112 名もなき村
平屋の中は暖かいが背筋は寒い。
どうも外には出られないようだ。先ほどまでは呑気にしてたのに、どうなってんの?
「ローックーーー!」
「……」
外に向かって叫んでみるが反応が無い。ロックはどうしているのか?
「ナオ。思った以上にヤバい気がするよ」
マクレイが俺の肩に手を置いて言ってきた。
「偶然だね。俺も同じ事、思ってた」
笑って言うと睨まれた。
「シルワ!」〈ごめんなさい。これは魔法的なものです〉マジで!?
仲間を見ると戸惑っているようだ。
「き、聞いてくれ、この現象は魔法らしい。モルティット、調べる事はできる?」
「んー。やってみるよ」
そう言うとモルティットは目を閉じ、両手を頭の上で交差させた。うーん、このポーズ。ヨガっぽい。
「プ」
少し吹き出しかけると、薄目を開けたモルティットが睨んできた。怖えぇ。それを見たマクレイが苦笑いしている。
フィアは頭を傾け不思議そうにしていた。ちなみにクルールはマクレイの胸元で寝ている。よだれ出てるぞ。
しばらくするとモルティットがポーズを解き目を開けた。
「確かにこの家と周りには魔力を感じるよ。でも濃すぎてたどれないよ」
そう言うとマクレイを見つめてウインクする。
「お願いね、マクレイディア」
え!? マクレイって剣士じゃないの?
俺の視線に気がついたマクレイは顔を赤くしている。恥ずかしいの?
「ふふっ。ホントは里一番の魔法の使い手はマクレイディアなの。でも、本人は嫌で剣一筋なんだよね?」
「あーうっさい! いいんだよ。アタシは今が一番いいんだよ!」
怒ったマクレイがモルティットに食って掛かる。モルティットは慣れているのか涼しい顔だ。
「マクレイ、俺からも頼むよ。できる事はしたいんだ」
「う…わ、わかったよ。いいか! ナオ以外の言う事は聞かないから!」
真っ赤なマクレイがそう言うと目を閉じ集中し始めた。固唾を飲んで見守る。が、まじまじ顔を見てると耳がピクピクしてきた。
「あーもう! ナオは見ないで!」
そう言って背を向けて集中し始めた。邪魔してた? そう思ってモルティットを見ると苦笑いしている。
やがて振り返ると床の一部を指さし
「ここからだね。魔力の根源は違うところにあるよ。この下からたどって行けると思うよ」
するりと剣を抜き、炎をまとわせると示した場所を突き刺す。
意外なことに剣の中ほどまでスルリと床に入ると家の様子が一変した。
あんなに頑丈だった玄関の扉がひび割れギギギと斜めに垂れ下がった。外にいたロックが壊れた扉から中を覗いている。そして部屋の中は入った時以上にあちこちが欠けたりひびが入り、さらに天井に穴が空いている状態になった。もはや廃墟の家のようだ。
丁度、剣を刺した場所には地下へと階段が続く穴が出現していた。
「こ、これは変わり過ぎだろ! なんか化かされた気分だ」
感想を呟くと頷いたフィアが続ける。
「そうでスね。ひょっとして以前のワタシなラ、騙さレていなかったかもしれまセん」
気にしていない気持ちを込めフィアの手を握るとニコッとしてきた。い、癒しだ。
「さすがね! やっぱり違うね!」
嬉しそうなモルティットがマクレイを褒めると嫌そうな顔をして、
「フン。もっと頑張ってよ、モルティットもさ」
そう言ってモルティットの肩を叩いた。そんなエルフ達に向かって声をかける。
「さ、じゃあ、下に行こうと思うけど、いいかな?」
「ああ、ここまで来たんだ。最後まで見ないと気持ちが悪いよ」
マクレイが微笑んで言ってきた。モルティットもニコニコしている。
それから外にいるロックを呼んで大きさを変えてもらい、穴に入って調べる事にした。
階段を下ると真っ暗な洞窟が先へ続いていた。ちょうど人が二人並んでぎりぎり通れる大きさの洞窟で、どこか息苦しい雰囲気がある。アルブムに照明を点けてもらい俺達の先を照らしながら進んだ。
洞窟はやがて行き止まりになり、そこには白骨化した躯が横たわっていた。
その隣にはボロボロになっている厚い本が置いてあった。
「きっと、これだね。この魔導書から強く感じるよ」
