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28 野営

 

「ナオ、いいかい?」

「ああ、どうぞ」

 マクレイが来た。向こうに行こうとも思ったが、モルティットがいるので躊躇(ちゅうちょ)していたので助かった。とりあえず、ベッドに座ってもらう。なんか二人っきりって久々だな、ソワソワしてしまう。そ、そうだ、説明をしなければ!

「あのさ、モルティットの借りの事なんだけど…」

「ああ、言ってたねぇ。そういえば」

 って、身を乗り出してきた。めちゃ聞きたいんじゃ? ベッドの端っこに座ってたのにだいぶ近づいてきた。


 言い訳ではないけど、シーサーペントの件を隠さず話す。話しの途中からマクレイの顔が鬼になってきた…。お、俺が悪いのか? なんか怖い。一通り話して相手の反応を待つ。なんかバイト面接の時みたいだ。変な緊張をしてしまう……。

 一通り聞いたマクレイがため息をついて感想を述べた。

「……そういう事かい。もっと悪いことを考えてたよ」

「えっ!? どんな事?」

「い、いいだろ! とにかく、そんな事で良かったよ」

 鬼から仏に変わった…。はー、助かったー。なんか安心したら気が楽になった。

「そういや、モルティットと同じ部屋で大丈夫?」

「別に大丈夫さ。昔を思い出すよ。今はフィアが質問攻めにあってるよ」

「そりゃ大変だ…。大丈夫かなフィア?」

「たぶんね。あの子もマジメだからねぇ」

 それからマクレイはベッドから立ち上がってドアに向かった。そして出るときに、

「ナオ」

「何?」

「看病ありがと。感謝してるよ、じゃあね」

 そう言って出て行った。…よく考えたら色々出来たんじゃないか? 二人きりだったのに。しまった…。

 その日は後悔しつつ寝た……。



 次の日、荷物をまとめこの港町から出て東の大陸に入っていく。

 大森林まではモルティットが道案内する。マクレイも知ってる様子だが沈黙したままだ。

「さっ、皆さん行きましょうか!」

 モルティットが先導し、後についていく。彼女の話では大森林には徒歩で数日程度はかかるようだ。この人数、しかも一番体力が無い俺がいるとなるともう少しかかるかもだ。

 しばらく道沿いに歩いていたが途中から道を外れて草原へと進んでいった。


「ナオはこっちでいいのかい?」

 マクレイが聞いてきた。

「たぶん。方向は合ってるよ」

 と返事をしたが、導きは感覚しかないから多少ずれても大丈夫。モルティットは気にしてないようでペースを守って歩いている。フィアは俺と手をつないでいる。一応、動力の補給だ。ロックは殿(しんがり)で皆を守っている。

 はー、のどかでいいねぇ。日もポカポカで気温も丁度いい。なんかピクニック気分だな。ま、急いでいる旅でもないし、ここいらでお昼なんてのはどうかな? 提案してみよう。

「マクレイ、モルティット、フィア。ここらへんでお昼でもどお?」


「「……」」

「あノ、ナオヤさン。ついさっき港町を出たばかりでスよ」

 代表してフィアが答える。あれ? 不評だ…。絶対いいと思ったのに。

 隣にいたマクレイが頭をくしゃくしゃにして、

「しょうがないねぇ。もう少ししたら休もうか?」

 ああ、マクレイが譲歩してきた! 今は天使に見える! モルティットが驚いたようで

「やっぱり変わったね。ふふっ」

「全然、変わってないよ! フン!」

 マクレイがズンズン前に行ってしまった。昔は相当荒れていたんだろうか? 謎だ。


 しばらく進んで、小高い所で昼食を取った。思った通りに居心地の良い場所だったので満足した。皆の表情を見てたが、そんな悪い感じはなかったので安心した。その後、魔物なども出ずに順調に進み日が落ちていった。



「じゃ、この辺で野営の準備をするかい? ナオ、お願い!」

「はいよ。ソイル」

 いつものようにソイルにお願いして野営地を整備していった。

「ちょっと待って! ナオは水の精霊主様だけじゃないの?」

 ビックリしたモルティットが声を上げた。あれ? 言ってなかったっけ? マクレイがニヤニヤしてる。

「えーと、後、風の精霊主もいるよ」

「えぇー? ま、待って、待って! そんなの聞いたこともない! マクレイは知っているの?」

「ああ、もちろん!」

 なぜかドヤ顔で応えるマクレイ。モルティットは茫然としている。とりあえず、茫然としている人はほっといて、準備をして夜食になった。


「ナオは次も行くわけだよね? 伝説でもそんな話、書かれてないし」

 回復したモルティットがまた言い始めた。

「アタシも最初はびっくりしたけど、しょうがないんじゃない?」

 美人さんが適当に応える。ま、確かにそうだけど…。マジマジと俺をみたモルティットは、

「はぁ~。これは里で知れたら大問題ね。でも確かに私達が決める事ではないかもね」

「でしょ?」

 マクレイも相槌(あいづち)を打つ。

「なんか大事(おおごと)になりそうかな?」

 俺の質問に二人して(にら)まれた。なんなのエルフって、美人ばかりだからドキドキする。

「ま、ナオはいつものことだね!」

 今度はマクレイに微笑まれた。なんだこれ。


 そして、マクレイはいつもの位置に座って剣の手入れをはじめ、モルティットは何故かロックを観察している。俺は日課の勉強をフィアに習っている。船ではマクレイの看病ばっかりだったから、久々かも。

