116 エピローグ
家を構えてから一週間がたち、それぞれ新生活でのリズムがつかめてきたようだ。
その間、ダイロンが書類を持って訪ねてきた。
家が建っている事にも驚いたが、新たに増えた魔人にも驚いていた。
さすがにケジメとしてマクレイとモルティット、二人に申し込んで正式に結婚した。リンディは保留しているが本人はその気満々だ。俺の理性が保てるうちに諦めて欲しい、切実に。じゃないと誘惑に負けそう。
精霊主達もたまに顔を出すようになった。一緒にお茶をしたり、買い物に出たりと楽しそうだ。
もちろん冒険者として、前に良くやっていた薬草取りや魔物退治などの依頼をこなした。主にマクレイとモルティットが。俺ってヒモっぽい? まだお宝が残っているので、しばらくはお金には困らないからいいか。
フィアはその可愛さから町のアイドルになりつつあるようだ。買い物に行くといつもおまけが多い。得してるね。それに珍しい書物などを手に入れて、日々研究をしているみたいだ。
クルールは町中では胸元にいるが、それ以外はフラフラと飛んでいつも嬉しそうだ。
ロックも力仕事を手伝ったりと何かと重宝する存在だ。皆、頼りにして本人も満足そう。
ある日、皆でお茶を飲んでいると誰かが訪ねて来たようで俺の名を呼んでいるのが聞こえた。リンディが率先して出て行った。
「はぁ? あんた誰? うちのダンナにどんな用なのさ?」
「ブーーー」
玄関から聞こえた声に茶を吹いた。マクレイ達は笑っている。
慌ててリンディの元へ行く。
「ま、待てリンディ! まだ結婚とかしてないだろ!」
そう叫んで玄関に出ると“転移者狩り”のカレラとリンディが睨み合っていた。
俺に気がついたカレラは微笑んで挨拶してくる。
「お久しぶりですナオヤさん。言伝があって来たのですが……」
そう言ってリンディをものすごい怖い顔で睨んだ。なんでエルフってそうなの?
とりあえず居間に案内して話しを聞くことにした。
カレラにこれまでの事を話すと姿が変わったフィアに驚き、俺が結婚した事にも驚いていた。
「ずいぶん会わない内に皆さん変わられましたね、驚きました。頭領のバガン様より言伝を預かりました。『我が“転移者狩り”はこれをもって解散する。これより世界は“契約者”に託した。それと使いに寄こしたカレラを頼んだ』です……」
言い終わったカレラは頬を赤く染めて俯いている。は? なんなの? マクレイとモルティットを見ると睨んできた。
「えーと、“転移者狩り”の事はわかったけど、カレラって…」
「おそばにいさせてください!」
顔の赤いカレラが両手を組んで懇願してきた。
「ダメだね。あたしが先なんだから!」
リンディが腰に手をあてて怒って言ってくるとすかさずカレラが反論する。
「何故です? あなたは結婚すらしていないじゃないですか!」
「む。ぐっ!」
言葉に詰まったリンディが顔を赤くする。もう、どこかでやって欲しい。
「二人とも落ち着いて。さすがに家の部屋が空いてないから町に住んだら?」
余裕のモルティットがお茶を手に提案してきた。いや、それだと問題は解決しないよね?
「ああ、それがいいよ。領主のダイロンにはアタシが言っとくよ」
マクレイも何故かモルティットの提案に乗ってきた。二人ともおかしいって!
「……わかりました。そうします。でも、あなたには負けませんから!」
渋々了解したカレラがリンディに宣戦布告した。もーわけわからん。
「ちょっと二人に聞きたいんだけど、なんで俺なの? 他にもいるじゃん!」
「……」「…」
疑問を素直にぶつけると二人とも押し黙った。えー、なんで?
「ふふっ。この人、ホントこういう所があるよね。応援はしないけど頑張って。私も長かったし、ね」
モルティットが二人の代わりに答えてウインクした。最近はそのネタでよくからかわれる。マクレイは苦笑いしていた。
それからカレラはここに近い場所の家を借り暮らし始めた。
仕事が無い時はこの家に来て皆と一緒に過ごすことが多くなった。なんだかんだでリンディとも上手くやってるようだ。
俺としては嫁の二人で、いっぱいいっぱいなんですけど。
今日は居間でアーテルとお茶を囲んでいる。フィアとクルールも一緒だ。他の皆は仕事に出ている。
『ああ、こういうひと時っていいですね』
「ホントだよ。旅に出たとき以上に騒がしいよね、この家」
アーテルの言葉に続けるとフィアが吹いていた。クルールはお菓子に夢中だ。
『フフ。皆さん幸せそうですよ。とても活き活きしていて羨ましいわ』
「そうだといいけど。幸せでいてくれたら俺も嬉しいよ」
そう答えるとフィアが手を握ってきた。
「ワタシは幸せでスよ、ナオヤさン」
ニッコリと頭を傾けながら言われた。サラサラと銀色の髪が流れる。優しいなぁ、フィアは。
『あの、ナオヤさん。ソイルの事なんですが……』
アーテルがおずおずと聞いてきた。
「ああ、最近はよく現れるから、すっかり家族の一員みたいな感じだよね」
『え!? そ、そうですね。良かったですねソイル。フフ』
「なんで? ソイルに何かあった?」
少し戸惑っているアーテルに聞くと
『いいえ、今のままで十分ですよ。ナオヤさん』
微笑んで答える。ソイルはよく姿を見せ、一緒に過ごす時間が多くなっているので皆とも仲がいいし。困っていることでもあるかな?
