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19 山脈

 

 山間を進んでいく。

 急ぐ場合は山を登り峰沿いに行く方がいいらしいが、かなり危険らしい。と言うことで、時間がかかっても安全第一に行くことにした。

 しかし、今回は女性が多い……。キャピキャピ楽しそうな声を上げながら先頭を女子軍団は歩いている。その後ろを俺とロックがついていく。ああ、こういう時はボランのおっさんでも居てくれると気が楽だったなぁー。


 ちなみに、前を歩くフィアより背が高い金髪ショートの子がトリディ。その隣、フィアより少し背が高くて茶髪ロングがサリー。フィアと手をつないでいるのがサリーと同じぐらいの背で黒髪ロングを(まと)めているのがエミリだ。俺達は彼女達の村、ノドリに向かっている。と、トリディがこちらに来た。

「ねえナオ、この先で休むけどいいかって、マクレイさんが言ってたよ」

「ああ、いいんじゃない?」

「はーい。じゃあねー!」

 伝言か! トリディは何故かマクレイに憧れているらしく、村を出てからずっと引っ付いている。マクレイも冷たくは出来ないのでやんわり扱っているが、たまにマクレイから目で訴えられる時がある。そのときは笑顔とサムズアップで応えといた。

 見通しのよい小高い所で休憩する。


 さすがに子供を連れて強行軍は難しいし、体を壊すかもしれない。今までの旅の中で一番のんびり進んでいるかもしれない。ま、たまにはいいけどね。みんなで昼を頬張り、少し休む。ロックは周囲を警戒中だ。

 そして夕方、野営地を決め、準備をする。フィアは慣れているため、テキパキと指示をしている。おー、この中にいると、お姉さん的な感じだな。まだ生まれて四年だけど。


「覗いたら殺す!!」

 マクレイが(にら)んで一言、カーテンを移動する。

 今、俺はカーテンを背に向けて焚き火の前に向いて座っている。続けて美人さんが一言、

「準備はいいよ。よろしくね!」

「あー、はいはい。アクアー」

 するとカーテンの向こうで水の音とキャッキャしている声が聞こえる。女子軍団がシャワー中だ。

 昼間、何気なくアクアならシャワーを出せるんじゃないか的な事を言った所、こうなった。

 しかし、うら若き女子が裸でいるのにこのままでいいのだろうか? いや、よくない!


 どうがんばろうかと思案していたら、何故か背筋が寒くなる。

 ふと、前を見ると、フィアが魔導銃の手入れをしているのが見えた。すごい殺気を(はら)みながら…。こ、怖い…。ふと視線を感じて横を向くと、ロックが俺をガン見していた。ロックさん、見張りはどうしたんですか?

 ダメだ。とても恐ろしくて行動できない…。せめてマクレイだけでも…。ちらと振り向こうとすると、どこからか狙われている感覚が! と、前を見るとフィアが何処かに狙いをつけていた…。た、助けて! 精霊主さん! 〈…無理ですからあきらめてください〉はあああ、最終通告だ。これ。


 そうやって、無言の手に汗握る攻防をしている内に女子軍団の水浴びは終了した。その後、全員爽やかさんで夕食をほおばっている。

「今日はおとなしかったねぇ。意外だったよ」

 さわやか美人さんが言ってきた。

「いや、俺はがんばった。けど、世間は厳しかったんだ!」

「? 何いってんの?」

「……」

 やめて、フィアが無言で責めてる。



「ねぇ、ナオってさ、“契約者”様なんだよね?」

 夕食後の一時、サリーが聞いてきた。他の子はマクレイとフィアを囲んで話している。何故かマクレイの影響で女の子全員が俺の事を“ナオ”と呼んでいる。

「ああ、そう言われているよー」

「ふーん。あのシャワーも精霊様がしてくれたの?」

「ああ、アクアに手伝ってもらったんだ」

「アクアってなに?」

「えーと、水の精霊主の名前なんだ」

「水の精霊主様に名前ってあったの?」

「いや、俺が勝手につけた…」

 なんか、“どうして”攻撃を受けている。何故だ? もう疲れた…。ふとマクレイを見ると目が合った。ニカッと笑って視線をそらした。あれだ、同士と思われてる?


