109 テルダンの港町
仲間の元へ行くと、すでに戦闘は終了しており俺達が来るのを待っていた。
「お疲れ! ありがとう!」
声を掛けると皆、手を上げて応えてくれた。
「ナオヤの支援って凄いね! いつもの倍は力が出てる気がするし、切れ味も違うの!」
ユキエが嬉しそうに言ってきた。マクレイやロックも満足そうな顔だ。タツミもこちらに向かって来ている。
とりあえず現場を見てみると倒したスノージャイアントの他に大きな穴を発見した。
穴に近づき中を覗き込むと、大小さまざまな骨が堆く積まれていた。これは、貝塚みたいなものかな?
一応、近隣の生物を狩っていた証拠だな。見ていたら段々気持ち悪くなってきた…。
「ナオ? 戻る?」
マクレイが隣に来て聞いてきた。タツミを見ると頷いている。他はいないみたいだな。
「じゃ、戻ろうか」
そう言って手を握ったら、顔を赤くして逃げられた。恥ずかしがりだなぁ。
ソイルに死体や穴を埋めてもらい、皆でジャルルの村へ戻って行く。
村に戻るとナーロイが笑顔で待っていた。
「おお! ずいぶん早いな! で、どうだった?」
それから経緯を話して、たぶん大丈夫だろうという事になった。
村長の家に行き、ナーロイが説明している。一通り聞いた村長が口を開いた。
「スノージャイアントか…。きっと縄張り争いで負けて移動してきたんだろう、数もひと家族みたいだな。ありがとう! 俺らでは厳しい相手だった」
そう言って握手を求めてきた。それぞれ応じた後、報酬を貰い村を出発した。
「気をつけてな! ありがとう!」
ナーロイに見送られて先へ進む。
けっこう歩いてるけど寒い。
モルティットが抱きついている右腕は暖かい。ポカポカだ。
左手はフィアと手をつないでる。前にはマクレイの背中が見える。武装のせいでお尻の形がよく分からない、残念だ。
後ろにはタツミとユキエが並んで歩いていてロックは殿だ。
しばらく移動した所で夕方になったので、野営することにした。ソイル達に仮の家を作ってもらうと、タツミ達は驚いていた。
「いや、一緒で良かった! これはいい!」
「ホント! 快適!」
タツミとユキエが喜んでいる。そういえば、この新しい家は仲間以外で初めて人を泊めたかも。
それから夕食を楽しく頂き、のんびり過ごした。
夜も過ぎた頃、アルブムが照れながら散歩に誘ってきたので快く応じた。
『ありがとう、ナオヤさん。私は嬉しいです』
「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ」
嬉しそうな顔をしているアルブムを見ていると、こちらも嬉しくなる。冷たい風もアルブムがいるからか和らいでいるような気がする。
『あなたの中にいると皆が言っている事がわかりました。とても過ごしやすいわ』
「そうなんだ? 一回しか行ったことないからなぁ。自分じゃわからないよ」
『フフ。いつかまた来てください。歓迎しますよ』
楽しそうに俺の手を取って微笑んでいる。こちらも温かい気持ちになる。
いつの間にか肩にクルールがいてニコニコしている。しばらく三人で散歩を楽しんだ。
野営地に戻るとタツミが肩を叩いてきた。
「よお、凄いな! これからは戦う相手にお前がいないか確認する事にするよ。ハハハ!」
「えぇ! って、そんな戦わないよ、俺は」
「ああ、そうだな!」
反論するが、ニヤニヤして流された。ヒドイ。
それから、久しぶりにフィアと勉強した。しかし顔が赤いぞ、なんか恥ずかしいのか?
今回はクルールとユキエも加わっている。聞くとユキエは独学で勉強していたとの事。だが、俺よりも出来てるんだけど…。
そうやって数日過ごしていったが、ある時、気がついた。ただでさえ、二人きりが難しいのにさらに大変になった事に。
マクレイは知ってか知らでか機嫌がよさそうで、たまに目が合うと微笑まれた。モルティットはいつも通りだった…。
やがて目的の港町へ着いた。
しかし、今まで見てきた港と違って、ずいぶん静かな雰囲気だった。
人の数はいるようだが、どことなく暗く固まってヒソヒソとしていたり、俯いて何をするでも無く座っている人が見られた。
先に冒険者ギルドと傭兵ギルドへそれぞれ行き、用を済ませた後に合流する。
大きな食堂で一休みしているとタツミが傭兵ギルドの情報を教えてくれた。
「聞いたか? なんでも海賊がいるから船が出せずに困ってるみたいだぜ」
「ああ、アタシも聞いたよ。冒険者ギルドで人員を出しているみたいだねぇ」
マクレイも続けた。だから町が静かだったのか…。納得した。
「ふ~ん。じゃ、ここで足止めかな? 観光でもする?」
そう答えると、なぜか全員に注目された。え? 違うの?
