16 風の神殿
部屋の中は確かに広くボランが手に持っている明かりでは奥まで届いていなかった。
と、マクレイが輝き出した! マジ! エルフって暗くなると光るの? とか思ったら、マクレイの手にした剣が赤く燃えていた。不思議に思って近づいていく。
「マクレイ?」
「何?」
燃えている剣を指し不思議そうな顔をしているマクレイに聞く。
「それさ、素手で持って熱くないの?」
「ああ大丈夫だよ。これはアタシの魔法だよ」
ああ、納得した。戦う時に剣が燃えたり、青くなったりはマクレイの魔法があったからなんだな。わかったと頷いた。
明かりが増えたおかけで随分と部屋が見渡しやすくなる。
部屋は体育館ぐらい広く、奥に祭壇らしきものがあるようだ。ボランはさっそく祭壇へ行き調べている。俺達も後を追った。
祭壇は風の精霊を祀っているらしく、風をモチーフにしたような彫刻が施されている。その手前には腰ほどの高さの柱があり、その上には丸い水晶のようなものが乗っていた。
とりあえず好奇心で水晶球に手を乗せると、〈そこに私の力を注いでください〉ベントゥスが囁く。そこで風の精霊主の力を流してみる。
と、水晶球が輝き、一瞬で部屋全体が明るくなった。入って来た通路の方も明るくなっているようだ。
天井には見事なモザイク画のような模様が、壁には精巧な彫刻が刻まれているのが現れ、神聖な雰囲気をかもし出している。
驚いたボランが声をかけてきた。
「おおう! いきなり明るくなったぞ!! む!? ナオヤが何かしたんだな?」
「ああ、この水晶に風の精霊主の力を流してみた」
「なるほど! 風の神殿だから精霊と関係があったんだな! ナオヤ達と来てよかったぜ! 運が向いてきたな!」
とか言いながらボランは水晶球を取ろうとしたがビクともしない……。踏ん張っているようだが無理みたいだ。なかなか欲張りなおっさんだな。それを遠巻きに見ているマクレイとフィアはあきれていた。
「ふ~。これは無理だ! あきらめて他に行こう! さ、この部屋には用はない! 次の部屋へ行くぞ!!」
ボランは額の汗を拭うと意気揚々と部屋を出ていった。それを見送ったマクレイが近づく。
「ナオ? これって最後まで付き合うのかい?」
「ま、途中じゃかわいそうだろ?」
「それもそうだねぇ……」
フィアが部屋の出口を指し、
「皆さん行きまシょう。一人にすると危ないでスよ」
「ああ、そうだな!」
皆でボランを追いかける。明るく見通しが良くなった通路を戻り、さきほどの分かれ道を左に進むとやがて右に折れ、奥には扉があり、その前におっさんがいた。
「ボラン! 何かあったのか?」
追いついて聞いてみる。
「おおう! 先に中に入ろうと思ったが、動く気配があったんで、お前達を待っていたんだ」
うん? 気配か……。ソイルの地面レーダーには大きい個体が動き回っているのが感知できた。
「確かに中に大きい何かがいるみたいだ」
「おおう! わかるのか?」
驚いたボランが聞いてくる。
「相手が地面に接していば精霊主の力でわかるよ」
「なるほど~。便利だなー。ワハハ!」
ボランは笑って関心していた。
部屋の中の者が敵かもしれないので、ロック、マクレイ、俺、ボラン、フィアの順で中に入っていくことに話し合って決めた。
「よし! ロックお願い!」
俺の掛け声でロックが扉を開いて素早く中に入った。俺もマクレイに続き中へ!
