26 プレゼント
次の日は、滞在しているポレックと呼ばれるこの港町を見て回った。
大きな港には大小さまざまな船が荷物を降ろしたり積んだりして人々が忙しそうに働いている。その横で水鳥が肩を並べて待っており、おこぼれを狙っているようだ。
船の出航まで後二日、今日はやることが無いのでブラブラしている。風の神殿で発見したお宝を少しずつ換金しているので、思ったよりも懐は暖かい。
商店や露天には珍しいものが並んでいて、人々もいろいろな種族が行き交っている。どれも初めて見るものばかりで楽しめた。治安も思ったより悪くなさそうだ。
今、ロックと二人で歩いている。マクレイとフィアはモルティットに捕まり、連れていかれた。
通り沿いにある店を見つけて目的の物をいくつか購入した。出費は痛かったが、まあ、大丈夫かな?
その後、屋台で昼ご飯を買い船の見える地上からかなり高い壁の上で海と船を見ながら食べている。ロックには足場が悪いので、下で待機してもらっている。
「あら? ここにいたのね」
突然、背後からモルティットが現れた。驚いて一瞬飛び上がる。かなりびびった。それを見たモルティットは嬉しそうにしている。
「な、なんで、こ、ここに?」
「それは探したから。よっと!」
そう言って俺の横に座った。とりあえず飲み物を飲んで落ち着く。何しに来たんだ。この人、全然読めないから怖い。
「あら、良い眺めねぇ。マクレイディアも好きそう」
一通り感想を述べた後、俺が食べ終わるのを待っているようだ。とりあえず、残りを平らげてから、聞いた。
「何で探してたか聞いていいかな?」
「もちろん! ちょっと聞きたい事があったの、“契約者”様に」
「な、なにを?」
「ふふっ。まずは確認。あなた身体に模様ができてる?」
模様? ああ、契約の証の黒い模様の事か…
「ああ、これのことかな?」
片腕の袖を巻くって見せる。今、精霊主三柱と契約しているため、両腕と片方の肩に黒い模様が出来ている。
「本当だった…伝記は正しかったのね…。長い時を生きるエルフ族にすら伝説となる者。私はあなた様を敬いこれを肯定いたします」
と言うと今度は跪いた。うわぁ、やめて! そんなに凄くないんだから!
「ちょ、ちょっと止めて! そういうの! 多分無理だと思うけど普通でいいの! 俺は!」
モルティットは頭を上げ、ニコリとしてまた元のように座り直した。
「あら、もっと偉ぶってもいいのに」
「あのさ、俺の他にはいないの? その、“契約者”って?」
「んー。私の知っている範囲ではいないなぁー。でも不思議ね、人族に“契約者”が現れるのは……」
指を顎に当て考えているモルティット。
「そうなの?」
「そう! さ、私には何を聞きたい? マクレイディアの事かな?」
なんか、モルティットが何をしたいかがわからん。聞きたい事か……。
「モルティットはどうしてこの港町にいるんだ?」
「あら、意外と的確な質問ね。“契約者”様だから答えるけど、マクレイディアを探していたの。でも、それ以上が横にいるからねぇ。困るなー」
「一人で探してたの?」
「そう」
これはヤバイいんじゃないか? 今まで旅してきて、一人旅は間違いなく無理だとわかってる。つまり、一人で旅ができる者はそれなりの強者か他に何かあるんじゃないか? そう思っているとモルティットが、
「ふふ。また鋭いね。ナオって面白いね」
「な、なんでわかった? 頭の中がわかるのか?」
「アハハッ! 顔にでてるよ」
と、急に横から何かが出てきた! モルティットは予想していたらしく、かなり落ち着いていた。
「見つけたよ! ここにいたんだ!」
マクレイが下から現れ、壁に手を着いて上がってきた。
「マクレイ?」
「やっぱり、ナオを追ってたんだね」
マクレイは座ってる俺を無理矢理立たせて、自分の後ろに隠した。なんで?
「あら? 特に何もしてないから安心して。“契約者”様かどうか確認してたの」
「ホントに?」
訝しげにマクレイは俺を見る。しょうがないなぁ。
「ああ、モルティットは確認しただけだよ」
すると、なにか安心したようで、マクレイは息を吐いた。何を心配してたんだか。
「そう…それじゃいいか。じゃましたね!」
とか言って、そそくさと行こうとしていると、モルティットが引き留めた。
「あ、待ってマクレイディア」
「何?」
と振り向こうとしたマクレイを海の方へ突き飛ばした! えぇ?
「なああぁあああああ!」
マクレイは叫んでいる。ちょっと面白いけど、ヤバイ!