 しばらくしてモルティットが勉強しているのを見学してきた。

「あら? 共通語の勉強なわけ? 偉いね!」

「だいぶナオヤさんも覚えてきましタよ」

 フィアがフォローしてくれる。俺は無言だ。

「へぇ~。だったらエルフ語も覚える? 役に立つよ」

 ありがたいが、もういっぱいいっぱいです。勘弁してください。と顔に出てたらしく、

「ふふっ。ホントわかりやすいね、ナオは」

「で、デも。頑張ってまスよ」

 フィアありがとう。ダメな生徒でゴメンね。と、モルティットが横に座ってきた。

「じゃ、私も教えるね。暇だし」

「えー! フィアで大丈夫だから!」

「なんで? マクレイディアならいいの?」

 美しい顔立ちで困ったように迫ってくる。ドキドキするからやめて!


「いや、それはダメだ!」

「どうして?」

「あーもう! 美人さんが二人も近くにいたら別のやる気に火が付くだろ!」

 拳を握って叫んだ。モルティットはあっけにとられた顔をしてる。向こうにいるマクレイは肩を震わせていた。


「さ、続けましょウか…」

 なんて冷静なんだフィアは……。俺もいそいそと勉強を再開した。

 正気に戻ったモルティットはマクレイの元に行って話しをしている。時折笑い声が聞こえる…。気になる。

「ナオヤさン。集中でスよ」

 はっ。注意された。そうだ勉強中だった。それから雑念渦巻く中で勉強し、寝た。



 それから数日、道なき道を歩いている。モルティットも俺達との旅も慣れてきたようで、今はロックに抱えられている。

 慣れすぎっていうか、ロック、何故俺には楽させてくれないんだ?

「はぁ~。楽ねぇ。ロックが欲しいなぁ」

 なんか甘えた声でモルティットが言ってきた。

「ロックは誰のものでもないから! 降りて自分の足で歩いてくれ! 羨ましい!」

「プ。最後は何なの? ロックに言えばいいじゃない?」

 吹き出すモルティットは笑顔だ。

「ヴ」

「ほら! ロックは俺に厳しいの!」

 するとロックはモルティットをそっと降ろした。残念そうな顔をしている。

「あら、残念。ナオ! あなたが言うからよ!」

「ええ!? 俺のせいじゃないだろ?」


 前を歩いていたマクレイが振り向く。

「あんまり騒ぐと魔物が来るよ!」

 注意してきた。モルティットはニヤニヤしながら、

「あら? 妬いてるの?」

「ち、違うよ!」

「あら? あら?」

 と、マクレイの(そば)に寄ってからかっている。最近こんな感じが増えてるな…。


「西の大陸とは違いまスね。少し変わっていて面白いデす」

 フィアがきょろきょろしている。

「そう? あんまり分からないけど、過ごしやすいのは確かだね」

「ナオヤさンは、興味がなさそうでスね」

「うーん、そうだなー。フィアって研究肌だよね」

「フフ、そうかも知れませンね」

 と、フィアと会話していたら、丘の向こうから何かが見えた。


「マクレイ! あれ!」

「ああ、見えてるよ。みんな集まって!」

「うーん。誰か追われているね」

 マクレイが声を上げて、モルティットが確認している。

 やがて詳しく見えてきた。おっさんがめちゃ頑張って逃げている。その後ろには緑色の魔物が複数、追いかけていた。

「ありゃ、ゴブリンだね。モルティットがやるかい?」

「え~、面倒くさいなぁ。そういうのはマクレイディアが得意でしょ?」

「じゃあ、俺が…」

 マクレイが俺の頭をつかんだ。なぜ?

「ナオはやりすぎるからダメ!」

「そなんことないよー」

 顔を近づけてきた。なんだ、何したいの? しょうがないから、目を閉じて唇を突き出してみる。

「な、こんな時に! この男は~!」

 あ、体が浮いた。視界が回転する。って、痛っ! 地面に転がる。もうダメだ。


「アハハ! あなた達、いつもそうね。わかった。私が出る!」

 モルティットは補助器を取り出し、詠唱を始めた。その間、フィアの手を借りて立ち上がった。

 逃げるおっさんもこちらに気が付いたらしく、スピードを上げて向かってきた。

 巻き込む気満々だね。



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