この部屋は体育館より大きく、広い空間だった。その部屋の真ん中に二本の角を生やす牛の顔をした巨大な人型の魔物がいた。
「ありゃ、ミノタウロスだな! 迷宮の守護者って話だから、お宝があるぞ!」
ボラン解説ありがとう! 神話の生き物が実在したのね、異世界だけど。すると、ミノタウロスもこちらを発見し向かってきた。ひぇええ! 怖えぇ。めちゃダッシュで来る。
ミノタウロスの接近にロックが前に出ていく、マクレイは左側に剣を抜いて展開し始めた。
ボランは魔導銃を構え発砲した! 金属音が響くがミノタウロスは何もないようだ。外れたみたい。
ミノタウロスが大きな斧で間合いに入ったロックを薙ぎ払う! が、ロックは腕で斧をガードした。斧は腕に食い込みもせず、むしろ斧の刃が欠けている。ロックさん、ますます丈夫になってませんか?
ミノタウロスの左後ろに回ったマクレイがもの凄いスピードで接近し、一撃を浴びせる。
ギリギリのタイミングでミノタウロスが防いだその時、ロックの拳が右太ももに当たり鈍い音とともに足が折れ曲がった…。
バランスを崩したミノタウロスをマクレイが追撃し、首を一刀で切断する。
あっという間の出来事に俺とフィアは並んで観戦してただけだった…。ボランはまだ一発撃てたから参加気分を味わえたと思う。
「まあまあだね! あんまり手応えないけど」
「ヴ」
こちらに戻って来たマクレイさんの感想が出ました。ロックも賛同している…。君たち何者だい?
「ナオが無茶する前に倒さないといけないから、結構大変なんだよ」
「え? 俺のせい? 今回は何もしてないぞ」
「ふーん。じゃあ、上にある水の塊は何?」
やべっ、バレてた…。密かにアクアに水の塊でミノタウロスを包んで窒息死させようと思って様子を伺ってたんだけど…。
「あ! ホントだ! フシギだね!」
「ナオヤさンは、嘘がへたでスね…」
フィアにもバレてるのか…。ボランも近づいてくる。
「おおう! しかし、あんたらは強いな! 俺一人だったら危なかったよ! ワハハ!」
って、俺の背中をバシバシしてる。地味に痛い。
「さ、危険は去った! あとはお宝だな! 楽しみだなぁー!」
そう言うと嬉しそうなボランは奥に進みだした。
マクレイはミノタウロスの角を外しているようだ。その間にアクアに水の塊を霧散させてもらった。ごめんねアクア。〈かまいませんよ。相変わらず面白い考えですね〉そう言ってもらえると助かります。
マクレイの作業を待って、奥のボランを追う。
奥には装飾のされた扉が一つあり、もう調べたようでボランは前で待っていた。
「よう! 待ってたぞ。中には何もいないようだ。それじゃ入るぞ!」
扉を開けるとそこは大きな装飾された台座に石の棺のようなものが置いてある小さな部屋だった。
「これだな! この中にはきっとあるぞ!」
満面の笑顔のボランが石の棺の元に行き蓋を開けようとするが重くて無理だったようだ。
「うむむ。これはダメだな!」
とホランはこちらをちらり見る。…しょうがないなぁ。
「ロック。お願いしていいか?」
「ヴ!」
ロックが前に進み出て石の蓋を軽々持ち上げ脇に置く。
中を全員で覗き見ると、そこには金色の美しい装飾のされた壺や皿などが何十点も収められ輝きを放っていた。
「……おおぉーー! これぞお宝! ついに見つけたぞーーーー!!」
ボランが両手を挙げて喜んでいる。確かにすごい!! マクレイもフィアもビックリしている。しかしこれは…結構なお宝だ!
みんなホクホク笑顔で金の品を荷物に詰める。
数点出した所で下に何かが書かれた布があった。最近文字を習っているので読めると思って見てみたが…『…ここ?……先?……』全然読めん!