「ホントにナオって面白いね」
モルティットに微笑んで言われた。なぜ?
「ナオヤさン。そこは協力するとかデは…?」
「あ! そっち!?」
フィアに指摘されて気がついた。だが、マクレイは違ったようだ。
「いいんだよ。ナオは大人しくしてたほうが安心するよ。ね、フィア?」
「それもそうでスね」
あっさり納得したフィア。いいのかそれで?
「あーもう! わかった! とりあえず、聞きに行ってから考える! それでいい?」
全員が笑って頷く。タツミとユキエも馴染むの早っ!
それから冒険者ギルドに再び行き、受付で海賊退治について聞いてみる。
すると、ギルドマスターが直々に来て話しをしたいと申し出た。
別室へ連れられ待っていると、頭を剃った体格の良い男が入ってくるなり早々と話し始める。
「俺はホッグ。ここのギルドマスターをしていて今回の海賊退治の指揮を執る事になった。実は君達が来ていたなんて知らなかったから、再び訪れてくれて助かったよ」
そう言いながら大きな地図を広げる。そこにはこの港町を基点に海図が描かれてるようだ。
「先日、海賊に指揮されたサハギンどもが襲って来たのは聞いてるか? 奴らの半分近くは撃退したが、沖合に武装した大型船三隻でこの港町を封鎖しているため、手も足も出ないのだ。そこで明日、火船を使って撹乱しつつ乗り込んで撃退する事になった。できれば傭兵の君達も参加して欲しい。もちろん報酬は出すよ」
海図で港町から沖の部分を指しながら説明してホッグは返事を待つ。
タツミはユキエを見て頷く。
「俺達は参加するよ。ナオヤ達はどうする?」
「できる範囲で手伝うよ。いいかな?」
仲間を見渡し聞くと皆、頷いた。が、マクレイは少し引きつっている感じだ。船に乗ると思ってるのかな?
それから細かな打ち合わせをした後、必要な物を買い宿屋へ行き休んだ。ロックはいつものように馬小屋で待機している。
夜、部屋を抜け出し、宿の裏手に行くと既にマクレイが待っていた。
「ごめん、待った?」
「だ、大丈夫。今来たとこだよ」
声をかけると少し焦った返事が来た。
「でも良かった。わかってくれて」
「フフ。今時、小さな布切れに書いて寄こすなんて物語みたいだよ」
マクレイは渡した布切れを取り出して見せてきた。昼にこっそりと渡していた物だった。
「そうじゃないと見つかるだろ?」
「まあ、ね」
苦笑いでマクレイが答えるが、その手を取って赤紫色の目を見つめる。
「話しがあるんだ」
「な、なにをだい?」
少し顔を赤らめたマクレイ。心臓がドキドキしている。
「その、さ、先の話しなんだけど、精霊を解放した後さ、どこかに落ち着こうと思っててさ…」
「それで?」
もう顔真っ赤なマクレイが続きを聞いてきた。俺も赤いなきっと。
「い、一緒に暮らさないか?」
「い、いいのかい?」
「もちろん。じゃなくて、俺はマクレイと一緒にいたいの!」
真っ赤なマクレイがコクコク頷いた。ほっ、良かった。後でご両親には事後報告でいいか。とか考えてたら上から声が降って来た。
「当然、私もだよね?」「ワタシはどうするんでスか?」
は? マクレイと二人で上を見ると、二階の部屋の窓から怖い笑顔のモルティットとフィアが顔を出して見ていた…。もろバレじゃん。
「……み、見てた?」
恐る恐る聞いてみると笑みを浮かべたエルフと銀色の少女は無言で頷く。
それから、マクレイと共にモルティットとフィアがいる部屋へ行き、なぜか説教されて一緒に住むことを確約させられた。トホホ。
グッタリして自分の部屋へ戻るとタツミがニヤニヤしていた。…知ってるな。
「大変だな。ナオヤを見てると俺も勉強になるよ。ハハハ」
「笑いごとじゃないって!」
それから何故かタツミに言い訳して他の話題で盛り上がった後、寝る事にした。
しばらくすると俺の枕元に泣きそうで暗い雰囲気のクルールが来て頭の中に囁いた。
『ナオヤー。わたしはー?』
「クルールはずっと一緒だよ。気にしてたのか? ごめんね」
そう囁いて答えると、満面の笑顔になったクルールがいそいそと胸の上に寝てきた。かわいいなぁ。




