102 雪山
それから怒りのモルティットとマクレイの騒動が少しあったが、皆で気に入った物や売れそうな物を宝の山から物色した。
ボランは手あたり次第に自分の背負い袋に詰めている。顔がだらしなくなってるな、おっさんは。
「ナオ! ちょっと!」
プリプリしているモルティットが来た。なにか嫌な予感がする。
「私には無いの? ずるくない?」
怖い笑顔で言ってきた。めちゃ怒ってる。後ろにいるマクレイに目をむけると高速で頷いている…。何故だ?
「ほら! イチイチ、人に許可取らないの!」
俺の視線に気がついたモルティットが迫ってきた。こ、怖い! 急いで宝の山へ入り似合いそうな物を探す。
突き刺さる視線を感じつつ探すが緊張してしまう。と、見たことのある小さな白い石を発見した。
これは…フレイマンから譲り受けた石に似ている。手に取ってよく見てみると模様が違うようだ。懐からフレイマンの石を出し手のひらの上に並べて見比べる。すると、二つの石が淡く光って融合し一つになった…。マジで!? ど、どうしよう! ゴメン、フレイマン。とりあえず見なかった事にして再びしまった。
さらに探すと淡い水色の指輪が目についた。これならいいかな? 手に取って観察するとマクレイに拾った指輪と同じ様に美しい装飾がしてある。こちらも自分に嵌めて確認した…大丈夫だ。袖で拭い綺麗にしてモルティットの元に急いだ。
「見つけてきたよ!」
「ふふっ。ありがとう! はいっ!」
嬉しそうなモルティットがすかさず右手を出してきた。何故バレてるんだ? 一瞬でマクレイの右手を見たのか?
……覚悟を決めて薬指に指輪を通す。この指輪もまるで測ったかのようにピッタリサイズだった。
「あら! 凄くキレイ! ふふっ、嬉しいねぇ!」
先ほどの怒りっぷりが嘘のように満面の笑みで指輪を見てる。こうしてると、かわいいんだけどなー。
モルティットがマクレイの元に行き、指輪を見比べ出した。
「ち、ちょっと待て! そういうのはダメだって!」
慌てて止めるが、逆に二人に止められた。
「あら? 別に比べてないよ。お互いどんな物か見たかっただけ!」
「なんだい。小さい男だねぇ」
エルフ達が言ってきた。ああ、そうとも! 小さい男なんです!
膨れた俺はフィアと一緒に穴から出た。
「とても参考になりまシた。すごく楽しかったデす!」
フィアは手に取ったお宝を前に喜んでいる。ちなみにフィアが持ってきたものは全て実用的な品物だった。
ちゃっかりクルールも金の針を手に持ってご満悦だ。後でフィアに鞘かカバーを作ってもらわなくては。
しばらく待っていると、マクレイとモルティット、ロックが穴から出てきた。
「ボランは?」
マクレイに聞くと呆れた顔をして、
「ああ、まだ下でいろいろ漁ってるよ。面倒だから外で待つよ」
振り返りもせず説明してきた。どんだけ欲の皮が厚いのか…。
穴の中にいるボランに声をかけてから皆で洞窟の外で待つことにした。
日が傾き夕方に近くなった頃、大荷物を持ったボランがやっと洞窟から出てきた。イグニス、付き合ってくれてありがとう!
「おおう! 待たせたな! いっぱい持っていこうと思ったが重すぎた。ずいぶん減らしたよ! ワハハハハ!」
全く悪びれもせず近づいてきた。
「遅いよボラン! 今日はここで泊まりだね」
「ワハハ! すまなかったな! だが良い思いができたからな!」
そう言って大きな荷物を下ろす。
それから野営の準備をして夕食を取る。その後は、互いのお宝を見せ合ったり交換したりした。
「ねえ、あの卵はどうするの?」
モルティットが聞いてきた。
「う~ん。そのままでいいと思うよ。自分達の為に親を殺してしまった罪悪感もあるし……」
「知ってるけど、お人好しだね。ナオは、さ」
目を細め微笑むモルティット。マクレイも微笑んで見ている。そんな、お人好しじゃないぞ。
「そうだな! ま、あれだけ卵があるからウジャウジャ増えるぞ! ワハハハ!」
ボランがよくわからない慰めをして俺の背中をバンバン叩く。地味に痛い。
これまでにないお宝に、夜も更けるまで話しが尽きなかった。
翌日、荷物をまとめ湿地帯を抜け、山間を出た。
どうやらここでボランは別れるようだ。なんか心配だなぁ。
「ボラン、本当にここで大丈夫? 町まで送っていくけど?」
「もちろん大丈夫だ! 少し寄り道する所があるからな! それじゃ、坊主、お嬢さん達、ロック君、また会おう!」
