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27 航海

 

 出港してから三日、……もうウンザリだ。

 波に揺られ、(せま)い船の中。食べ物は固いパンとワイン。そしてやることが無い。あのワクワク感を返せ! …しょうがないので、デッキに行って海を眺める。

 見渡す限り海……。マクレイは船酔いで寝ているし、フィアは看病だ。ロックは何故か船尾にいる。あー、何もない。


 ふと横に誰かが来た。

「あら、退屈そうね。“契約者”様」

「モルティット。その名前で呼ばないで!」

「ふふっ。じゃ、ナオ。マクレイディアの看病はいいの?」

「近寄ると威嚇(いかく)されるから無理」

「ホント面白いね。あなた達」

 モルティットは俺の横で、海を背にして風に透き通るような白色の髪をワサワサとなびかせている。こうして見るとずいぶんと美人だ。あれかな、エルフって美人しかいないのかな? 横を向いたままモルティットが口を開いた。


「あんまり見つめられても困るなー。マクレイディアに言うよ」

「そうじゃないって! エルフって皆、美形なのかなって観察してたんだ!」

「へ~。まぁ、珍しいのかなぁ? 美形ねぇ。人族にはよく言われるかなぁ」

「だろ? 俺達の美意識にふれる何かがあるんだよ! たぶん……」

 何かよくわからない事を言って誤魔化した。でも、無理な気がする。モルティットが横目で見てまた視線を戻した。

「ま、そう言う事にしときましょ!」

 と、アクアが何かを感知したようだ。何だろう?

 デッキから身を乗り出してアクアが示す方向を見渡す。何もない海が広がっている…。モルティットも様子がおかしいと気が付いたようだ。


「? どうしたの?」

「何かがこちらに向かって来てるようだ。水の精霊主が教えてくれた」

「さすがねぇ。これは準備した方がいいかな?」

 モルティットは懐から短いツボ押し棒のようなものを取り出した。それを手にブツブツ(つぶや)いている。初めて見る仕草にマジマジ見てると、

「あら、魔法を見るのは初めてかな? これは補助器で威力を高める物なの。今、発動の準備をしているところ」

「解説ありがとう。なるほどね!」

 と、船のマスト上部から叫び声が聞こえてきた。

「シーサーペントだ!! こっちに近づいてくるぞ!!」

 すると船が騒然となり、あちこちから人が移動し始めた。船長が大声で指示している。


 海を見ると海面が盛り上がり蛇の背中がうねりながら動いて近づいてきている。場所的に俺達がいる所が近いようだ。魔導銃を持った船員が集まってきている。

「あんた達は危ないから、下がってくれ!」

 船員の一人に言われたので場所を譲り、横に移動した。モルティットを見ると魔法の準備は済んだようだ。ロックがいつの間にか俺の背後に来ていた。頼もしいなぁ、ロックは。

「ロック、みんなを守ってくれ!」

「ヴ!」

「よし、じゃあ何とかしますか!」

 近寄ってくるシーサーペントを見ながら声を出すと、モルティットが制止して、

「先に私にさせて、ナオの評価が低いから」

「えっ? そ、そんな事ないよ。マクレイの次ぐらいには入るよ」

「はぁ……。どうでも良くなったけど、実力を見せてあげる!」

 困ったようにモルティットが言うのと同時に船体のほうから轟音が上がった。振動と共にシーサーペントの付近に水しぶきが上がる。甲板の上では船員が魔導銃を構えている。


 海面が盛り上がりシーサーペントが首をもたげ出てきて威嚇(いかく)してきた。でかい! 細身の体だが優に一〇メートルはありそうだ。こんなん近くにいたら怖えぇ。

 ここで船員が一斉に魔導銃を撃ち始める。当たっているのかわからないが、あまり影響はなさそうだ。段々近づいてくる。大砲の発射距離ではなさそうでさっきまでの轟音は今では鳴りを潜めている。

 するとモルティットが動いた。補助器をもった手をシーサーペントに向ける。


『…………』

 何語? わからないが短い言葉を発すると(するど)氷柱(つらら)のようなものがいくつも出現し、シーサーペントへ発射された。

 氷柱(つらら)は猛スピードで飛来し、シーサーペントを串刺しにして体のあちこちから氷の枝を生やしている。今の攻撃で動きが(にぶ)くなり、勢いがなくなった。追い打ちをかけるように船員が攻撃している。

「まだ足りない…」

 モルティットが(つぶや)き、次の魔法を準備しだす。シーサーペントは傷ついた体をくねらせ船に迫っている。体当たりをする気だ!

 魔法の発動には時間がかかりそうだ。モルティットの額にうっすらと汗が出ている。もういいかな? いいよね?

 シーサーペントが船の間近に迫った時、水の精霊主を呼ぶ!


「アクア!」

 すると海面に出ていたシーサーペントの両側から巨大な超激流のカーテンを出現させ、体を交差するように移動し切断した。下半分はそのまま海に飲まれ、上空に残った半分は水しぶきを立てながら海面に落ちた。ありがとうアクア。

 その様子を見ていた船員は一斉に歓声を上げて喜んでいる。シーサーペントに近いデッキの船員は海面を見渡して他にもいないか様子を(うかが)っているようだ。


「……」

「ふー。良かった。ちょっと危なかったね」

 あれ? なんかモルティットが黙って(うつむ)いてる。肩が震えてるけど。

 すると顔を上げ俺を見ると、

「アハハ! 伝説以上だね! こんなに(すご)いなんて! マクレイディアが何も言わない訳ね!」

 笑顔で俺の肩をバンバン叩く。あれだな“(すご)い”の基準がわかない。これで十分(すご)いのか? と、船員がこちらに寄って来た。

「あんたかい! すげぇ魔法を使ったのは? 助かったよ!」

 と、モルティットに言ってきた。彼女は俺を見たが、ここは船員に乗っていこう!

