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114 アルルの町

 

 恐る恐る仲間の元へ近づくと復活したのか、まくし立ててきた。

「ナオ! なんでいつもそうなんだ!!」

「もー、ちょっと! 私にもしてよ!」

「あレは何でしょウか? 不思議でスね!」

 マクレイ、モルティット、フィアがそれぞれ言っている。フィアだけ違う質問だね。


 どう言ったらいいか考えていたら、マクレイが抱きしめてきた。

「でも良かったよ。何もなくてさ」

「ほら、言ったじゃん。大丈夫って」

 耳元で答えるとピクピクしている。と、マクレイが引きはがされ、モルティットが抱きついてきた。

「ホントに心配したんだよ? わかってる?」

「いや、気持ちは嬉しいけど、ほら、後ろ! マクレイが…」

 言い終わる前に怒りのマクレイがモルティットを引きはがした。対峙(たいじ)する二人…。いや、こんな所で何やってんの?


 二人を止めようとしたとき、チラホラと雪のように光の輝きが降り始めた。

 手に受け止めてみると輝きはスッと消える…。

 この感覚は良く知っている……。


「こ、これは精霊だ!」

 辺りを見るとまるで輝きの雪が全てを覆っているようだ。フィアが感嘆の声を上げる。

「不思議な光景でス。ワタシの体に入ってくルと活力がみなぎるようデす!」

「あ、そうか! フィアって精霊の力が必要だからか!」

 フィアの手を握って上空を眺めると輝きが夜空一杯に広がっている。おおぉー、凄い光景だ!


「ナオヤさン…」

 輝く夜空を見ながらフィアが話しかけてきた。


「なに?」

「ワタシ、皆さんと来て良かっタ。あノ時、三人に出会えテ本当に良かっタ…」

 涙を流すフィアが抱きついてきた。腰を落として俺も抱きしめる。


「俺もフィアに出会えて本当に良かったよ……」

 ヤバい、俺も涙出てきた。胸元のクルールが嬉しそうにフィアの頭をナデナデしている。


 ふと前を見るとマクレイとモルティットが輝きの中、微笑んで温かく見守っていた。ロックも嬉しそうに静かに(たたず)んでいる……。



──



「こんにちはー」

「ああ!? な、ナオヤかよ! また、ずいぶん久しぶりだな!」

 アルルの町にある冒険者ギルドに行くと、懐かしのダイロンが出迎えてくれた。相変わらず一人でいるみたいだ。

「実は相談があるんですけど…」

「なんだ? って、おい! 仲間がずいぶん増えてるな! え? あんたひょっとして氷の…」

 驚いているダイロンが気づくと後ろから恐ろしい冷気が襲う。ダイロンはビビって

「ヒィッ! いや、なんでもない! ここじゃアレだから、奥に行こう! な?」

 そう言うと奥の会議室みたいな所へ案内された。おー、初めて入った。

 モルティットとフィア、クルールをダイロンに紹介すると、ダイロンはますます驚いていた。


「で、相談ってのはなんだ?」

 やっと落ち着いたダイロンが話しを切り出した。

「実は、この町に定住しようと思って。ここを治めている領主様に紹介してもらえると助かるんですけど…」

「はぁ!? ホントか? 騙そうってわけじゃないよな? いいか、自分で言うのもアレだが、ここは辺境近くの寂れた町だぞ。それでもいいんだな?」

 思いっきり、この町を落としてるね。なんでだ?

「ああ、皆で話し合って、ここに決めました」

 そう答えると少し呆れたダイロンがため息をついた。

「はぁ。ナオヤ、気楽に言ってるけど仲間を見ろよ。有名な冒険者二人に妖精もいるし、外には例のゴーレムもいるんだろ? それに初めて見る種族のお嬢さんだ。ハッキリ言って王に知れたら大騒ぎだぞ」

「そこをなんとか頼むよ! 頼れるのはダイロンだけなんだ!」

 手を合わせて言うと難しい顔をしているダイロンは天井を見ながら、

「ま、まあ、こんな辺ぴな田舎じゃ、王都の連中は来ないか…。しょうがない嘘の申告でもしとくか…」

 なんか勝手にダイロンが決めてるぞ。

「ちょっと、ダイロン! 勝手に決めて大丈夫なの?」


 するとダイロンが笑い始めた。

「ワハハハ! ああ、スマンかった。そういえば言って無かったな、ここの“領主”は俺だ。ワハハ!」

「はぁ!? だ、だってダイロンは冒険者じゃないの?」

「昔、大仕事をしたら褒美で爵位を貰えたんだよ。それでここを領地にしているわけだ。実はここだけの話し、ここの規模は村なんだよ。つい見栄を張って町にしてるわけだ。ワハハ!」

