113 雪山
「ギュォオオオオオオオオオオオオ!!」
目の前のドラゴンが大口を開けて威嚇してきた。あまりの音のデカさに周りがビリビリ震える。
「あ! あの歯の一部が欠けてマす。きっトあのドラゴンが村を襲った魔物でス!」
フィアが鋭く観察したようだ。探す手間が省けて丁度良かった。
するとドラゴンの口から鋭い氷の針を無数、飛ばしてきた!
「ニクス!」
氷の壁がドラゴンの攻撃を防ぐ。
「ナオ! 近づくから援護して!」
「いや、ダメだ! 俺が決着をつける!」
マクレイがドラゴンに向かうのを押しとどめて宣言した。一瞬、意外そうな顔をしたがマクレイは頷いた。
「ふふっ。じゃあ、ナオを援護するよ」
モルティットが微笑んで補助器を上げると魔法を行使しニクスの作った壁をさらに強化する。
「皆、ここで待ってて。ロック、頼む」
「ヴ」
氷の壁から飛び出す。同時にロックも俺の前へ出て盾の役をしている。
俺に気がついたアイスドラゴンは氷の壁に攻撃するのを止めて向かってきた。青白い巨体が前進する。そのまま踏み潰す気だ!
「ニクス! ベントゥス!」
突然の強風にアイスドラゴンは突進の勢いを削がれ、両脇に突如現れた氷の巨人に殴られる!
氷の巨人はアイスドラゴンを拳が欠けるのもかまわず打ちのめしている。キラキラと氷の破片が舞い散り、次々と繰り出される拳に硬いドラゴンの鱗はひしゃげて血が噴き出している!
「トルニトス!」
ズドドッドドドド────
さらに上空から激しい落雷がアイスドラゴンを襲う。氷の巨人に両側を攻撃され身動きできないまま、強烈な電撃を浴びる!
「ギャァアアアアアアアアアアア!!」
悲鳴にも似た叫びが轟く。ドラゴンの両翼が電撃によって崩れ落ち、雪の残る地面に転がる! 翼は炭のように黒くなっていた。
アイスドラゴンは叫びながらも鋭い牙で噛みつき氷の巨人一体を粉砕する! 黄金の目はまだ俺を狙っているようでギラギラしている。
「アルブム!」
丁度もう一体の氷の巨人をバラバラにしたアイスドラゴンにレーザーが横なぎに照射された。
アイスドラゴンは避けようと首を上に持ってきたところに光線が当たり、胴体と首を切り離した!
叫ぶ間もなくアイスドラゴンの体が地面に崩れ落ちた。ズズゥゥン! 衝撃で地面が揺れる!
ズシャ! 遅れて頭も土に叩きつけられ転がっていく…。
終わったかな?
ロックを見るとサムズアップしてきたのでお返しした。ありがとう精霊主のみんな!
仲間の所に戻ろうと振り返ると、いきなり抱きしめられた。
「これじゃあ、アタシの出番がないよ。滅茶苦茶だよ」
マクレイが嬉しそうに囁いた。ギュッとすると返してくれた。
「今回はあの村の仇だから……」
「フフ。わかってるさ」
言い訳すると頭をくしゃくしゃしてきた。
「私も!」
モルティットが背中に抱きついてきた。嬉しいサンドイッチだけど、恥ずかしすぎる。
「いや、わかったから! 一旦、みんなで離れよう!」
「イヤ!」
拒否したモルティットの息使いが首筋をくすぐる。ゾワゾワするからやめてください、エルフさん。
「助けて! フィア!」
フィアを見つけ助けを求めると微笑んで、
「頑張ってくだサい」
そう言って抱きついてきた。いや、なんか圧迫されるから! 段々苦しくなってきた。何とかしないと!