「でも、ホント不思議だ。てっきり精霊を解放した時にアーテル達とも別れると思ったよ」
『フフ。私達はいつまでもあなたと共にいますよ』
微笑んで見つめてきた。フィアも嬉しそうだ。気持ちが温かくなる。
マクレイ達が戻るまで静かで温かいひと時を過ごした。
あと、クルールは食べすぎだぞ。
「ほら、ナオヤさん、こちらを……」
「助けてマクレイ! モルティット!」
今日も積極的なカレラから逃げるとリンディに捕まってしまう。
今は後ろから抱きしめられている。そんな俺を見てカレラは残念そうにしてる。自分が捕まえたかって事?
リンディが耳元で囁いた。
「ナオヤもさぁ、決めてくれないと困るよ。そろそろ親父が捜索隊を編成してる頃だよ?」
「いや、だからリンディが戻れば解決じゃん!」
そう言うと満面の笑みを浮かべたリンディが一言。
「イヤ」
ああ、もう! なんでだこれ。結婚したら楽になると思ったのに…。
と、マクレイが来た。
「ナオ、遊んでないでお客だよ」
リンディから引きはがし解放してくれた。悔しそうなリンディとカレラをほっといて居間に行く。
「そっちじゃないよ。外だよ、ナオ」
「え? 誰?」
「フフ、会えばわかるさ」
マクレイと一緒に外に出るとそこには良く知っている大きな黒竜がモルティットと一緒にいた。
「ドウェン!!」
「久しぶりだな“契約者”よ。おっと、気が早いな」
思わず黒竜の鼻面に抱きつくと、ドウェンは目を細めた。
「相変わらずだな。聞いたぞ、二人と結ばれたそうだな。おめでとう」
「ありがとう。なんか照れるな」
「ハハハ、若いな。ところでいいかな?」
ドウェンがいくぶん硬い口調になった。黙って頷く。真剣な話しかな?
「うむ。実は我が王がお主を呼んでおるのだ、何でも“契約者”が必要な事案があるようだ」
「わかった。今すぐ?」
「さすが話しが早い。ではまいろうか!」
そう言うと巨大な背中を向ける。
「ちょと待って、皆を呼んでくるよ! モルティット、マクレイを抑えてて!」
モルティットに言うとニッコリして青ざめたマクレイの腕をつかんでいる。
急いで家に入ると二階に向かって叫ぶ。
「フィアー! 竜の国へ行くぞー! ロックー! クルール!」
するとフィアが荷物を持って階段を慌ただしく降りてきた。
「ナオヤさン。いつも突然すぎデす」
ロックも出てきた。クルールも素早く俺の胸に飛び込んでくる。
「よし、行くぞ!」
皆でドウェンの背中に乗ろうとすると、リンディとカレラが駆け寄って来た。
「あたしも行くよ!」
「私も!」
ドウェンは目を細めて、
「また、これはずいぶんだな。若いな。ハハハ!」
「彼女達はまだ違うから!」
「まあいい。全員乗ったな! では参るぞ!」
そう言うとドウェンは上空へ舞い上がった。すかさず精霊主達を行使する。
「ベントゥス! カエルム!」
風が弱まり、冷たい空気も暖かくなった。すると飛行のスピードが上がる。
青くなったマクレイを抱きしめているとモルティットがクスクス笑って、
「ふふっ。しばらくは、のんびりできなさそうね? 英雄さん?」
「モルティット!」
またからかわれた、調子が狂うな。いつもモルティットには翻弄される。真っ直ぐなマクレイとは正反対だ。だから良いのかも知れないけど。
笑っているモルティットが続ける。
「あなた、まだ貸しがあるの覚えてる?」
「ああ、忘れたいけどね」
「じゃあ、今、お願い聞いてくれる?」
相変わらず魅力的で怒ると怖くなる笑顔で聞いてきた。
「どうぞ」
先を促すが言う事をなんとなく予想できた。
モルティットは白い髪をかき上げ微笑んで言ってきた──
「私達をこのまま幸せにしてください。旦那様」
青い顔のマクレイも嬉しそうで、無理して笑顔をつくっている。……引きつってるけど。
フィアはニコニコして信頼を崩さない。笑顔のクルールは胸元で目を細めていて、ロックも張り付いて親愛の目を向けている。
リンディとカレラは初めてのドウェンの背中に余裕が無く、竜の毛をつかんでバランスをとるので、いっぱいいっぱいな感じだ。
そんな家族と仲間を見渡し、覚悟を決めた!! 俺のできる限りをするさ!
「するよ、絶対にさ! みな幸せにするよ!!」
そう叫ぶと、嬉しそうな黒竜ドウェンが飛行スピードを加速し雄叫びを上げる。
その響きは青空に舞上がり世界中に届いていった──
おわり
お読みいただきありがとうございました!
無事完結いたしました。
その後の話しを少し書きましたのでご興味があればどうぞ。グダグダですが。
詳しくは活動報告にてさせていただきます。
今までお付き合いいただき感謝します。




