105 説得
すると、銀色の女の子が静かに目を開けた。
「ナオヤさン、どうしまシた?」
上半身を起こして頭を傾け聞いてきた。
銀色の髪の毛がサラサラ流れる。フィ、フィア…?
「ふ、フィアなのか?」
「どうしまシた? 相手はどうなりまシた?」
聞いてきた……。
目がある…。…瞬きしたぞ。
鼻もある…。
口もある。唇が動いている…。
「フィアーーーーー!!」
泣きながら抱きしめる!
フィアは戸惑ってはいるが、いつものように背中をポンポンしてきた。ああ、フィアだ…。
いつの間にかマクレイとモルティットも来て一緒に抱きついていた。
「なんだいこれは? 魔法でもないよ!?」
「不思議ね。ふふっ、不思議で素晴らしいよ!」
マクレイとモルティットが泣きながら感想を言っている。
「みなサん……。ナオヤさン、血が出ていまスよ。治療しなくテは!」
そう言って俺の太ももに手を当てると、自分で気がついたようだ。
「あ……。こレは? ワタシの手?」
銀色のしなやかな手を見ている。次に両手を眺め、自分の顔に触れている。どうやら、姿が変わったのがわかってきたようだ。
「ナオ! 今、治すから動かないで!」
慌てたモルティットが詠唱を始めた。マクレイも心配そうに見ている。遅れてロックがやって来た。空いた穴はもう塞がっているようだ。ひょっとしてロックって、不死身なのかな?
フィアが震える声で聞いてきた。
「わ、ワタシはどうなってしまったのでスか?」
「フィアはあの黒服野郎に光で撃たれて動かなくなったんだ。それをナオが復活…生き返らせたんだよ。そしたら姿が……」
励ますようにマクレイがフィアの手を握って答える。
フィアはまだ飲み込めないらしく頭を傾けている。表情がまだ硬い感じ。
そうしている内にモルティットの治療が終わったようだ。
「一応、大丈夫だよ。まだ、やることがあるんでしょ?」
ニッコリと言われた。さすが鋭いなぁ。
モルティットの手を感謝の気持ちを込め握ってから立ち上がると、マクレイ達を置いて倒れている黒服の男の元へ行く。
黒服の男は血の海に横たわっていた…。どうしたらいいか分からないが呼びかけてみる。
「精霊主達はいる?」
すると二柱の精霊主がふわりと現れた。光の精霊主はわかるがもう一柱は誰だろう? 雷関係?
『はじめまして“契約者”。私は雷の精霊主です』
『またお会いしましたね、“契約者”よ…』
それぞれが話しかける。再契約は可能なのだろうか?
「その、どうしますか? 俺と契約するなら歓迎しますけど?」
『わたしは望みます。この者は嫌でした』
しかめ顔の雷の精霊主が答えた。
『……』
光の精霊主は眉を下げ黙ったままだ。前に拒否したからかな?