それから何とか皆を引きはがして再び山へ向かう事になった。
倒したアイスドラゴンはイグニスに燃やしてもらって、灰にした。
フィアはその中から小さな牙を数本回収していた。さすが研究肌だね。
移動している時、ふと、呼ばれたような気がして後ろを振り返ると、あの名もない村の白い男が手を振っていた。
俺が手を振り返すと、気がついた仲間が振り返ってギョッとしている。
するとスーっと白い男は消えていった……。
雪の降る中を進み山に入ると上へと登って行く。
中腹近くで泊まって疲れを癒し、翌日も登っていく。先を見ると白い山道が続いている…。
登ってきた足跡も静かに降る雪に消されていき、やがて頂上へたどり着く。荒い息を落ち着かせる為、白い息を吐き出しながら立ち止まる。心なしか空気が薄い。
「まだ先だ……。さ、寒い……」
「ほら、しっかりしな!」
マクレイが抱きしめてギュッとしてくるが、さすがに寒い…。目で訴えると困った顔をしている。
「ふふっ。そろそろスパルタも限界ね」
モルティットも引っついてきた。
「ワタシも寒くなってきまシた」
フィアも同様にくっつく。するとマクレイは頭に積もった雪をはたいて、
「あーわかった! いいよ、ナオ」
「ありがと! カエルム! ベントゥス!」
すると、仲間を入れたドーム状に雪が無くなり快適になった。はぁ~生き返る。
「マクレイ! 好きだーーー!」
「なにしてんだい!」
叫んでマクレイに抱きつくと投げ飛ばされた。地面に転がる。痛ってええ。
「なんで私に来ないの?」
モルティットが横たわった俺の横にしゃがんで怒ってる。えぇー。
なぜか全員に怒られ先へ進む。快適なおかげで体が軽い。一山越えさらに山を登って行く。
今までで一番辛いな、これは。
モルティットもフィアも何で平気なんだ。ちらりと見ると二人とも微笑んで応える。
前を歩くマクレイはしっかりした足取りで進んでいる。おぶって欲しい…。そう思ってると、振り向いて睨んできた。エスパーなの?
その日は野営し翌日も登った。だいぶ標高も高い所にいるようで、雲が下に見える。精霊主達がいなかったら無理だな、これは。
やがて夕刻過ぎに目的の場所についた。
そこは平な広い所になっており、まるで用意してあったように見慣れた丸い台座が中央に鎮座していた。
「……ここかい?」
周りを見渡したマクレイが息を飲んで聞いてきた。頷いて答える。
皆をその場に置き、台座の近くへ行くといつの間にか精霊主達が輪になって周りに立っていた。
『ようこそ“世界の頂”へ』
ソイルが口を開いた。周りの精霊主は微笑んでいる。
『時は来ました。さあ、ナオヤさん台座へ』
アーテルが手で先を示す。
仲間を見ると泣きそうな顔のマクレイがいた。モルティットも眉が下がっている。フィアは壮観な眺めに感動しているようだ。ロックは静かに佇み、クルールは何故か俺の胸元から離れようとしない。
皆に微笑んでから台座に向かう。
十二人の精霊主達に見守られながら台座に上がる。すると、精霊主達は一斉に詠唱を始めた。
その十二の言葉は一つになり、辺りを染めていく……。
輪になっている精霊主達は両手を上げ詠唱を続けていく。やがて俺の中が熱くなり体が淡く光り始めた。
ビックリして手を見ると光っている。不思議!
頭の上の方から輝きが射してきている。見上げると輝きの玉があり、俺の体の光が輝きの玉に向かってユラユラと上って吸収されている。
輝きの玉は少しずつ大きくなっているようだ。俺自身には特に支障は無いのが疑問だ。これでいいのかな?
詠唱の声が徐々に大きくなると辺りはオーロラのように鮮やかな大気のカーテンが囲んでいる。
神秘的な光景の中、輝きの玉が山々を照らすほど眩しくなると、上空へと昇っていった……。
やがて詠唱も終わり、ソイルが静かに口を開いた。
『ありがとう、ナオヤ。無事に終わりました』
ビックリして聞き返す。
「え!? あれでいいの?」
『フフ。拍子抜けしましたか? でも、これは常人には叶わない事ですよ』
ソイルが近づいてくる。他の精霊主達はいつの間にか消えていた。台座を降りて答える。
「そ、そうなのか…。まあ、無事に終わってホッとしているよ」
『本当にありがとう。これは私からのお礼です』
ソイルが俺を優しく抱きしめて口づけをした…。あれ?
少し赤くなったソイルは体を離れると微笑んで消えていった。マジか…!
手で口を覆ってマクレイ達を見ると皆、目が点になっていた。