「ねぇ、聞いてるの?」

 またサリーが言ってきた。

「あーはい、聞いてます」

「じゃあ、ロックはなんで石で出来てるの?」

「ん~、俺もわかんない。ロックに聞いてもわからないってさ」

「ロックはまだ何も言ってないじゃん! なんでわかるの?」

 なんか立腹してきたようだ。このままからかうか。


「よし! じゃあ、ロックに聞きに行くか!」

 サリーを連れてロックの元に行く。ロックは定位置でいつもの見張りをしていた。

「ロック。サリーが“ロックはなんで石でできてるの?”だって」

「ヴ、ヴ」

 まじめなロックが答えてる。でも、わからないって言ってる。

「なんて言ったの?」

 サリーが目をキラキラさせながら聞いてきた。

「うーん、ロックが言うには“僕の体に聞いて”って言ってたから、ロックの体に聞き耳を立ててごらん」

「うん!」

 サリーは素直にロックのお腹辺りに耳を近づけ音を逃すまいとしている。

「……」

「何も聞こえないよ?」

 残念そうな顔でサリーが聞いてくる。

「もう少し聞いてみればわかるかも?」

「うん!」

「……」

「ボクモ、ワカラナインダ。ゴメンネ。サリー」

 俺がサリーの空いてる耳に裏声を使って(ささや)く!

「プッ! ククク…」

 は! しまった。笑い声が漏れた。サリーが鬼の形相でこちらに振り向く。


「ナオはー何してんのー!」

 思いっきり向う(ずね)を蹴られた! めちゃ痛てぇ。その場で崩れ落ち、(うな)る。サリーはそのままマクレイの元に駆けていった。

「ヴ!」

 え、子供をからかうもんじゃないって? 反省してます。と、マクレイが来た。

「ナオ。もう、子供だからって、からかうもんじゃないよ!」

「今、同じことをロックに言われてた」

「ハハッ! バカだねー、ナオは。後でサリーに謝りなよ!」

「はい…」

 その後、ご立腹のサリーに謝り倒した。なんか今日は疲れたなー。



 次の日、山間部をのんびり歩いていると向こうの空に何か大きな鳥の影が見えた。

「マクレイ。あれは?」

「んー。ちょっと遠いけど、ハーピーじゃないか?」

「あたし、知ってる! 前に村に来た事があるよ!」

 トリディが指さしてる。ハーピーもこちらに気がついたらしく、方向転換して向かってくる。なんかでかい。

「マクレイ…こっちに来たよ?」

「ああ、そうだねぇ」

 あまりのマクレイの落ち着きっぷりにこちらが慌てる。

「ど、どうすんの?」

「そりゃ、倒すでしょ?」

 と剣を抜いた。

「ワタシにお任せくだサい」

 え? フィアも何かするの? 魔導銃を片手に狙いをつけている。ハーピーが近づくにつれ、段々大きくなってきた。迫力があって、怖えぇ。

 と、金属音がしてハーピーの上半身が一瞬で無くなっていた…。そのままハーピーの亡骸は下に落ちていった。


「へ~。(すご)いじゃないか! フィア!」

 マクレイが喜んでいる。俺はあっけにとられていた。あの銃、ボランのより威力があるぞ。

「ワタシ、分かりまシた。時に戦うことでしか守れないこトを…」

 それって、今じゃないでしょ? フィアはきっとドヤ顔してる風な感じだ。女の子達は喜んでいる。

 サリーが俺の元に来て、

「ナオは全然役に立たないねー」

 と言って去っていった…。やり返された…。泣くぞ!

 それから何事もなく今日が終わり、なんか疲れてフラフラとロックの元へ。

「ヴ」

 がんばれって言われて、そのまま寝床で爆睡した。



 賑やかに移動している。

 少女達は完全に打ち解けてロックを怖がる事も無くなった。ロックがたまに歩き疲れた二人を両肩に担いだりしている。(うらや)ましい…俺も楽したい。


 そして移動を続けていると、無人の掘っ立て小屋がポツンとあるのを発見した。

 あまりにも怪しいが、せっかく屋根のある家があるので使わせてもらうことにする。

 家の中は何もなくガランとしているワンフロアの小屋だった。床の板にあちこちヒビが入っているがとりあえず大丈夫そうだ。窓は三ヵ所にあり、木枠のみで蓋をするタイプのようだった。テントは便利だけど狭いから天井が高いだけでもありがたい。


 夕食後、それぞれ好きにしている。

 俺は相変わらずフィアに文字を教わっている。最近は生徒サリーとエミリが増え、ライバル心を燃やしがんばっている。しかし二人とも物覚えが良いみたいで抜かされそうだ…。



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