マクレイがそう言って分厚い魔導書を取り上げ内容を確認しはじめる。
他に何かないかと調べると大きな牙のような物を拾った。
「フィア。これってわかる?」
拾った牙のような物を渡すとフィアはまじまじと見て答えた。
「こレは、大型のドラゴン種の歯の欠片でスね。一部なので断定はできませンが」
「なるほど、ありがとう」
そう言って歯の欠片を受け取る。丁度その時、マクレイが魔導書から顔を上げた。
「これは半分以上、この村を構築するための呪文だね。最後の方に大きな魔物に襲われ村が全滅したと書いてあるよ。最後に生き残った魔法使いがこのガイコツかもしれないねぇ」
そう言うと魔導書に火を点けるとボロボロの本はあっという間に燃え尽き、マクレイは俺の方を向く。
「これでここにかけられた魔法は解けたよ。戻るかい?」
「ああ、でも可哀そうだからこの骨も持って行って墓を作ろう」
そう答えるとマクレイは微笑んで骨を回収し始め、終えると来た道を戻り、廃墟と化した家へ戻る。
外へ出ると、土台だけ残った家や、半壊している倉庫などが雪に覆われていて村が廃墟になっている様が見てとれた。
「あのさ、ひょっとしてこの魔法は敵討ちをして欲しくて使ったんじゃないか?」
「ふふっ。そうかもね。で、どうするのお人好しさん?」
皆に聞くとモルティットがからかうように聞いてきた。マクレイはため息をつくと、
「はぁ。どうしてナオといるとこうも大事になるんだろうね? アタシはさ、いつも心配してるのに…」
少し泣きそうな赤紫色の瞳で見つめてきた。
「マクレイ……」
「ごめんよ、今のは愚痴さ。さ、とっととソイツを倒して先に進むよ」
そう言うと俺の頭をくしゃくしゃして微笑んだ。なんだこれ、抱きしめたい!
そっと俺の手をフィアが握ってきた。顔を見るとこちらも微笑んでいる。ありがと。
「皆、悪いけど敵討ちに付き合ってくれ」
モルティットがフィアの肩に手を置くと笑って言ってきた。
「悪くないよ。最初から知ってるから、ね」
なんか照れる。仲間の気持ちが温かった。
名も知らない魔法使いの男の墓を作り、黙とうをした後、敵の魔物を探しに出発した。
が、もう夜更けなのでソイル達に家を作ってもらい一泊した。
翌日、探索を続ける。
精霊主達にお願いして周辺を調べてもらっているがこの近くにはいないようだ。
廃墟と化した村を調べ、魔物がどこからか襲ってきたか推測する。フィアが言うには、俺達が向かっている山の方から来た可能性が高いようだ。その言葉に先へ進む事にした。
雪の道を進むのは体力がいるのを初めて知った。いつもより歩いていないのに疲労が溜まる。足は雪にとらわれ思うように歩けなかった。皆を見ると慣れたように進んでいる。あれ? 俺って足を引っ張てる?
はぁー、休みたい。隣のマクレイを見ると目を逸らされた。絶対気がついてるよね?
反対側のモルティットを見ると微笑んできた。こっちはダメだ。誘惑に負けそう…。
しばらく進んだ所で休憩になった。疲れたー。
ソイル達に家を作ってもらい、居心地の良い中で休む。温かいスープが身に染みて美味かった。
イグニスに出してもらった火で暖まっていると、両脇にマクレイとモルティットが引っついてきた。嬉しいけど、難しい局面だ。
フィアに助けを求め見ると、凄く難しい顔をして目を合わさないようにしている。いや、普通に見ていいんですけど。
と、外にいたロックから警告が来た!
「ヴ!」
「な、なんだ!?」
ガガッ! ゴガッ!
ビックリして立ち上がると家が激しく揺れる。ソイルが説明する〈これはアイスドラゴンですね〉えっ!?
「ど、ドラゴンの襲撃だ!!」
叫ぶと皆が警戒の態勢に入った。どうやらこの家を攻撃しているようだ。
さすが精霊主が作っただけあって頑丈なようで、振動が伝わるが何とか耐えている。
入り口にいるロックが立ちふさがり、盾の役目をしている。
「一旦、外で戦った方がいいよ。この中だと、最悪潰されるよ」
マクレイが炎をまとった剣を手に持ち声を上げた。
「わかった! 行こう!」
返事をして皆で警戒しながら外へ出ると、目の前に氷のようなドラゴンがいた…。えぇ!?




