36 森を抜けて
案内役の妖精と別れてしばらく歩いていくと、倒れた丸太に見慣れた背中が三つ並んでいた。
こっそり、近づいて声をかける。
「皆どうしたの?」
全員ビックリして少し浮いた。ハハッ! 少し面白い! マクレイが凄い勢いで振り向き、
「ナオ!」
そう言って抱きしめられた。なんでかわからないが嬉しい…が、痛い。胸の鎧が食い込んで痛い…。
「ゴメンよ。あの時、手を握ってればよかった…」
「わかったから、痛いよマクレイ…」
マクレイが慌てて離れる。顔真っ赤だ。俺のニヤケ顔を見て背を向ける。耳がピクピクしてるぞ。
「ナオヤさン。良かったデ、す?」
フィアが近づいて俺を見て首を傾げた。何? 何か付いてるの?
恐る恐るフィアが指をさして、
「そ、ソレは妖精さんでスか?」
と聞いてきた。ふと、肩口をみると、例の助けた妖精がちょこんと座っていた。あ、忘れてた……。
「ああ、ちょっとケガをしててね。って、マクレイ!」
真っ赤なマクレイを呼ぶ。
「今度は何だい?」
「実は、この妖精がケガをしてるんだけど、治せそう?」
肩から妖精をそっと手に乗せマクレイに見せる。少し怯え震えて、涙目で俺を見ている。もうやめて、何してもかわいいから。
「大丈夫だよ。この人が君の傷を治すから」
そう囁いて落ち着かせる。その間、マクレイは傷ついた羽の様子を見ている。
「多分、治るよ。そんなに深刻な傷じゃないね」
「ホント! お願い!」
マクレイは難しい顔をしながら
「ここまで小さいと加減がねぇ…。ま、やってみるよ」
妖精の背に手を当てて集中している。じっとしている妖精はムズ痒そうだ。しばらくして手を離した。
「これで大丈夫だよ。しばらくは飛ばない方がいいね」
「ありがとう! マクレイ! 良かったね。これで仲間の所に帰れるな!」
美人さんにお礼を言って、妖精に話しかける。妖精は治った羽をマジマジ見て、嬉しそうに頷いた。
少し落ち着いたところで霧によって別れた後の事をマクレイ達に話した。フィアが目をキラキラさせながら妖精を見ている。
俺がいなくなった後、マクレイ達はあちこち探していたが見つからず途方に暮れて丸太の上で休んでいたそうだ。
無事再会できたのでお昼にした。
妖精には千切った干し肉と硬いパンの欠片を出して、飲み物はアクアに水玉を出してもらう。
妖精の可愛さにマクレイも目尻が下がっている。フィアはずっとガン見している。全員が見守る中モグモグ頬を膨らませていた妖精は視線に気が付いたらしく、顔を真っ赤にしながら俺を蹴ってきた。
「ゴメン、ゴメン! あんまりにも可愛かったから見てた」
今度は全身真っ赤になって蹴り始めた。それでもフィアは見てた。
「はぁ~。マクレイさンが言っていた事がわかりまシた。これは持ち帰りたいデす」
「そうだねぇ。でも、あんまり見てるのは悪いよ」
とか言いながら美人さんもトロけた笑顔で見てた。妖精はあれだな、人を堕落させる危険な生物かも。
妖精は食べたら満足したらしく、俺の頭の上で休み始めた。慣れてくれるのは嬉しいけど、落としそうで怖い。
俺の頭に注目してたマクレイと目が合った。トロ目になってるのが可愛らしく、
「妖精がいると、マクレイもフィアも可愛くなるね!」
つい口走った。ハッと気が付いた美人さんは真っ赤になってそっぽを向いた。フィアも視線を逸らした。その姿が可笑しくなって吹き出した。
「プッ!」
あ痛っ! 口元つかまれた!
「ああ、何吹いてんだい?」
「ふしゅしゅー。ふしゅふしゅ」
全然言えねぇー。トロ顔が鬼になった。
「何言ってんだい? アタシはそんなに可愛くないの!」
「ふしゅしゅ、しゅしゅ!」
「二人トも、やめてくだサい! 起きまスよ!」
フィアに怒られた。マクレイは手を離して背中を向け、フィアはそっと俺の頭の上を見守ってた。
しばらくして目が覚めた妖精は羽の状態を確認して、フワフワと浮かんだ。
「おお! 治ったんだ! 良かったね!」
妖精はニッコリして嬉しそうだ。俺の回りを飛び始めた。皆ニコニコしている。
「それじゃあ、帰り道はわかるかな? 気をつけて仲間のところに戻るんだよ!」
フワフワ飛んでる妖精の頭を指で撫でて、手を振った。
少し悲しそうな顔をして頷くと森の奥の方へ飛んで行った…。
振り返ると、なんとなく寂しげなマクレイとフィアとロックがいた。そんなに可愛かったのか…。
「ほら、寂しいかもしれないけど行こう!」
皆に声を掛けた時、後頭部に何かがぶつかって来た。何事かと掴んでみると、手にはあの妖精がいた…。
「な、何で戻ってきたの?」
フルフル涙目で何かを訴えている。全然わからん。
「一緒に行きたいの?」
聞くと凄い勢いで頷いてきた。いや、嬉しいけど…。マクレイとフィアを見ると首を縦に振っている。マジで?
「でも、俺達といると危険な事とかあるよ? それでもいいの? それに妖精王さんにも言ってあるの?」
勢いそのまま頷いている。妖精王には絶対言ってないだろ、これ。ちらりとマクレイ達を見るとニコニコしている。しょうがないなぁ。
「もう。わかった! じゃ、一緒に行こう。でも本当に危険な時は逃げるんだよ?」
めちゃ笑顔で頷き跳ねている。そして俺の肩に降りて座った。そこは定位置ですか?
「ところで名前は?」
聞くと顎に指をつけて首をかしげている。え? 妖精って名前がないの?
そして、身振りでなにか付けて欲しそうな感じがする。再びマクレイ達を見ると首を縦に振っている。お任せですね。
「えっと、えーと“クルール”ってのはどう?」
嬉しそうに頷いて喜んでいる。
『ありがとう! 嬉しいっ!』
はっ! 頭に声が響く! 誰? ひょっとして?
「え? 喋れるの?」
クルールに聞くと楽しそうに頷いている。
『ナオヤの頭に言ってるのー!』
「そうなんだ! よろしくね!」
『よろしくねー!』
そう言いながらフワフワ飛んでる。マクレイ達は温かい目で見てるし…。
クルールをマクレイ達の元へ連れていき、それぞれ紹介して挨拶する。だが、クルールの声は聞こえないみたいだ。
ようやく落ち着いたので、移動を始めた。
クルールの定位置は俺の肩と頭になったようだ。たまにロックの頭の上で休んでいる。フィアも新しい仲間に嬉しそうだ。
マクレイは今、横を歩いていてチラチラとクルールを観察している。
「…そんなに気になるなら、話しかければ?」
「なっ! ち、違うよ! ナオがまた消え…って、なんでもないよ!」
プイっと横を向いた。耳がピクピクしてるぞ。まったく素直じゃないんだから。
「ほら!」
マクレイの手を握った。予想と違って今日は抵抗しない…。ちょっとドキドキしてきた。ちらりと横を見ると顔を背けているマクレイがいた。耳が赤いぞ美人さん。
妖精の明るいハミングを風に乗せ、森を抜けて進んでいく。
新たな仲間が増えました。
しばらくはこのメンバーで話しは進みます。




