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107 ジャルルの村

 

 外に出て行くと、少し先の所でマクレイが(たたず)んでいた。

「マクレイ!」

 声を出すと驚いて振り向いた。走って追いつく。

「ナオ……」

 マクレイが困った顔をしているところを近づき手を握る。


「あ、あのさ、たぶんだけど、精霊を解放しても大丈夫だと思う」

「なんで言い切れるんだい?」

「それは…感覚っていうかさ、精霊主達がそんな事はしないと思うから」

 すると、マクレイが隠していた短刀を抜き俺に向けた。怖えぇ、背筋が寒くなる。


「あ、アタシは決めたんだ。ナオが死んだら後を追うって。どんなに短くても、い、一緒にいるよ」

 短刀をしまうとまた背を向けた…。えぇー、ドン引き。いや、重いだろ、これ。何がそうさせるの?

 後ろから抱きしめる。


「もう、数えきれないぐらい言ってるけど、俺はマクレイが好きなの! わかる?」

 マクレイが(うなず)く。

「今のって、つ、付き合うって事でいいよね?」

 マクレイがう、(うなず)かない…。なぜだ?

 もー頭きた! 両肩を掴み振り返らせ赤紫色の瞳を(にら)む。

「いいか! マクレイはどう思ってるか聞いてるの! ハッキリ言ってくれ!」

 すると湯気が出そうなぐらい真っ赤になってる。そんな恥ずかしいの?

 やがて顔を横に向けてマクレイが涙目で口を開く。


「……好き」

 なんだこれ? 歴史上一番かわいいんじゃね? 思わず抱きしめると熱い体に心臓が工事中のように響いている。

 マクレイが耳元で(ささや)く。

「知ってるくせに。馬鹿」

「口に出さないとわからないよ」

 (ささや)き返すと、真っ赤な耳がピクピクしている。

 再び顔を見ると(すご)く魅惑的…。もう世の中どうでもいい! お互いの顔が近づく……。


「ちょっと! なんでそうなるの!」

 ハッ! モルティット!

 二人で振り向くと(すご)い怖い笑顔のモルティットがズンズン来た。

「いや、なんでって、当然だろ?」

 慌てて反論すると、モルティットの矛先が変わった。


「はぁ? どういう事なの? マクレイディア?」

「あ、アタシも、ほら、ね?」

 目が泳いでアタフタしている。全然、ダメだこの美人さん。もうちょっとしっかりして!

 それからしばらく言い合いが続き、疲れたので一旦、仮の家へ戻る。


「はぁー、もウ! いい加減にしてくだサい!」

 今は絶賛フィアにお説教を食らっている。三人とも正座だ。珍しくモルティットもしょんぼりしている。

 小一時間ぐらいは聞かされてグッタリした。なんでそんなに言うことがあるんだフィア……。

 それから夢で聞いた“世界の頂”へ向け出発した。その場所はどうやら北の島にあるようだ。

 島に行く港に向け進んで行く。



 さ、寒い……。

 重ね着しているのに体の芯から寒い…。右隣のマクレイを見ると胸元のクルールは暖かそう…。気がついたマクレイが(にら)んできた。

 そして左隣にはモルティット。ちらりと見ると微笑んできた。どうもロックの表面が冷たいので歩いてるみたいだ。そりゃ岩だもんね。

 カエルムを使おうとしたらマクレイに睨まれた。自力で頑張れって事?


 進んでいくと景色がどんどん冬模様になっている。行く先には、ところどころ雪が残っているのが見えた。寒いわけだ。

 フィアは寒さを感じて、はしゃいでいた。なんか新鮮だ。

 冷たい風を受け前へ前へと進む。

 野宿はソイルに土と岩の家を作ってもらって、カエルムとイグニスに暖をとってもらった。そして照明はアルブムに天井を光らせてもらった。皆、ありがと!

「快適だね!」

「ホントだねぇ。宿屋よりも過ごしやすいねぇ」

 俺の感想にマクレイが相槌(あいづち)を打った。

 それから賑やかに夜を過ごした。



 数日移動すると、すっかり雪に囲まれている。寒っ!

 白く染まっているその中に村らしき建物の影が見えてきた。

「村が見えまシたよ!」

 フィアが嬉しそうに指をさす。

「買い物ができるといいけど?」

「そうだねぇ。食料が不安だからね」

 モルティットの言葉にマクレイが続けた。クルールは相変わらずマクレイの胸元でブルブルして寒そうにしている。

「行こう! 暖かい所へ!」

 俺が指さして言うと、皆が(あき)れた顔をしている。なぜ?


 村に近づくと、丁度、魔導銃を持った猟師のような恰好の男がいた。

「こんにちはー!」

 挨拶すると気がついったようで手を振ってきた。おお! いい人みたいだ!