 衝撃的事実! ダイロンが領主だったのか…。あれか、最初に出会った時から領主と接していたわけだ。


 すると今まで大人しく話しを聞いていたモルティットが口を(はさ)んできた。

「ねぇ、ダイロンさん。ナオはさ、ただの冒険者じゃないんだよ。“契約者”なの。見たでしょ? あの精霊の輝きを」

「は? ええーー!? おい! 本当か?」

 ものすごい目を見開いて俺に迫って聞いてきた。余りの勢いに黙ってコクコク頷く。


 急に汗をかいて青くなったダイロンは(ひたい)に手を当てて嘆いてきた。

「まいったなこりゃ。世間じゃ、あの精霊が降ってきた話題で持ちきりだぞ。当の本人が目の前とは…。ますます報告できん!」

「え? そんなに深刻?」

 心配して聞くと、幾分立ち直ったダイロンが

「ナオヤ……。まったく、これも運命ってやつかね」

 そう言うとニヤリとして俺を見た。

「よかろう! 許可するぞ! 書類は後日、用意しよう。ワハハ、なかなか面白くなってきたぞ!」

 ダイロンがそう言って握手を求めてきたので応じて話しを詰めた。



 その後、家を建てる場所に移動した。

 この辺一帯はダイロンの領地なので好きな所に建てて良いそうだ。ずいぶん適当だなぁ。

 皆で相談して町はずれの土地に決めた。

「ソイル、アウルム、シルワ」

 家の周りに塀ができ、一階部分の天井が高い二階建ての家を作ってもらう。

「ホントに便利だねぇ。部屋数は大丈夫かい?」

 マクレイが聞いてきたので笑顔でサムズアップしといた。


 しばらくすると家ができたので、皆で中へ入る。ロックが玄関前で留まろうとするので、無理やり中へ入れる。

「ヴ」

「え? 外でいいって? せっかく一階部分はロックも入れるようにしたから一緒にいようよ」

 というわけで、ロックも含め全員が居間に集合した。余裕のある大きなテーブルに椅子、部屋もロックが通れるぐらいの広さがある。さすが精霊主はわかってる!

 家具類や食器類も作ってもらい、念願の風呂場もある! 感動した。

 二階の寝室にはベッドはあるが、毛布やマットはさすがに買わないと無いみたいだ。

 その後、全員で町へ挨拶がてら買い物に行き、お世話になった宿屋のおばちゃんにも会いに行った──



──“世界の頂”の出来事の後、下山して皆とこれからの事を話し合った。

 最初はフィアの家に住もうとしたけど、人数が多いのと思い出として残したいとのフィアの意見でそのままにしておくことになった。

 そこで、どこが住みやすいか? となった時にマクレイと初めて会った場所がいいという事になった。

 どうも今回の件は世界中に関係しているので“契約者”は注目の的になるとモルティットが語った。

 北の島から嫌がるマクレイを船に乗せ、アルルの町がある西の大陸へ旅立ち、後は陸路で移動してたどり着いた。

 途中、フィアと会った荒野、アクアと契約した湖、マクレイとロックに初めて会いソイルと契約した巨石を通ると、なんだか感慨深いものがあった。マクレイを見ると同じ事を思ったのか微笑んでいる。

 とても昔の出来事のように感じた──



──買い物を終え家に戻り、必要な物をセッティングしたりして皆で楽しく整理した。

 ロックは居間で(たたず)み、クルールは楽しそうに家の中をあちこちフラフラしている。

 作業してる途中、フィアが遠慮して言ってきた。

「ナオヤさン。ワタシは別に部屋はいりませンよ?」

「えー、何言ってんのフィア。これからいろいろな書物とか増えるだろ? 後、研究したりするだろ?」

「……そうですケど」

 フィアの頭を撫でて、笑いながら、

「遠慮するなよ! 家族だろ! それに作ったのは精霊主達だし」

「もウ! ずルい!」

 楽しそうに笑いながらフィアが文句を言う。マクレイ達も作業が終わったようだ。

 とりあえず皆で居間のテーブルについて、フィアが温かい飲み物を用意し落ち着ける。


 するとソイルが不意に現れた。

『こんにちは皆さん』

「あ、ソイル! こんにちは!」

 挨拶を返すと少し照れくさそうにしている。

「アタシらは、席を外すよ」

 マクレイが気を利かせてイスから立ち上がろうとするとソイルが止めてきた。

『待ってくださいマクレイディア。私は皆さんに聞いてほしいのです』

「そうなのかい?」

 少し驚いてマクレイが再び席につく。


 ソイルは空いているイスに座ると、全員を見渡した。

『私は皆さんに謝らなければならない事があります』

 俺の目を見てソイルは重い口を開いた。

 え? なにかしたの?



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