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18 救出

 

 あの後、打ち合わせをしてホウェバ・オには先に帰ってもらい、同志を村から外に出すか家の中に閉じこもるかしてもらう予定だ。

 人質や売買用の捕らえた人間は(おさ)の家に閉じ込めらているそうだ。目標は決まった。


 俺達? もちろん正面から突っ込んでやる!

 今日は“契約者”としての初披露だ、どこまで出来るか分からないけど後悔させてやる! ソイル、アクア、ベントゥス、俺に力を貸してくれ!〈もちろん! 私達はあなたの為に!〉

 マクレイが心配顔で聞いてきた。

「ナオ。あんまり無茶苦茶しないで。フィアまで巻き添えになるよ」

「……前から思ってたんだけど、マクレイって俺の評価が低くない?」

「プッ! そうだねぇ。頼りないけど、信じてるよ!」

 吹き出したマクレイが微笑みながら言ってきた。

「まぁ、それで十分か…。行くぞ!」

「あいよ!」

「ヴ!」


 村の囲いの前に駆けつける。

 と、気づいた見張りが叫ぶのが聞こえる。中から武器を持った村人がワラワラ出てきた。こいつらが傭兵なのか? ま、関係ないか。

「みんな!」

 叫ぶ。

 武装した村人がいる地面がうねり、言葉を発する前に飲み込んでいく……。俺たちの周りには水のリングが壁のように回っていて矢を防いでいる。ロックはリングの外で遊撃だ。誰も近寄らせない。


 そのまま村の中に入ってフィアを探す。敵意の振動を感知し、岩を穿(うが)ち、または地中に埋める。水の勢いで屋根にいる狙撃手を落とす。身近な敵はマクレイが排除している。

 村の奥に向かって進んでいると隣にいるマクレイが上空を指した。

「ワイバーンだよ! 気をつけな!」

「ベントゥス!」

 上空に現れた複数のワイバーンに騎乗した村人を強風が襲う。コントロールを失ったワイバーンが墜落し、あおられた村人がワイバーンから落ちたりしている。ベントゥスが上空を見守っていてくれているから安全だ。


 やがて奥にある(おさ)の家の前にくるとジェメル・オが複数の護衛に囲まれて出てきた。

「小僧~~~!! 人質を助けたければやめ……アブプブプブプブプ……プ……」

 言い終わる前に怒涛の水攻めだ! 大量の水流を護衛ごと浴びせ、流していく。これで家の前が綺麗になった。


 (おさ)の家に入り、目的の振動を探す。

 ……いた! 地下からフィア独特の鼓動が聞こえる。

「マクレイ! フィアがいた!」

「ホントかい! ナオ!」

 マクレイが嬉しそうに答える。

 部屋をあちこち探し階段を見つけ駆け足で下る。

 地下には牢屋らしき部屋が並んでいた。どこにいるんだ?


「フィアーーー!」

 叫ぶ。

「ここデす」

 奥の牢屋から声が聞こえる。

 マクレイと急いで向かうと牢の前でフィアが立っていた。

「待っていまシた。ナオヤさん、マクレイさン」

「フィア、ちょっと離れてて!」

 マクレイが剣で鉄格子を切り落としフィアを連れ出した。前から思ってたけどマクレイが使うと何でも切れるね…。


「フィア! どこも壊れてない?」

「大丈夫デす。皆さんを見失った時は驚きましタが、迎えに来てくれると思ってまシた」

 マクレイがフィアに抱きつく。完全に出遅れた。今からやると恥ずかしい…。

「はー良かった。フィアが無事で。さっ、帰ろうか?」

 誤魔化しで声をかけると他の牢屋から声がかかる。

「た、助けてください!」「こっちも!!」「お願い!」

 ああ、他にもいたのか。フィアの事で他が見えなくなっていたようだ。反省。

 探すと地下牢は六つあり、そのうちフィアも入れて五つの牢屋には十代前半ぐらいの女性が複数いた。計十二人を救出し、家の外に連れ出す。


 身構えて外に出てみたが、事態は収束していたようだ。

 副長(ふくおさ)が指揮を執り傭兵や(おさ)を捕縛して一カ所に集めているところのようだ。こちらに気づき俺達の元へ駆け寄ってきた。

「これはお客人! このほどはありがとうございました! おかげで傭兵はほとんど無力化し、(おさ)を捕らえました!」

「ふーん、良かったね。ま、関係ないけどね。痛て!」

 マクレイに小突かれた。ニヤニヤして見ないで!