 男の元へ行くと向こうも挨拶をしてきた。髭を生やした(いか)つい風貌(ふうぼう)だが愛想がいい。

「よお! よくこんな辺ぴな所へ来たな! 歓迎するよ!」

「ナオヤです。できればこの村で一泊したいんだけどいいかな?」

「ワハハ! 丁寧だな、もっと気楽でいいぞ。俺はナーロイ」

 ナーロイと握手を交わす。けっこう気楽な言い方だったんだけど…。これ以上は無理。

 嬉しそうにナーロイは続けた。

「しかし、丁度いいところに来たもんだ。少し話しを聞いてくれるか?」

「ああ、いいですよ。ここで?」

「ワハハ! すまなかった! こっちに来てくれ。村長の所で話そう」

 笑って答えたナーロイが村を案内した。


 雪が残る村は家の屋根にも厚く積もっている。思った以上に家が立ち並び人々も外でいろいろな作業をしていた。

 俺達が通ると村人が目を丸くして注目している。エルフとか珍しいのかな?

 やがて大きな家へ案内された。

「ここが村長の家だ。村の集会にも使うから大きく作られてんだ」

 ナーロイが説明して中へ通される。そこは確かに集会場らしく広い部屋で倉庫のような場所だった。

「ここで待っててくれ、今、村長を呼んでくる」

 そう言うとナーロイは奥へ入っていく。それを見届けてマクレイがため息をついて言ってきた。

「はぁ。どうせナオは依頼を受けるよね?」

「え? そんな事は無いよ。話しを聞いてからだよ?」

 そう答えると無言で俺の髪をくしゃくしゃしてきた。絶対信じてないでしょ?


 すると、入り口の扉が開き誰かが入って来た。

「あのー、俺らどこに寝ればいいんだ? って、ナオヤ!?」

「あ! タツミ! それにユキエも!」

 お互いビックリして手を上げた。意味がわからん。

「久しぶりだな! まさかこんな所で会うなんてな!」

「ああ、俺もだよ! 二人が元気そうで良かった!」

 タツミが歩み寄り握手を交わして再会を喜ぶ。ユキエも嬉しそうだ。


 それから仲間を見たタツミが不思議そうに質問した。

「また仲間が変わったのか? あの、えーと、フィアさんはどうした?」

「ワタシはいまスよ」

 手を上げてフィアが答えるとタツミとユキエが驚いている。

「え!? あれ? 姿が変わった…?」

「ああ、後で話すけど、いろいろあって変わっちゃった」

 説明したが納得いってない様子。反対にユキエは感激して、いきなりフィアに抱きついた。


「かわい~! お人形みたい!」

「あノ…助けてくだサい、ナオヤさン!」

 ユキエがフィアを抱きしめて振り回すのをタツミが止めて解放した。ユキエは顔を赤らめフィアに謝る。

「ごめんなさい。つい、かわいくて……」

「だ、大丈夫でス。こんな反応は初めてデす」

 フィアも顔を赤くして照れていた。ははっ、かわいいなぁ。その様子を皆で微笑ましく見守っていた。


「なんだ!? おたくら知り合いだったのか! こりゃ手間が(はぶ)けて良かった!」

 ちょうど連れを(ともな)って戻って来たナーロイが俺達を見て嬉しそうに言ってきて続けた。

「こちらがジャルル村の村長のブリットさんだ」

 もう一人を紹介した。いかにも強そうな体格で、髭面の少し白髪が見えている鋭い顔つきの男が村長のようだ。

「皆、よろしく。すまんがこの集会場には椅子がないでな、そのままで聞いてくれ」

 そう言うと腰を下ろした。え? 言っていることと違うじゃん! と、周りを見ると皆、座り始めた。あれ?

 俺も慌てて続き、全員が座ると村長が話し始めた。


「いいかな? すでに傭兵の方には説明したが、ここ最近、この村の周りにいる動物が少なくなってな、このままだと冬が越せなくなってしまう。そこで原因を調べて欲しい。報酬は安いがこの村にはタダで泊まっていい。宿泊場所は後で案内しよう」

「自分達では調べなかったの?」

 疑問に思って聞いてみると、村長は苦笑いで答えてくれた。

「もちろん調べたよ。だが村の若い者が二人、帰って来なかった。この辺は我らの庭みたいなもんだがこの結果だ。だから戦える者を雇って慎重にいきたいんだよ」

「すみません、何も知らず……」

 謝ると村長は笑い始めた。なぜ? マクレイを見ると片眉を上げていた。

「ハハハ。これは丁寧だな。本当にお前達は大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。俺よりも強いのは保証するよ」

 村長の問にタツミが答える。いや、それは過大評価だと思うよ。

 結局、なし崩し的に依頼を受ける事になった。



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