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3 契約

 

 手を差し伸べ微動にしない人型の岩……。どうしたものか…。

 あまり恐怖を感じないのはその姿のせいかな?

 恐るおそる石の指をつかむ。と、ビッと頭の中に電流が流れ何かが解放されたような感覚があった。


「ヴ!」

 人型の岩が声を発した。「どうもよろしくね」的な感情が伝わってくる。不思議な感じ。

 何? 今ので何かのつながりが出来たのかな? 立ち上がり恐る恐る聞いてみる。

「えーと、お前が俺を呼んだの?」

「ヴ、ヴ」

 違うらしい。

「名前とかってある?」

「ヴ、ヴ」

 名前は無いみたいだ。なんか俺に名付けをしてほしい感情が流れてくる。うーん。

「じ、じゃあ、名前は“ロック”でいいかな? あ、ちなみに俺はナオヤ!」

 安直すぎたかな? でも他は何も思い付かない。少しの沈黙の後、


「ヴ!」

 (うなず)いているので気に入ってもらえたようだ。とりあずの問題は解決したが、どうしようか? とりあえずマクレイにでも聞いてみるか。

 先ほどいた方に足を向けると後ろからロックがついてきた。



「な、なんでそんなんがいるんだ!」

 マクレイが慌てて立ち上がり身構えているので安心させるために笑顔で紹介する。

「ああ、彼は“ロック”っていうんだ。そこの岩から出てきた」

「はぁ!? ただのゴーレムじゃないって事? ナオ! お前は変わってる!」

 ロックを指し示す。

 そんな事言われても…。しかも“ナオ”で通すつもりか頑固者め。


「出てきたもんはしょうがないだろ? それよりマクレイは何でここにいるんだ?」

「え!? い、いや、う~ん何て言うか。捕まってる?」

 ナゼ疑問形? アタフタしてるな。美人だから可愛いもんだ。と、よく見たら左足に鎖が巻かれて近くの岩に止めてあった。

「この鎖は外れないの?」

「無理だ。特殊な加工がしてあって、叩いても引っ張ってもビクともしないよ…」

 マクレイが鎖を引っ張って実演してくれている。ホントに頑丈(がんじょう)そうだ。

「じゃあ、このまま……」

 なんか可哀そうになってきた。いそいそと干し肉と水筒を取り出し渡す。

「ああっ! くれるのか? ありがと!」

 物凄(ものすご)い勢いで食い物と水筒を奪われ、ガツガツと食い始めた。どんだけここに居たんだ…。

 とりあえず鎖を見ようとして、屈んで(つか)んでみるとボロボロと腐ったように崩れた。なんで?


「ブーーーーー!!」

 マクレイが水筒を傾け飲んでた水を盛大に吹き出す。キラキラ少し虹が見えた。あれだな、今はもう美人じゃなくなった。俺の中で。

 慌てたマクレイが声を上げた。

「お、お前! 何をやった!?」

「いや、触っただけ、だけど?」

「じゃあ、ホントにみちび……ゴホン! ゴホン!」

 マクレイが驚き、続けて言おうとしていたが誤魔化しはじめる。なんだ?


「え? 何?」

「な、何でもない! とりあえず助かった! 礼を言うよ!」

 不思議な事だか彼女は解放されたようだ。水でビチャビチャになった顔を(ぬぐ)いながら礼を言われる。

「ところで、ここにいて良く平気だったな? 危険はなかったのか?」

 少し疑問に思って聞いてみる。あの巨大猪みたいのがウロウロしてそうだし。

「ああ、この辺りは聖域になっていて魔物は近づかないのさ。おかけで捕まえて食う事も出来なかった……」

 うな垂れながらマクレイが答える。危険はコイツだった!


「この場所に隠し扉とかはあるかな?」

「突然何を言うかと思えば! そんなのは無かったよ。それにもう用事は済んだんでしょ? 明日、近くの村か町までならお礼も兼ねて送って行くよ」

 ありがたい申し出だが、まだ呼ばれている感覚が強い。何かが袖を引っ張っているのに気がついた。振り向くとロックが手を伸ばしていた。

「ヴ!」

「え!? 知っているって? おおー! それじゃ案内ヨロシク!」

 俺とロックの会話にマクレイがビックリしている。

「ゴーレ……ロックが知ってるって事? それより、ナオは言っていることがわかるの?」

「うーん、なんとなく?」

「ヴ」

 するとマクレイが頭をクシャクシャにして叫んだ。

「あーもう! アタシはこれでも旅をして色々と見聞(けんぶん)はある方だと思ったけど、ナオに会ってから不思議が多い~~!」

「そりゃ、俺も同じだし。旅はしてないけど」

 俺も苦笑いで同意する。しかし、ホントに不思議だなぁ。



 連れられて来たのはロックがちょうど出てきた岩だった。離れた部分が()り抜かれている。

 ロックが前に立つとギシギシと岩が動いて洞窟の入り口が現れ奥の方から呼ばれる気配が強くなる。ここで間違いないようだ。

「は~、こんなのがあるなんて知らなかったよ」

 入り口を覗き込んだマクレイが(つぶや)く。同感だし、ちょっとビビっているのは内緒だ。

 ロックを先頭に洞窟の奥に進む。壁自体が薄明かりを発光しているおかげで歩くには支障のない感じだ。しばらく進むとやや天井の高い円形の広間に出た。中央に丸い台座があり、いかにも乗ってください的な雰囲気だ。