すると、ソイル達が出てきた。全員が出るなんて初めてだ。
心配顔のアーテルが口を開く。
『光の精霊主よ、私からもお願いします。どうか!』
『……』
光の精霊主は沈黙を貫いている。しかし、瞳は揺らいでいる気がした。
ソイルが続ける。
『光よ……いつまで意地を張っているのですか? 私達はあなたを待っています。本当はどうですか?』
『聞いて! 私達には名前があるのよ! 素晴らしいことよ、自分の名前で呼ばれる事は!』
イグニスも説得してきた。俺は何も言わず成り行きを見ている。
『目的は近いわ。どうか私達を悲しませないで』
アクアが手を組んで願っている。
微笑んだ雷の精霊主が光の精霊主の肩に優しく手を当てる。
『私はあなたの望みを知っています。さあ、言って!』
すると光の精霊主がためらいながら口を開いた。
『ごめんなさい。意地を張っておりました。闇が先に契約したのが悔しかったの…』
『私の方こそごめんなさい。浮かれておりました』
アーテルも光の精霊主に謝り他の精霊主達に歓迎されている。
なんか和やかムードになったようだ。ほっと安心した。
『それでは、よろしいですかナオヤ?』
ソイルが聞いてきた。
「もちろんいつでも!」
『では、私から。あの時はごめんなさい』
光の精霊主が一歩出てきた。手を差し伸べて声をだす。
「“アルブム”気にしてませんから。お願いします!」
アルブムは、はにかんで手にふれる。すると腕の中へ入ってきた。
雷の精霊主は微笑んで待っている。
『さあ、私もお願い!』
「“トニトルス”お願いします!」
手を差し出すと力強く握ってくる。と、アルブムと同様に腕の中へ入ってきた。そして、いつの間にか周りにいた精霊主達はいなくなっていた……。
〈みなさんありがとう!〉〈よろしくお願いします〉〈よかったわ!〉〈ようこそ!〉〈……〉〈…〉ああ、楽しそうで良かった。
最後にイグニスにお願いして黒服の男を燃やしてもらった…。
できれば話し合いでと思ったが、相手があれではしかたない気もする……。
前に契約をすると魔法が使えない事を聞いていたので、彼が“転移者”なら魔法も使えたのかもしれない。今となってはわからないが…。燃え尽きる姿を見届けると背を向け歩き出す。
仲間の元へ戻るとフィアが抱き着いてきた。
「ナオヤさン。またワタシを救ってくれたんでスね!」
「ハハハ。いや、俺と言うより妖精王とフレイマンに言って!」
「でモ、ナオヤさンがいたからこそデす!」
フィアが嬉しそうに言っている。表情がとても豊かだ。俺も嬉しくなる。
頭を撫でると髪がサラサラしている。あれだな、もう人と同じだな。
マクレイとモルティットも微笑んで見つめている。
それからモルティットに治療のお礼を言って、仲間と共にこの場を後にした。
手を握るフィアはなんだか嬉しそうだ。ロックも後ろから皆を見守っている。マクレイの胸元にいたクルールは出てきてフィアの周りを飛んでいる。先ほどの出来事に驚いて観察しているようだ。
しばらく移動した所で野営することにした。
冷たい風が吹くのでソイルに土と岩の家を作ってもらい、中にはイグニスにより火を起こしてもらった。あー暖かい。
「どんどん住みやすくなるね。もう、野宿って言わないんじゃないの?」
モルティットが呆れたような、嬉しいような顔で聞いてきた。
「ま、過ごしやすいからいいじゃん?」
「フフ。そうだねぇ」
俺が答えると支度をしながらマクレイが続けた。
フィアが自分が変わった事に確信もてなさそうなのでアウルムに全身が映る鏡を出してもらった。
「…これがワタシ……」
鏡の前で自分を見て驚くフィア。体を回して姿を確認している。
違う意味で鏡を初めて見たクルールは最初、映った自分に挨拶を何回かするが、同じ動作に気がつきビックリして、しげしげ観察している。面白いなぁ。
マクレイとモルティットも久々に自分を映してチェックしていた。何を? その様子をロックは楽しそうに見ている。
するとフィアが俺の所に来た。
「ナオヤさン! 姿が変わりすぎデす!」
いきなり抱きついてきて涙を流し始めた。
「ありがトう! ワタシは“人”になりまシた!」
「そうか! わかったよ、その姿はフィアが願った姿なんだ!」
すると顔を赤らめてフィアが語った。
「ワタシはナオヤさン達と旅するうちに思いまシた。嬉しい時、悲しい時、辛い時、怒った時、ナオヤさン達はとても表情豊かで羨ましかっタ…。いつも涙を流しテいるその姿を見て、ワタシにも感情が表現できレばどれほど良かっタか…。でモ、望みハ叶いまシた」
「そう、だったんだ。でも、俺はそんなに泣いてないよ?」
「フフ。意地っ張りでスね」
フィアが微笑んでいる。
「あと、前の姿も好きだよ、俺は。今もずっと良いけど」
「もウ! ヒドイでス!」
今度はプンプンしてきた。ははっ、面白いなー。
それから夕食を皆で楽しく取ったが、フィアが普通に食べていたのが不思議だった。消化するの?
やがて夜も更け就寝した。




