110 海賊退治
翌日、指定された場所へ皆で向かう時、めずらしくロックが聞いてきた。
「ヴ」
は? “俺はどうするの?”って、なんで全員知ってるんだ、これ。
「ロックも一緒に決まってるじゃん! 離れるなんて考えた事もないよ」
「ヴ!」
ありがとうって言われた…。しかもロックが照れてるし。初めて見たよ、そんな所。
やがて指定場所に着くと、そこは港の一角で、すでに冒険者達が集まっていて賑やかになっていた。
少し顔色の悪いマクレイを気にしつつ待っていると、ギルドマスターのホッグが身なりの良い人達と共にやってきた。この町の領主かな?
しばらく待つと全員が集まったようで、大きな木箱の上にホッグが立ち声を出した。
「よく集まった! 作戦は日が沈む頃に行う。それまでは待機してくれ。合図はデカイ火だ! これを見たら各自、行動を起こしてくれ! 冒険者には栄誉と報酬を! では解散!」
そう言うと箱から降り領主と思われる人達と共に去って行った…。短いのはいいけど説明してないし。
隣のマクレイを見るとニッコリしてきた。いや、意味が違うから。
「ま、しばらく暇だな。食堂で休むか?」
タツミが提案してきたので乗って、皆で食堂へ移動した。
「さて、こちらは俺達で話しを詰めた方がいいな? 提案はあるか?」
タツミが飲み物を手に取って言ってきた。
「俺としてはアクアを使って、一時的にここから海賊の周辺まで海をどかせば歩いていけるし、敵も逃げられないと思うよ」
皆があっけにとられている…。あれ? 間違えた?
「ナオ、無茶苦茶だよ…。もう少し穏便にできないかい?」
横のマクレイが少し嬉しそうな顔をして俺の頭をくしゃくしゃしてきた。
「しかし、とんでもないな。よく考えたら何でもできそうだなナオヤは…」
タツミが呆れて言ってきて、ユキエが続ける。
「それじゃあ、前の時みたいにナオヤがサポートして私達が前に出る形がいいかもね?」
「ああ、そうだな。それがいい!」
タツミが賛同し二人が微笑み合う。いい感じだな、俺もそういう感じになりたい……。
それから全員で作戦を練り、他の冒険者とは異なる方法に決定した。
後は雑談をして時間を潰していたが、はたと気がついた。
「ふ、フィア! そう言えば海水って大丈夫なの!? 錆びない?」
焦ってフィアに聞くと頭を傾け考えているようだ。銀色の髪がサラサラ流れる。
「わかりまセん。でスが、平気な気がしマす」
何故か、はにかんで答える。するとマクレイが腕をつねって顔をよせ囁いてきた。
「最近はフィアも体を洗ってるんだよ。だから大丈夫」
あーそうなんだ。気がつかなかったけど安心した。と、ユキエが笑って、
「モルティットさんが言っていた意味がわかりました。こういう所なんですね」
「そう! たまに知ってて言っているかと思う時もあるよ!」
モルティットも笑って答える。いや、意味がわからん。ちらりとマクレイを見ると苦笑していた。
ちなみにタツミもよくわからなかったようだ。不思議そうな顔をしている。良かった、仲間がいて。
日も傾き空が赤く染まる頃に集合場所へ移動する。丁度、他の冒険者達も集まってきつつあるようだ。
見渡すとホッグが中型の漁船に乗って出港する所だった。
「そろそろ始まるな」
タツミが独りごちる。仲間を見ると戦闘の準備をし始めていた。うーん、俺は何もないなぁ。よく考えたら、ずっと軽装だった。
ホッグを乗せた漁船は静かに沖へ向かって行く。帆は張らずオールを使っているようだ。空を見ると段々薄暗くなって夜の訪れを告げていた。沖には大型の船が夕日を浴びて三つの影を落とし静かに威圧していた。
やがて暗くなると大型船の近くの海上が明るくなった。ホッグが漁船に火を点けたようだ。その時には帆が上がっておりスピードが増しているように進んでいる。漁船の炎に照らされて小型のボートが残っていた。ホッグ達はこちらに移動したのか。
火船を認めた海賊達は大声で騒ぎ始めた。一生懸命、帆を張って船を動かそうとしているようだ。
「それじゃ、俺も始めるか。いいかナオヤ?」
「ああ、いつでもどうぞ」
ニヤリとしたタツミに答える。と、何も無い広場にスケルトン達が次々と召喚され海中へ行軍していく。その光景を見た周りの冒険者達が驚いている。
「あ、ありゃあ知ってるぜ“嘆きの祭り”団だ!」「あの傭兵も来てたのかよ!」「すげぇ! 初めて見た!」
え? 何それ、その名前? そう思ってタツミ達を見ると、照れ笑いしたユキエが口を開いた。
「団の名前を決めたの、私なんだ。“嘆きの祭り”ってカッコイイでしょ?」