「ヴ!」

 案の定、ロックから台座に乗るよう(もよお)された。マクレイは両腕を組み後ろで静観している。へっぴり腰で台座に近づき振り返ってロックを見る。

「ヴ!!」

 怒られた。“行け”って事ね。

 気を取り直して台座に上がる。と、目の前に光の環が現れ強烈な輝きを放つ!


 あまりの眩しさに手を上げ光を(さえぎ)る。やがて明るさが(やわ)らぐとそこには神話に出てくるような服を着たとても美しい女性が宙に浮かんでいる。俺を見つめ微笑むと口を開く。

『お待ちしておりました。“契約者”よ』

 え!? 俺が? “契約者”ってなんの事?

『あなたがこの地に立たれた時から導きをしておりました。さあ、契約を!』

「ちょ、ちょっと待て! “契約”ってなんの事?」

 あまりにも唐突すぎる! 説明してくれ!!

『私は土の精霊主。この世界の土の精霊を束ねる主。精霊主と契約できる者をお待ちしておりました』

 何言ってんだか? ファンタジー過ぎる! 改めて思った、ホントに異世界だ!


「け、契約はいいけど、何をすればいいんんだ?」

『何も。“契約者”の望む時に私をお使いください。私はあなたの中に宿ります』

 もう、ダメだ。ついてけない。好きにして。ああ、でもあと一つ。

「ロックはどうするんだ?」

『この子……ロックは“契約者”の守護をする者。どうぞ行く先々のお供にしてください』

「な、なるほど、わかったよ。あ、あと最後に」

『何か?』

 美しい顔を傾け不思議そうに見つめる。

「名前を教えてほしい」

『フフ……私に名前などありません。“土の精霊主”とでもお呼びください』

「じゃあ、勝手につけるけど“ソイル”でいいかな?」

『お好きにしてください。ただ、私に名前を付けた人はあなた様が初めてです。ありがとう』

「そ、そうか……。俺はナオヤっていいます」

 やっちまった感がハンパない。しかも適当な名前だし。

 にこやかに頷いた土の精霊主ソイルは中空から俺に手を伸ばしてきた。

『さあ! 契約を!』

 つられて手を(つか)む。

 すると、ソイルが俺の中に注ぎ込まれるように入ってっきた! 右腕が少しむず(かゆ)いがこれが“契約”なのだろうか?


「……終わったのかな?」

 そう(つぶや)きつつ台座から降りる。

 ふと見ると、ロックとマクレイが(ひざまず)いている。え!? なんで?

「えと、マクレイ、ロック、契約は終わったみたいだ」

 声を掛けると、マクレイは慌てて立ち上がり何でもない風を装ってる…。ロックは待機中な感じだ。

 気を取り直したマクレイが近づく。


「と、ところでナオは契約できたの?」

「多分できた。ところで精霊ってどう使うかわかる?」

「ああ、近頃は精霊様との契約ができる者が減ったからね、解らないのも無理は無いね。精霊様は使用者の望みに応えてくれるんだ。例えば土の精霊様なら土に関わる事なら大抵は出来るよ。土の壁だったり、土に穴をあけたりとか」

「なるほど。明日、試してみるか…。ところで何で(ひざまず)いてたの?」

 ギョッとした顔をするマクレイ…ちゃんと見えてましたよ。

「え!? そりゃ、精霊主様なんて初めてお会いしたし。って、今でもナオの中にいるのか…。と、とにかく敬う存在なの!」

「へぇ~、もっとありそうだけどね?」

「うっさい! 今日はここで休むよ! ここなら安全だしね! あー眠くなった! アタシは寝るよ!」

 一気に言うだけ言ってマクレイは横になった。しかし、精霊か…どうなるんだろ?


「ヴ」

 ロックが一応見張ってくれるみたいだ。お言葉に甘えよう。

「ありがと。ロック。お休み!」

 そう言ってから道具があることを思い出し毛布を()いて横になる。マクレイにもと思ったが、すでに寝ているようだ。

 しかし、怒涛の一日だった。よく無事だったな。

 目を閉じると直ぐに眠りについた。



補足ですが、主人公は精霊主に認められている者なので、契約は簡単にできる仕様です。

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