20 小屋
夜も更け、女の子達は就寝している。
俺とマクレイとフィアは起きていた。外にはロックがいる。
何故、起きているかというと、外の雰囲気が物々しいからだ。ソイルの地面レーダーにはなにも感じないが、禍々しい気配が小屋の外から流れてきている。
「気に入らないねぇ」
マクレイが呟く。俺は窓を開け外の様子を見ている。今の所、何も無いようだ。生ぬるい風が嫌な気分を助長させる。
と、小屋のどこかがピキッ! と音を鳴らした。なんか怖えぇ。お化け屋敷っぽい。
そこで気がついた、何かが上空の月明かりを遮っていることを。
いくつもの影が小屋の近くを横切る。ふと見上げると、先日の昼間に見たハーピーの集団が小屋の周りの上空を旋回している所だった。なんかヤバイ気がする!
「マクレイ、フィア、上だ! ロック、無理矢理でもいいから中へ!」
俺の言葉に皆動き出す。ロックは狭い入り口を無理矢理削りながら入ってきた。急いで扉と窓を閉める。
マクレイが寝ていた女の子達を起こし、騒がないようにしている。フィアは片付けをし、俺も手伝った。
すると、屋根の方で何かが落ちる音とギャーギャー鳴く声が聞こえてきた。なんか怖っ。マクレイが何か思いついたように口を開く、
「あのさ、ひょっとしてだけど、この小屋ってあいつ等の餌場なんじゃないか?」
「マジで!? そういえば小屋の周辺で生き物を見なかったな…ありえる!」
「でしょ! この小屋にそのままいたらマズい気がするよ」
すると、女の子達が声を殺して怖がる。何とかしないと…。と、天井が騒がしくなってきた。
ガシャガシャ、ギャーギャーとんでもなく煩い。
「ナオ。どうする?」
警戒しているマクレイが聞いてくる。どうするって言われても…。この中でできることは、無いなぁー。
「そうだなー。うるさい以外は今のところ大丈夫だし…」
ギギギィーーギギギーーー
と、天井が音を立てて上空向かってに飛んで行った…。
えぇー! 天井が段々と遠くなるのを眺めてたら、鳥の影がいくつも舞っているのが見えた。
「キャーーー!!」「怖ーーい!」「ええぇ!?」
女の子達が騒ぎ出した。俺もそのセリフ言いたかった! そのくらいビビった!
すると、ハーピーが上空から俺たちを捕まえようと何匹も降りてきた!
「ベントゥス!」
暴風が吹き荒れ、ハーピーの侵入を阻む。しかし、こんなのは一時凌ぎだ。風に負けない声でマクレイが叫ぶ。
「ナオ! これじゃラチがあかないよ!」
「ああ、わかってる! みんな何かに捕まれ!」
「そんなの無いよ! ナオ?」
「あ、ゴメン。ロックにつかまって!」
全員がロックにつかまるのを確認して……。
「ここは陸だから、丘サーファーで行くぞ! ソイル!」
家がいきなり持ち上がり、ついで下る。揺られながら前へ進んでいるのがわかる。激しい揺れで削られた扉が開き家の前が見えるようになった。風景が上下に動き猛烈なスピードで進んでいく。
激しい動きに体がシェイクされていて段々と気持ち悪くなってくる。
しばらく進んだ後、夜空の見える天井を眺めるとハーピー達の姿はいなくなった。ふぅー、助かったー。
「ナオー。これどうやって止まるの~! 気持ち悪いー」
トリディが叫んでる。そういえばそうだ。
「ソイルもう大丈夫だ。ありがとう!」
すると、滑るようにして家が止まった…。おおぅ、体がまだ動いているような感覚だ。フワフワして家の外に出て、運ばれて来た道を見てみる。鳥の群れの影が遠くに確認できた。これで安心だな。と、トリディとエミリが勢いよく出てきて、木陰で吐いていた…。
「ナオ…。助かったけど、体に堪えるよ…」
フィアに支えられながらマクレイがフラフラして、ロックはサリーを抱いて出てきた。
一旦は外に出たが、とりあえず天井の無い家に戻って休むことにした。二名は寝床でグロッキーだ。ゴメンね。
もう明け方だが、皆の体調が戻るまでここに一泊することにした。ロックは家の後ろに回って見張っている。
しばらく休んでいると体調が戻ったので気晴らしに近場を散策することにする。マクレイとフィアを誘ったが具合の悪い二人を看病していると言うのであきらめた、が、何故かサリーがついてきた。
「あたし、けっこー平気だったよ! へへっ」
凄いなこの子。三半規管が壊れてるんじゃないのか? 勝手にどこかに行かれても困るので手をつないで歩いている。こうしているとフィアと一緒にいる感じ。
しばらく付近を散歩していると動く山のような物がいた。よく見るとあのビックボアだった。俺の天敵がここに…。恐ろしいので踵を返して帰ろうとしたところ、サリーが石を投げた! えぇ!? 君なにしてんの?