「アクア!」
と、海面が盛り上がり、落ちるマクレイを包んで壁の上にいる俺のところへ運んできた。多少濡れているが大丈夫みたいだ。
「大丈夫かマクレイ? 何してんだモルティット!」
マクレイはボーゼンとして、モルティットは含み笑いをしている。
「ふふふっ。ごめんなさい。精霊主様の力が見たかったの。素晴らしい力ね」
「…モルティット~! …ナオ…ありがと」
プルプルしながらマクレイはまずモルティットを睨んでから俺に礼を言って、そのまま駆けて降りて行った。なんか今日は可哀想だな。後で様子を見よう。
「後でマクレイに謝ってくれよ?」
「もちろん。少しやりすぎたね。でも詠唱も無いとは噂以上なのね、精霊使いって。じゃ、私も帰るかな」
そう言って俺を見た。一緒に帰りたそうな感じだな。まぁ、しょうがないか。
「ああ、俺も帰るよ」
「それでは一緒に行きしょう」
宿に帰ると食堂にはマクレイとフィアはいなかった。ロックは馬小屋に行ってもらう。
モルティットは早々に部屋へ引き上げていったので、しかたなく自分の部屋へ行った。あれ? ドアが開いてる? 恐る恐る中を覗くと、マクレイとフィアがいて俺に気がつくと声をかけてきた。
「あ、お帰りナオ」
「お帰りなサい」
「な、なんで俺の部屋にいるの?」
二人ともベッドに腰かけていた。この後の用事を考えたら丁度いいか。
「まあ、なんて言うか暇なんだよ…。外にいるとモルティットがいるし…」
ああ、フィアは付き合いね。友達なのにモルティットは苦手なのかな?
「確かに暇なのはわかる。さっきは大丈夫だった?」
「だ、大丈夫だよ。本人が謝ってきたし」
まだふてくされてるな、しょうがないか。昼に買ったプレゼントを渡そう!
「あ、あのさ、これ…」
ポケットから包み紙を取り出してマクレイに差し出す。
「え、な、なに…コレ?」
「そんなに深い意味はないんだけどさ、記念に?」
あからさまに怪しい顔をして包みを見ている。説明するの恥ずかしいんだけど。
しょうがないのでサリーから貰った板を取り出して見せた。
「ほら、サリーからプレートを貰った時に閃いたんだ。仲間になんかお礼でもしようかなって。だ、だから、どうぞ」
ためらっているマクレイの手を取って渡す。一応、受け取ってもらえた。が、固まっている。はー、とりあえず良かった。
「じゃ、はい! フィアも」
「ワタシもでスか? 嬉しいデす!」
ああ、なんて素直! これだよ! さすがだねフィアは。と、マクレイが
「なーんだビックリしたよ! そーだったんだ! ああ、なるほどね!」
なんかよくわかないが納得したらしい。一転、笑顔になった。やっぱり美人さんは笑顔が一番だよね。
「開けていいでスか?」
「ああ、どうぞ」
フィアは包み紙を開けて中身を取り出す。それはブルーの宝石が輝くペンダントだった。めちゃマクレイがガン見してる。
「キレイでスね。……ワタシには着けるのが難しいデす…」
「あああ、ゴメン。着けてあげるよ!」
フィアが着けるのに四苦八苦してるのを慌てて手伝った。それはちょうどいい感じでフィアの服と合っているようだった。
「どうでスか?」
「似合ってるよ。良かったねフィア!」
マクレイが感想を述べる。良かった、喜んでくれているようだ。そしてフィアと二人でマクレイを見る。
「な、なんだよ。い、今は着けないよ!」
「プ。恥ずかしいんだろ?」
「違うよ!」
とか言って耳をピクピクしてるし。フィアはペンダントの装飾されたトップを持ち上げ観察している。
その後、雑談して就寝のため別れた。ちなみにロックにも腕輪を買ってその場でプレゼントした。
次の日、食堂でマクレイ達と会った時、首に赤紫のペンダントが見えた。俺の視線に気が付いたマクレイが慌てて胸元に入れる。ニヤニヤしてると、
「な、なんだよ。あんまりジロジロ見んな!」
小突かれた…。そして例によってモルティットも合流して食事を取った。
「あら? 今日は機嫌がいいのね? なんかイイ事あった?」
「別に!」
投げやりな対応をしてるマクレイを俺とフィアはニヤニヤして見てた。するとマクレイが鬼の形相で睨んできた! 怖えぇ。
そして出港の日、俺達は定期船の船着き場で入船するのを待っているとモルティットがやって来た。
「あら? ずいぶん早いのね。出港はまだじゃないの?」
「な! モルティットは何でいるんだい?」
マクレイが慌てて聞く。荷物を前に置いたモルティットは腰に手を当てて、
「そりゃ、あなた達と一緒ってこと」
「聞いてないよ!」
「あら? そうだっけ? ま、どっちでも一緒でしょ。ね!」
マクレイが手を額に当ててる。ま、しばらくは同行者が増えるのか。賑やかになりそうだな。
「まあ、よろしく!」
俺が手を出すと、モルティットが握って来た。
「フフ。こちらこそ、“契約者”様」
そして皆で船に乗り込み出港した。目指すは東の大陸だ。
この先の未知なる世界にワクワクしながら、船のデッキから広大な海を眺めた。




