101 ヒドラ
「マクレイ、モルティットはフィアを守って、ロックは補佐を!」
「嫌だね!」「そうよ!」「ワタシも頑張りマす!」「ヴ」
全員に反対された。何故だ?
と、ヒドラのもう一つの口から氷の矢が発射された!
「ソイル! アウルム!」
頑丈な壁を出現させ仲間を守る! 氷の矢が次々壁に当たる音が聞こえる。
その隙にフィアが発砲し、ヒドラの一つの首に傷をつけた。
「思ったヨり、硬いデす」
感想を述べる横で剣を片手にマクレイがヒドラに向かって走り出す。あーもう! なんでこうなの!
「アウルム! 仲間の補助を! ムーシカ!」
人の耳に聞こえない高音がヒドラを襲う!
「ヴォオオオオオ!!」
三つの頭が高音を嫌がりウネウネと暴れ始める。と、マクレイとモルティットが耳を押えていた。
「ナオ! この攻撃は私達にも辛いよ!!」
モルティットが叫んできた!
「あああああ!? ゴメン! 悪かった!」
すぐに解除して、今度は衝撃波をヒドラに見舞った! と、ヒドラが吹っ飛ばされる!
すかさずマクレイが近寄り一つの首を一刀両断し次に移る。よく見たらロックもマクレイの横にいた。
「シルワ足止めを!」
倒れたヒドラの周りからツタが伸び体を拘束し始める。その間にマクレイが二つ目の首を落とした。
ロックが残りの首を抑えて最後の一太刀を浴びせ両断する。と、マクレイが叫んだ!
「ナオ! こいつはすぐに復活するよ! 早く燃やして!」
素早くマクレイとロックが離脱するのを確認してから叫ぶ!
「イグニス、燃やし尽くしてくれ!」
落ちた三つの首とヒドラの体が突然、業火に包まれる。おおぉー、ここまで熱が伝わる。
マクレイとボランを回収したロックがこちらへやって来た。精霊主のみんなありがとう!
「ずいぶん派手に燃えてるねぇ」
剣を鞘に納めながら嬉しそうなマクレイ。
「でも、あれは無いんじゃない!? ビックリした!」
モルティットが抗議してきた。相当、高音の攻撃は効いたみたいだ。
「ご、ごめん。次は気をつけるよ、許して?」
謝ると満面の笑みを浮かべたモルティットが抱きついてきた。
「イヤ! 許さない! ちゃんと償って!」
「えぇ! ちょっと!」
「何してんだい!! アタシも同じだろ!」
俺が驚いているとマクレイがモルティットを引きはがす。そこでハタと気がついた。
「ちょっと待て! ひょとしてエルフ族って耳がいいの?」
ちょうど対峙していた二人がこちらを向いた。何故かマクレイの顔が赤くなり、モルティットが吹き出して答えた。
「ふふっ。そう、良く聞こえるよ。誰かさん達の会話もね!」
ヤバい、思い当る節がありすぎる……。膝から崩れ落ち両手で顔を覆う。は、恥ずかしすぎる!!
フィアが俺の肩に手を置く。
「ナオヤさン。頑張ってくだサい…」
いや、それって追い打ち? なんか泣きたくなってきた。胸元にいたクルールは不思議そうな顔をしていた。
「おおう! さすがだな! あんなデカイのが今じゃ黒焦げだ!」
復活したボランがこちらに来た。こっちはそれどころじゃないぞ! ああ、身もだえる~!
「よし! 邪魔者もいなくなったし、再び行くぞ!」
そうボランが宣言して、何故か俺を引っ張って巨大洞窟に入って行く。
とりあえず気を取り直して暗い奥に進む。もう敵はいなさそうなのでイグニスにお願いして照明替わりに洞窟のあちこちに小さい火を起こして明るくした。
すると、ヒドラがいた場所の後ろに炎の光でキラキラと反射する小さな山があった。
「こ、これは! やはり情報は正しかった! 財宝だ! やったぞーー!!」
ボランが喜び勇んで走って行く。いや、違うでしょ。最初、盗賊のアジトって言ってたじゃん!