ポコンとビックボアの背中に当たり、相手も気づいたようだ。
ガッツボーズをしたサリーが怒ってこちらを見つめているビックボアを指さし、
「やったー当たったよ! 見た?」
「“見た?”じゃねーよ! 逃げるぞ! あいつはメチャ怖いんだぞ!」
必死の言葉にも動じず首を傾けているサリー。なんで怖くないの?
「えー、何で?」
「あぁ! もう!」
って、言っている間にビックボアがこちらに向かってきた! 慌ててサリーを抱え走り出す。
「きゃっ! ちょっと! なにすんのーー!」
「アホか、あいつが向かって来てるだろ。逃げるんだよ!」
あああ、絶対追いつかれる! ズドドドドって足音が間近に聞こえる。怖えぇ。
「ナオー。あの猪もう近いよ!」
サリーの言葉にちらりと振り返るとすぐ真後ろにいた! ああ、もうダメだ!
「ソイル!」
ブギャーと叫び声が下から聞こえた。ソイルの作った穴に落ちたようだ。た、助かった!
足を止めて振り返って見る。
直ぐ後ろに大穴が空いて底にビックボアが落ちていた。気を失っているのかピクリとも動いていない。
とりあえず無かった事にして、そっと穴を埋めた…。
「ほら、大丈夫じゃない!」
サリーがなんかドヤ顔で言ってるし、自分でやったわけじゃないでしょ?
「いや、これはソイルのおかげだからな?」
「でもナオがやったんでしょ?」
「うぐ。そ、そうだけど…。とにかく帰ろう! あんまり遅いと皆が心配するから」
「ま、そーだね。帰ろうか?」
なんか主導権を握られている気がする。なんかドッと疲れた。早く帰ってグッタリしたい…。
「おや、思ったより早いね。大丈夫かい? グッタリしてるよ?」
いの一番にマクレイに見破られた。そんなにわかりやすいか?
「ああ、もう完全にグッタリだ。サリーを頼んだ! よろしく!」
そう言ってサリーをマクレイに預け家の中に入っていった。トリディとエミリは気分が良くなったのかフィアと話しをしている。少し離れた所で横になった。あー、疲れた……。
ハッ! 寝てた。むくりと上半身を起こすと何故か女の子達が俺の周りで寝ている。なんで?
家の奥にはマクレイとフィアが壁に寄り添って座っていた。起き上がって、踏まないようにしながらマクレイ達の所へ行った。
「今、ってどのくらいなんだ?」
「もうそろそろアタシらも寝ようとしてたところさ」
「よく寝ていましタね」
返事を聞きながらマクレイの横に座るとにこやかにこちらに顔を向ける。
「口には出さないけど、あの子達もナオには感謝してるのさ」
「そうなの? なんかしたっけ?」
「フフ…。ま、そういう事にしとくよ」
視線を戻し、微笑んで手入れをしていた剣を鞘にしまう。
「それはいいけど、全然眠くない」
「そんなの知らないよ。かってに起きてなよ、アタシゃ寝るよ」
マクレイは寝床に行って横になった。ちらりとフィアを見る。
「え、えーと、お勉強しまスか?」
俺の視線に焦ったフィアが提案してきた。
「フィアは眠くないの?」
「ワタシの場合は動力の節約の為に休眠制御していまスが、基本的には寝なくても大丈夫デす」
「へぇー。難しいね」
「……」
あれ? 対応間違えた?
「じ、じゃあ、教えてもらっていいかな?」
「はイ。それでは始めましょウか」
文字の書き取りと読み方は俺が眠くなるまで続いた。
翌日、準備をして出発した。
ハーピーに襲われた以外は魔物に会うことなく進んでいる。順調に行けば明日あたりには、村に着くと彼女達は言っていた。
騒がしいこの旅もそろそろ終わりが見えた来た。何となく寂しさを感じる……みんなと仲良くなったからかもしれない。