そう言うとボランは片手を振って歩き始めた。
「元気で! また騙されんな~!」「お気をつけてくだサい!」「……」「……」「…」
なぜか俺とフィアしか声をだしていない…。なんかボランが不憫に思えてきた。
ボランの小さくなっていく背中を見送って、俺達も出発した。
「ナオ! ここは迂回して行くよ!」
焦っているマクレイが言ってきた。山は目の前だし、もう無理だって。
「ふふっ。ホント、ナオの前だと我が儘だね」
「そ、そんなことはないよ!」
モルティットが笑い、焦ったマクレイが反論している。
「ア! 来ましタよ!」
フィアが空を指さす先に黒竜が向かって来るのが見える。
嫌がるマクレイを皆で抑えて待っていると、やがてドウェンが近くに降りてきて顔を近づけた。
「洞窟では良い事があったようだな。それで、どうするんだ?」
「ああ、山脈を抜けて帝都の方まで行きたいけど、いいかな?」
すると、ドウェンは考えてから答えた。
「ふむ。そうすると二日程は飛んでいる事になるぞ?」
あ、そうか! ちらりとマクレイを見ると青い顔で首を横に振っている。もう、しょうがない。
「ごめん、今日行ける範囲で北に飛んでもらえると助かるよ」
「ハハハ。仲間思いだな。よかろう、それでは背中に」
そう言うとドウェンが姿勢を変えた。
嫌がるマクレイを連れて背中に乗り込む。すでにマクレイはプルプルしている。…可愛すぎる。
「では、まいるぞ!」
全員が乗り込んだところでドウェンが声をかけ、上空に向け飛んでいく!
「ベントゥス、カエルム」
上昇するにつれ気温も下がり風も強くなってきた。が、精霊主のお陰で風もなく気温も暖かくなり、過ごしやすくなった。
さらにスピードが上がる。
「前よりも快適になったな! ますます飛びやすくなったぞ!」
ドウェンが嬉しそうに言って上空を滑走する。その傍ら、真っ青のマクレイを皆で暖めていた。
竜の国の山脈を抜け、日も傾く頃に草原へ着地し俺達が降りるのを待ってからドウェンが口を開いた。
「ここまでだな。お主達と飛ぶのは楽しいぞ! ではまたな!」
「いつもありがとう! またな! ドウェン!」
ドウェンに手を振り空へ旅立つ黒竜を見送る。また、よろしく!
それからマクレイの回復を待ってから出発した。
降りた場所は以前泊まったソルトレイの村の近くにいるようだ。
皆で話し合い、ここで野営した後にソルトレイで一泊し北に行くことにした。
ソルトレイの村に近づくと入り口の門には前と同じようにエイロンが腰かけ寝ていた。
「こんにちは!」
声をかけるとビクッとし、慌てて魔導銃を手に持ちこちらに向く。
「あ! ナオヤさんに皆さん! どうして!?」
エイロンはビックリして声を上げた。少しビックリしすぎだよね。
経緯を説明して村長のお宅へ再びお邪魔することになった。
「まあ! あなたたちも忙しいわね! 私はいつでも歓迎するわ!」
村長のイリーナが挨拶してきた。温かい歓迎で嬉しくなる。
それから居間でお茶を貰い今迄の事を話して聞かせた。クルールはお菓子に夢中になっている。かわいいなぁ。
「あれから花も順調よ、あなたたちのお陰だわ。フフ、それにしてもいつも賑やかね」
「ご迷惑かけます。明日には旅立つので今日はよろしくお願いします」
「まあ、丁寧にありがとう。ゆっくりしていってね」
お礼を言うとイリーナは嬉しそうに返事をして、村の出来事を語った。
ジャイアントビーがいなくなってから花畑は活気を戻し、以前より収穫が上がったそうだ。噂を聞き移り住んできた者もいるとか。村が発展していくお手伝いが出来たみたいで俺も嬉しいな。
その後は、賑やかに夕食を囲み翌日、村長達に見送られて北へ旅立った。
幾日と進み、目的の山まで来たが寒い!
重ね着をして寒さをしのいでいるが、山を登るにつれて厳しくなってきた。
「マクレイ! 抱き合おう! そして暖め合おう!」
「は? 何言ってるんだ! 頑張りなよ!」
横にいたマクレイに提案すると拒否された。するとモルティットが引っ付いてきた。
「ふふっ。代わりに私が暖めてあげる!」
「暖かくて気持ちいいけど、ダメだって!」
断ると笑顔で抱きしめてきた。ああ、もう!
「ほら! 離れな!」
マクレイがモルティットを引きはがした。残念そうな顔をしないでください。
クルールはマクレイの胸元から目だけをだして周りを見ている。
いろんな意味で暖かそうだな……。
羨ましそうにみていたら、マクレイに睨まれた。




