って、俺の手の上に小さな箱を置いた。

「これは?」

「ふふっ。同じ“転移者”が現れたら渡そうと思ってた物!」

 ユイカが微笑んでいる前で箱を開けて見る。


「こ、これは…」

「どお? 懐かしくないかな? 世代が違うから心配だけど」


 中には色あせたドラ〇も〇のピンバッジが入っていた…。胸に郷愁が滝のように落ちてきて過去の断片が次々と浮かんでくる。急に切なさと温かさと同時に涙が止まらなくなった。


「ご、ごめんなさい! 喜んでくれると思ったけど、逆効果だったみたい!」

 ユイカが慌ててる。涙を()いて答えた。

「いや、ち、違うんだ。ありがとう! 嬉しいんだ! 懐かしくて…。元の世界がずいぶん昔の事に思えてたから…」

 俺の両手を握ったユイカは

「わかる、その気持ち。ナオヤはこちらに来てまだ日が浅いのかな? 私もそういう時期があったよ」

「昔は四次〇ポケットなんてくだらないと思ってたけど、今は猛烈に欲しい!」

「ふふっ。わかる、わかる! ナオヤって面白いね」

 それから懐かしい話しをしたり色々な話題を楽しんだ。その内、クルールが来て一緒に遊んだ。

 ふと、視線を感じ後ろを見ると、慌てて目を逸らしたマクレイがいた。



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