「そう! この人が魔法を使ったんだよ!」

「おおおおぉ! 船長が挨拶したいって言うからこっちに来てくれ!」

「あ、ちょ、ちょっと!」

 無理やりモルティットを船員に預ける。恨めかしい目で俺を見ながら船員に連れられて船尾の方へ向かって行った。


 船上は今の騒ぎで落ち着かないので、船室に戻ろうと下降口まで行くとマクレイがフィアに支えられこちらに来るところだった。

「マクレイ! なんで? 寝てないと!」

 慌てて近寄って声をかける。

「ナオ! なんでも怪物が出たらしいじゃないか」

「ああ、それならモルティットが退治したから大丈夫だよ」

 マクレイは真っ青な顔で俺をマジマジ見て、

「嘘だね。ナオが何かしたね?」

 なんでわかるのこの美人さん? エスパーかな?

「い、いや…」

「もう、あまり無茶はしないでおく……うっ! ぷ!」

 派手に突き飛ばされ床に転がる、俺。

 視界の片隅にダッシュで船縁に行き、吐いているマクレイが映った。なんか、魔物より美人さんにどつかれてる方がダメージ大きいんですけど。


 なんとかフィアの手を借り立ち上がって、マクレイの様子を見てる。

「あノ。マクレイさんはナオヤさんが心配みたイで」

「あ、そうなんだ…」

「…だから優しくしてくだサい。ナオヤさン」

 フィアが手を握ってくる。返事代わりに握り返した。しばらくするとマクレイがフラフラしながらこちらへ来た。

「すまないフィア。もう限界だよ……」

「ほら! 手を貸すから!」

 グッタリ倒れそうなマクレイをフィアと二人で船室に連れて行き再び寝かせた。寝顔を見ようとすると威嚇(いかく)してくるので、後はフィアに任せて自分の船室へ向かう。


 (せま)い通路の途中でモルティットに偶然会った。怒っているかと思ったが、意外とにこやかにしている。

「あら、“英雄”さん。こんな所でバッタリね」

「さっきはゴメン。嫌味は止めてくれ」

 モルティットは人差し指を俺の胸に突いて

「これは貸しだから。ふふっ。いいわねナオ」

「えぇ!? お手柔らかに……」

「さてね。じゃあね!」

 ニコリとするとモルティットは手を振って行ってしまった。なんか嫌な予感がする…。



 それから数日後の朝、東の大陸が見えてきた。マクレイは出向してからずっと寝たきりで、すっかりやつれてしまった。フィアと俺は交互に看病してこれ以上悪くならないように頑張った。

 あれから魔物も出現しなかったのは幸いだった。モルティットはたまに顔を出してくる度、いつ借りを返せと言うかドキドキしてたが、今の所そのような気はなさそうだった。


 次の日、念願の大陸に到着した。

 マクレイは喜び勇んで、いの一番で船を降りた。俺達も後を追うように降り、モルティットを待って宿屋に向かった。

「さっ。皆さん、お疲れ様。ここは私が(おご)るね!」

 なぜか上機嫌なモルティットが宿屋の食堂で宣言した。

「どういう風の吹き回しだよ。何もしてないだろ?」

「あら? 貸しがあるよね? “英雄”さん?」

「ぬ~!」

 やられた。このネタでこの先も行きそう。何故かマクレイが俺を睨んでいる。そんなわけで、飲み物を注文して腰を下ろした。


「貸しって何だい? ナオがなんかしたのかい?」

 事情を知らないマクレイが聞いてくる。そういえば言ってなかった。看病しててすっかり忘れてた。するとモルティットが笑顔で

「んー。ヒ・ミ・ツ?」

 と、口に人差し指を当ててクスクスしている。すると美人さんがめちゃくちゃ恐ろしい顔で俺を(にら)んで、

「ナオ~? どう言うこと?」

「ち、違う! 誤解だ! 後でちゃんと話すから!」

 なんか俺が悪い流れだ、これ。隣でガンをつけないで! 怖っ!


「ふふっ。とりあえず、その話は置いといて、これからなんだけど。ナオ達はどうするのかな?」

「え? そりゃ、導きの先へと行くに決まってるけど……」

 ちらっと隣を見る。マクレイはまだガンをつけてた! ホント怖い! ふと前に向き直って、

「アタシはナオと行くから!」

 宣言した。なんなんですか? これ。モルティットは笑顔で

「あら、そう! 良かった。じゃ、“大森林”の奥地へ一緒に行ってもらっていいかな? ちょうど東の方だし」

 ギョッとしたマクレイが汗をかき始める。上機嫌のモルティットはさらに続け、

「あなた、言ったよね“ナオと行く”って。あー安心した!」

「ぐっ! あ、あれは…」

「言ったよね?」

 怖い笑顔のモルティットにマクレイは白旗を上げたようだ。黙って(うなず)く。


 モルティットは笑顔でコップを掲げて、

「じゃ、これからよろしくね! みんな!」

「えーと、よろしく!」

 とりあえず俺もまねして掲げる。マクレイが渋々コップを掲げ、フィアも続いた。

「よろしくデす」

 その後、一緒に旅をすることになったので、モルティットはマクレイ達と一緒の部屋になった。俺は一人部屋…。む、なんか寂しい。

 しばらしくして、ノックが聞こえたと思ったらマクレイが入ってきた。



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