「マクレイ。これが出てきたんだけど、読める?」
「ん? どれだい?」
布を渡すと、眉をひそめながら読んでいる。
「……」
「どお? なんて書いてある?」
「…んー、これは“契約者”の従者に宛てたものだねぇ。これはアタシ達への贈り物らしいよ」
「他には?」
「えーと、……な、何も書いてないね! これは預かっておくよ!」
顔を赤くしたマクレイは何故かそそくさと布を懐に入れる。ボランがそれを聞いて、
「おおう! これはお前たちに関係するものだったのか! しかし山分けだぞ?」
「大丈夫だよ! おっさんの分もあるから!」
「よしっ! そーこなくっちゃな! ワハハ!!」
ボランはバシバシ俺の背中を叩いて高笑いをしながら部屋を出て行った。調子いいなぁ。
「ナオ! ちょっといいかい?」
マクレイに呼ばれる。
「ああ、何?」
「次の導きはあったのかい?」
「あったよ。ここより東の方角だね」
「…体は何ともないかい?」
眉を下げた顔をして俺を眺めるマクレイ。なんなんだ?
「最近それが多いけど、どうして?」
「……精霊主との契約は膨大な精霊の力を体に宿すんだ。普通の人間は耐えられないけど、“契約者”は特別で耐えられる。だけど、二柱はともかく三柱も宿すなんてアタシは聞いたことがない。ホントは三つ目の精霊主様に拒否されるかと思ったけど、あんなにあっさり行くなんて…。だからナオがいくら変り者でも心配なんだよ」
か、変わり者って。これは心配されてるのか、ダメ扱いされているのか? なんとも言えないが、この顔を見てるときっと心配なんだろう。マクレイの手を握って
「ありがとマクレイ。大丈夫だよ。精霊主もそんな無茶は要求しないよ。理由はわからないけど俺の体に宿る事が重要なんだろ?」
「ナオ……」
と、フィアも手を重ねてきた。
「ワタシもよくはわかりませンが、ナオヤさんは大丈夫だと思いマす。ナオヤさんから頂く精霊の力は温かいですカら」
「ありがとうフィアも」
みんなの温かい心にジーンときた。よし! ここはさらに団結しよう!
両腕を横に広げる。
「さ、いつでもいいぞ!」
「え!? 何を?」
マクレイとフィアがポカンとしている。あれ? そういう流れじゃないの?
「ここでスキンシップを高めるんじゃないの?」
「はぁ? な、何言ってるんだい! 心配して損した! アタシゃ行くよ!」
プンプンしてマクレイは耳を赤くしながら行ってしまった……。あれ?
「……ナオヤさん。もう少し頑張ってくだサい……。行きましょウ」
固まっている俺を引っ張ってフィアと一緒に出ていく。
それから問題なく風の神殿を出て谷底に降り、昨日の野営地で今日も泊まる事になった。
翌日、お宝は三頭分にして荷物にまとめる。
旅立ちの準備ができた頃、まだ作業をしていたボランに聞く。
「ボランはこれからどうするんだ?」
「俺はこのお宝を金に換えるから、ガバンボリーに戻るつもりだ。お前達は?」
「ああ、俺達は東の方にある目的地に行くよ」
「場所がわからないのは難儀だな! まっ、お前達なら大丈夫だろ!」
そう言うとボランが手を差し出す。俺も手を出し別れの握手をする。
「ボランとはここでお別れか…。少し寂しくなるなぁ」
「ワハハ! 俺の魅力に参ったみたいだな! しかし、安心しろ! また会える。俺の直感が言っているからな!」
「ハハハ…そうだよな! 直感があるもんな!」
ボランが荷物を背中に担ぎ、
「それじゃ、ロックくん、お嬢さん達、坊主! またな!」
そう言ってズンズン歩いていった。遠くなる背中を見つめながら、
「こちらも行きますか! マクレイ! フィア! ロック!」
「そうだね、あんた一人じゃ心配だからね」
美人さんが素敵な笑顔で応え、
「勉強も途中ですカら」
子供の大きさの人形が言い、
「ヴ!」
大きな岩が吠えた。