後を追って小山の前にいるボランの所まで行くと、何故か固まって佇んでいる。
「ボラン?」
声をかけるが動きがないようだ。ふと小山を見るとキラキラと光りを反射するブドウのような実が積まれていた。
んー、ヒドラの好物なのかな? 試しに一つ取ってみるとサッカーボールぐらいの大きさがあり、なんかブヨブヨしている。
顔を近づけてよく見ると中がうっすらと見える……。蛇のような影が中にいた…。た、卵だ、これ。
そっと卵を戻し見なかった事にする。呆然としているボランをほっておいて奥へ進んだ。
いつの間にかクルールが俺の頭に乗ってキョロキョロしている。
洞窟の奥に行くと大きな穴が見えた。イグニスにお願いして穴を照らしてもらう。
火の灯かりに黄金色や銀色の反射がキラキラしている…。こ、これは!
「ぼ、ボラン! ボラン!! こっちだ! お宝だ!!」
目もくらむような輝きから目を離せず、そのまま叫ぶ。クルールも興奮して髪の毛を引っ張っている。
すると後ろからドタドタと音がする。
「なぁんだと~! そっちかぁ~!」
ボランが大声を上げながら隣に来た。そして、穴の中を見るとまた固まった。
肩を震わせていて顔を見ると涙を流していた。はい?
「……や、やったぞ! とうとう発見したぞ!! イヤッハ~~!!」
そう叫ぶとジャンプして穴に転げ落ちて行った…。
「あ、ボラン……」
呆気にとられ見ていると、ボランがお宝の中を泳いで両手に黄金の品を持って高笑いしている。
「まったく、たいしたもんだ」
「マクレイ!」
いつの間にか隣に来ていたマクレイがため息をついてる。そっと手をつないだら抵抗されなかった。おおー!
「ち、ちょと下に見に行こうか?」
「あ、そ、そうだね! 行かないとわからないね!」
少し顔が赤いマクレイと手をつないだまま下に降りて行く、穴の底には文字通りの金銀財宝がわんさかあった。
二人で財宝の合間を通り眺めてみる。皿やコップの小物、テーブルや食器棚などの大きな物もあり、黄金や銀で装飾されて輝いている。
「はー凄いね! ホントにお宝だね!」
「そうだね。竜王の所も凄いけど、ここもなかなかだねぇ」
周りを見渡して微笑んだマクレイが答える。
財宝を見ている内にある指輪が目についた。決して派手ではないが美しい装飾が施されている。マクレイから離れて指輪を拾って見てみる。手に持ち自分で嵌めてみるが特に何も起こらない…呪いとかなくて良かった! これは使えそうだ。急いで袖で汚れを拭った。
「何かあったのかい?」
後ろからマクレイが声をかけてきた。振り返って、指輪を見せる。
「ほら、これを見つけたんだ…」
「へぇー。ずいぶん綺麗だねぇ」
マクレイが顔を近づけて見ている。なんかドキドキしてきた。こ、ここはやらねば! 拾い物だけど。
「手をだして!」
「はいよ」
と、右手を出してきた。しまった、自分で手を取れば良かった…。しかたない、マクレイの右手の薬指に指輪を通した。大きい指輪かと思ったが、まるで測ったようにスルッとはまった。マクレイは予想していなかったのかビックリしている。
「あ、アタシに選んだのかい!?」
「もちろん!」
そう答えるとマクレイが指輪をはめた手を顔を赤らめながら満面の笑みで眺める。
「フフ。これはアタシには勿体ないよ。でも、ありがと、ナオ」
マクレイの手を握って顔を寄せる。
「に、似合ってるよ。ホントに!」
顔を近づけるとマクレイが逃げた。は?
「なんで!?」
「あ、頭の上!」
真っ赤になったマクレイが目で指し示す。あ、そうだクルールがいた…。忘れてた…。
「ご、ごめん! 忘れてた」
「ああ、だ、大丈夫だから、ね」
マクレイが返事すると俺の頭の上にいたクルールが肩に降りてきた。めちゃニコニコしてる。
「あ、そこにいた! マクレイディア! 独り占めしないで!」
怒りのモルティットがフィアとロックを引き連れ現れた。
ああ、甘い時間が終わった…。




