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31 救出

 

「よし! まずは俺の声をフィアとカレンに届けてくれ、ベントゥス!」

 一陣の風が髪をなでて町へ吹いていった。ありがとう。

「それで?」

 マクレイが聞いてきた。

「これからフィアとカレンを地中からこの近くまで移動する。出てきたら救出してくれ。あの屋敷はぶっ潰す!」

「ハハッ! 町に乗り込むかと思ったよ。とんでもないね、ナオは!」

 頭をくしゃくしゃされて肩を叩かれた。おぅ、眠気が飛んだよ。


「ソイル!」

 静まり返った町が一瞬、ドン! と縦に揺れた後、屋敷全体が浮き上がり落ちる。そして連続して地面が隆起し屋敷が縦に振動していき、崩壊していった。と、同時に俺達の前方に箱型の岩が迫り出してくる。

 箱型の岩の前面が崩れ、フィアとカレンの姿が見えた。マクレイは二人に向かって走っている。

 二人を抱えてマクレイがこちらに向かっているのを確認してから箱型の岩を地中に戻し、痕跡を消す。後ろを振り向きモルティットを見ると追撃や追っ手はいないようだ。ホッとして、マクレイ達が戻ってくるのを待つ。

「さ、早めに離れよう!」

 マクレイが来たところで声をかける。抱えられている二人にも同様に、

「フィア、カレン、何も言わずにゴメン。後で話すから今は急ごう!」

 そう言って一緒に走る。二人は(うなず)いて応える。そしてモルティットとロックに合流して、この場所を離れた。


 たぶん、領主の現場は混乱して追跡は遅くなると思うが、できる限り離れて身を隠せる所で休んだ。

「今のところは大丈夫だ。追ってくる者はいない」

 ソイルに確認して皆に報告する。今回は大活躍なソイルさんには、お礼を言っても足りないくらいだ。〈フフ、ありがとう〉

 安心したらドッと疲れが押してきた。気力も尽きた…。ヨロヨロとして倒れそうになったのをマクレイが抱えて支えてくれた。

「ナオ?」

 俺を呼ぶ声が聞こえたが、世界が真っ暗になった。



 ハッ! 気がついた! どこ? ここ?

 上半身を起こして周りを見てみる。葉を広げた大木がちらほら見える。森かな? 横にはフィアがいた。

「ナオヤさン。起きましタか」

「ああ、どうなってるの?」

「今は森に入ったところデす。気がついて良かっタ」

 フィアが俺の手を取って喜んでいる。近くにいたらしいマクレイとロックが気がついて側に寄って来た。

「ナオ! 良かった!」

 マクレイがフィアの肩に手を置く。カレンが出てきて、

「ナオヤさん、ありがとう。フィアさんから説明を聞きました。少し恨みましたが、今は感謝しています」

 頭を下げた。その後ろでマクレイが微笑んでいる。どんな説明したの?

「無事で良かった。ごめんね、何も説明しないで…」

「ホントです! もうダメかと思った!」

 カレンは笑っている。そう言ってもらえると助かる。


「あら? もう大丈夫なのかな?」

 モルティットも来た。

「ああ、心配かけてすまない」

「ふふっ。マクレイディアだけ、心配してるのは」

「ワタシも心配してまシた!」

「ヴ!」

 からかってきたモルティットにフィアとロックが抗議した。マクレイは苦笑いしている。

 俺が倒れた後、ロックが俺とカレンを抱えて移動し、エルフの影響力がある大森林にまで来たそうだ。森に入ってしまばらく進んだところで野営して皆が休んでいる所だった。


「もう立てるかい?」

 手を差し出しマクレイが聞いてきた。しっかり手を取って立ち上がる。

「もちろん! マクレイは?」

「アタシはいつでも平気だよ」

 笑って答える。この美人さんは疲れ知らずかな?