「ったく、スナオじゃないねぇー」

「ふんっ! ところで、副長(ふくおさ)…って今は(おさ)か。この捕らえられた子達を頼むよ」

 そう言って、連れてきた人達をホウェバ・オに引き渡す。

「そうですね、前の(おさ)の不始末は私がしなければ…。責任をもって預かりましょう!」

 救出された女の子達は不安そうだが、元(おさ)が捕らえられているのを見て幾分(いくぶん)ホッとしたようだ。周囲を見渡すと十数体の死体が並べられていた…。ちらりとしか見てないが背筋がゾワゾワして、胃がチクチクしてきた…。


「ところで、これほどまでの大規模魔法を使えるとは、ご高名の魔法使い様でしょうか?」

 今の(おさ)が訪ねてきたが、もう勘違いさせたままでいい気がしてきた。肯定しようと口を開きかけたら、

「違うね! ナオは“契約者”だ! そんじょそこらの魔法使いと一緒にするなよ」

 マクレイがドヤ顔で言い切った。やめて美人さん。聞いた新しい(おさ)は驚いている。

「な、なんと! “契約者”様でしたか! 伝説に違わない力だ!」

「いや、なんとも…。穏便にお願いします…」

 とりあえず、俺の事はあまり表に出さない形にしてもらい、荒れた村を精霊主達の力で元に近い状態に戻した。


 それから上級のお客様扱いされ、一番上等の家…といっても元(おさ)の家に泊まることになった。夕食も盛大に振る舞われたが、昼の事を思い出し、余り食べられなかった。捕らえられていた少女達は久しぶりのまともな食事を存分に堪能し、早々とベッドに潜っていった。



 夜中、寝付けなかった俺は外に出て村の中をブラブラしている。元長の圧政に苦しんでいた者達は皆、喜んでこの度の勝利を(さかな)に宴会をしているようで、遠くに笑い声が聞こえる。

 時折、酒の臭いが風に乗ってやってくる。新鮮な空気を求めワイバーンの檻の前で腰を下ろした。翼竜はすでに寝ているようで、警戒もせず這いつくばるような格好で寝ている。


 ふと手を見るとフルフルと震えている…。畜生! 罪悪感が重く背中に乗ってるような感じ。胃がムカムカする。

 急に影が俺を包んだ。振り返ると赤紫色の目が俺を見つめていた。

「ここにいたんだ?」

「ああ。マクレイこそ何でここに?」

「隣座るよ!」

 そう言って俺の横にひっついて座った。

「めずらしい事もあるもんだ」

 ちょっと嬉しいけど、こんな時じゃない方が良かった…。


「フフ…。昼から元気が無かったからねぇ。一応、心配してるんだよ?」

「そりゃ、迷惑かけたな…」

「迷惑なもんか。……ナオ、人を殺めたのは初めてかい?」

「ああ…」

 見透かされていた…。顔を見られたくなくて、ワイバーンを眺めて誤魔化す。

「俺のやった事は後悔していない。その覚悟でやったんだ。でも……辛い…」

 今の思いをはき出した。でもこれ以上は無理だ。…これ以上は…。ふと身体が暖かくなる。マクレイが抱き寄せてきた。何も言わないが心底安心する…。声を殺して泣いた……。


 ……しばらくして涙を拭くと立ち上がる。

「もういいのかい?」

 心配顔のマクレイが確認してくる。

「ああ、いつまでもクヨクヨしてたら、どっかの美人さんに蹴っ飛ばされちまう」

「フフ…そうかい。じゃ、アタシも寝に帰るかね!」


 長の家に戻り、自分にあてがわれた部屋へ入るとそこにはフィアが(たたず)んでいた。

「フィアどうしたんだ?」

「ナオヤさンが元気が無いようなノで、様子を見にきまシた」

 声をかけると気がついたフィアが寄ってくる。

「ありがとう! さっきマクレイにも励まされたよ」

「それは良かったデす。ワタシの出番はありませんでしタね」

 めちゃ感動した。なんていじらしい…。フィアを抱きしめる。

「そんなことはないよ。ありがとう…」

「ワタシの方こそ、ありがとうございマす。ナオヤさン」

 そのままフィアと一緒に寝た。夢の中で精霊主達もに励まされた。みんなありがとう…。なんか幸せです、俺。



 次の日、これまた盛大な朝食を頂いき腹いっぱいになった後、今後のために村にある地図を見せてもらった。

 導きの感覚は翼竜の村から東に山脈をたどって港町の先まで続いているようだ。この村の地図では港町までしか描かれていなかったので、続きは港町で確認することにした。

 また、捕らえらえていた少女達の内、三人は港町に行く途中の村出身らしく俺達が送って行くことになった。


 そして出発するときに、村の入り口で(おさ)がお礼を言ってくる。

「ありがとう“契約者”様。そして皆様。またこの村へ訪れた時は歓迎いたします!」

「ああ、その時はよろしく! 良い村にしてくれ!」

 新しい(おさ)は力強く(うなず)き笑いかける。

「より良い村にいたしましょう! 約束いたしました!」


「また! じゃあな!!」

 しばらくの間、お供が増える。

 七人になった俺達は翼竜の村を出発した。



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