「あ、え、そうだね!」
苦笑いで返したらマクレイにつねられた。
「よし! じゃあ進むぞ!」
タツミがユキエの肩を叩き、前進した。
「ふふっ。ここからは私ね」
補助器を持ったモルティットが一緒に移動しながら囁く。
桟橋の先へ来ると、モルティットが魔法を行使し海上を凍らせる。その上をタツミ達が先導して進み、俺達が後に続く。
周りを見ると大勢を乗せた小型のボートが複数、海賊船へ向けて進んでいる所だった。
「ニクス、モルティットを補佐して。アウルム、皆の強化をお願い。アクア、海賊船を足止めして」
冷たい風が頬を撫でて海賊船へ向かって行った。ありがとう。
やがて燃える漁船は一隻の海賊船の後ろ部分に当たり爆発した! 巨大な火の手が上がり、辺りが明るくなる。慌てている海賊達が影絵のようにあちこち動いている。
やがて燃えていない海賊船の一隻の近くへたどり着くと、すでにスケルトン達が船の船縁をよじ登り甲板へ躍り出て海賊と戦闘を開始しているようだ。
「シルワ」
すると船が変形して俺達の来る部分だけ階段状になった。
ニヤリとしたタツミとユキエが階段を駆け上りスケルトンと共に海賊と交戦し始める。遅れてロックも階段を上がって行った。
「ナオ、もう一隻はどうする?」
周囲を警戒しながらマクレイが聞いてきた。あー忘れてた。
「イグニス! ……これで大丈夫だと思う」
すると残りの一隻も燃え始めた。それを見たマクレイは俺の頭をくしゃくしゃしてきた。
「フフ。まったく。今回はナオの護衛をするから動かないよ」
そう言うと微笑んでモルティットを見た。モルティットも微笑んでいる。結構余裕そうだな。
フィアは魔導銃で船のマストを狙い撃ち、次々に折っていく。ずいぶん正確ですね。
クルールは俺の胸元でこの戦いを観戦している。
そうしている内に劣勢を悟った海賊達が逃げる為、海へ飛び込んできた。が、アクアによって冒険者達の方へ流され返されている。船に乗っている冒険者達は海賊を引き上げ、次々と拘束していく。捕まえた海賊が満載になった冒険者のボートは港に引き返していく。
代わりに現れた冒険者の乗ったボートが続けて海賊達を引き上げていく。
やがて夜も深くなる頃には、二隻が火災で沈み。一隻は拿捕され港へ牽引されていった。
残存の海賊も降伏して事態は収拾したようだ。ちなみに海底にはサハギン達が待機していたようだが、アクアが激流で遠くに流してくれたようだ。大活躍だね、アクア。〈フフ。ありがとう〉
タツミとユキエは大活躍で、乱戦の中で海賊の頭領を捕らえていた。
俺達は港に戻り、皆の無事を喜んだ。精霊主達もありがとう。
再び冒険者達が港に集まるとホッグから明日、報酬を渡すので本日は解散ということになった。
俺達が遅めの夕食を食堂で取っていると、次々に冒険者が来てタツミやユキエを称えていった。二人とも照れていたが、嬉しそうだ。もちろん俺も嬉しい。
その後、宿屋に戻り早々に寝た。が、興奮したクルールはいつまでも俺に話しこんでいた。寝かせてください妖精さん。
翌日、朝食後に冒険者ギルドに行くと、ホッグが出てきて今回の功労者であるタツミとユキエに礼を言い報酬を渡した。俺達も報酬をもらったが、余り目立たなかった為、少なかった。トホホ。
今回の件で、随分タツミ達は有名になったようで町のあちこちから挨拶をされていた。
「明日から定期船は運航を再開するようだな。残念だが俺達はここまでだ。仕事の依頼が入ったんでな」
昼食後にタツミが言ってきた。
「そうか、俺も残念だけどしかたがない。成功を祈るよ」
お互いに握手を交わす。
「でも、何かあれば駆けつけるよ。その時は連絡して」
ウインクしながらユキエもそう言って握手を交わした。
「ふふっ。少し寂しくなるね。頑張ってね」
「アタシも応援してるよ」
「お二人とモ、気をつケて!」
モルティット、マクレイ、フィアとそれぞれが口にする。
「みんなありがとう!」
ユキエが微笑んで答え、タツミも頷いている。
食堂を出て宿に戻り、荷造りをしたタツミ達を見送って別れた。
クルールやロックも遠ざかる背中に手を振って別れを惜しむ。次に会う時もお互い元気でいるよう祈った。
俺達はそのまま一泊して次の日に“北の島”へ向けて定期船へ乗り込む。
そして、恒例の嫌がるマクレイを皆で船室へ寝かしていると船が出港した。
目的地は近い、旅の終わりが見えてきようだ。
船の甲板に出て冷たい北風に身をさらし、まだ見えぬ北の島を探した。
うー寒い。