 そのまま今日は野営し、翌日から大森林の奥へ歩き始めた。

 領主と文官達の事はしばらく大丈夫だろう。自然の災害に偽装してたはずなので疑われないと思う。モルティットによれば、こんなピンポイントで大規模な魔法は見たことがないそうなので、フィアとカレンは地中に埋まっていると思われてくれればいいね、との事。俺もそう願う。

 “大森林”と呼ばれるだけあって、大木があちこちにそびえ立ち、葉が生茂(おいしげ)った隙間から青空が覗いている。地面は苔むした場所が所々にあり、日の光が所々照らして何とも神秘的な雰囲気が続いていた。

 似たような景色が続くので、どのくらい進んでいるのかさっぱりわからない。特に魔物にも襲われていないのは幸いだ。

 さすがに疲れて、ロックに甘えたら拒否され、しばらく歩いたあたりで野営することになった。



「はぁ~。もう疲れたー」

 大木の根元に寄りかかって腰を下ろした。隣にいたカレンが

「ナオヤってホントに体力が無いんですね。私と同じぐらい?」

 笑いながら横に座ってきた。

「う~ん。そうかもねー。俺もロックに運んでほしい」

「アハハッ。それじゃ、モルティットが歩かないといけないよ?」

「本当はモルティットは全然歩けるの! 俺の数倍は体力あるんだよ!」

 意外な顔をカレンはしている。あの容姿に騙されてるな。

「あら? 私の事、話してるの? 惚れちゃった?」

 モルティットが会話に入ってきた。これまた俺の横に腰を下ろした。カレンが口に手を当てている。

「あー、もう! なんでそうなるんだ! ロック助けて!」

 立ち上がってロックの元に行く、後ろでモルティットとカレンが笑っている。ロックは周りを見渡せる場所で(たたず)んでいた。

「ロック~。モルティットをなんとかして!」

「ヴ」

 え、無理って? ロックは誰を守ってるのかな? 俺は悲しい…


 しばらくしてマクレイが狩りから戻ってきた。久しぶりに温かい夕食にありつけそうだ。

 謎の魔物の肉を焼き、スープを堪能した後、皆が団らんしている横でなかなか進まない勉強を俺はフィアとしている。


 文字の書き取りを終えたところで、用を足しにフィアに断って野営地から少し離れた場所に行く。

 ちょうどいい所を探していると歌声が聞こえた。誰だろうと小川の流れる茂みをかき分けて、

「マクレイ?」

 声をかけて近づくと、全裸のカレンがビックリしてこちらを見てた。〈………〉

「きゃっ!!」

 カレンは胸を隠して後ろを向いた。

「ご、ごめん! き、気がつかなくて! ま、マクレイだと思って!」

 俺も慌てて後ろを向き謝る。


「…わかったから! 向こうに行って!!」

 カレンが後ろから叫ぶ。素直に従い二、三歩ほど足を出して気がついた。はっ、これはラッキースケベじゃないだろうか?

 少し考え立ち止まる。

「いや、俺はこのままゆっくり振り向くから、頑張って服を着てください!」

「えぇ~! なんなの! 早く向こうに行って!!」

 悲鳴にも似た叫びが背後から聞こえた。しかし、このままではいけない!

「違う! 誤解してるかもしれないが、カレンにケガが無いか確認するだけだ! 魔物がいたかも?」

 我ながら恐ろしいほどの機転がさく裂した。


 そして後ろを振り向こうとした時、頭を誰かにつかまれた。圧力がかかって痛い!

「へぇ~、代わりにアタシが確認しようか?」

 あら、マクレイさんの声が耳元から聞こえる。幻聴かな? でも、この痛みは本物だ。

「ち、違うんだ! マクレイ! 偶然なんだ! ホント! 偶然!」

「偶然だったら、そまま帰ってくればいいだけだ! なんで悲鳴が聞こえるんだい?」

 あてててて…。圧力が高まってる!

「スミマセン! 誤解です!」


 そのまま野営地へ引きずられて、正座させられた。フィアが困ったような仕草をして、

「ごめんなサい。ワタシがもっと注意していればよかっタ」

「いや、フィアは悪くない!」

 俺が反論したらマクレイに頭を引っ叩かれた。

「そうだよ! コイツが悪いのさ! カレンも一言いってやりな!」

 カレンは真っ赤な顔してズンズンと足を踏み鳴らしてこちらへ来た。ああ、もう駄目だ。

「もう! せっかく見直してたのに! このスケベ!!」

 (ほほ)を引っ叩かれた。正直言うと全然痛くない。美人さんに殴られた方が効くな。って、こんなのに慣れるって…。


 その後、カレンの機嫌が直るまで謝り倒した。

「ふふっ。ホント面白いね。ナオはさ」

 テントに入って寝る前、モルティットが感想を漏らす。俺は面白くないよ?



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