10 転移者狩り
フィアが加わって初めての野営、いつも通り周囲を土壁で囲む。
皆それぞれ自分の寝床を作る。フィアにはマクレイがついて教えている。俺の時と対応が違くね? ロックはいつも通り監視のしやすいポイントへ、俺達三人は焚き火の周りに集まって食事をした。
フィアはあちこち観察してとても楽しそうだ。
「不思議デす。いつもは家の中で過ごしていたノで外は初めてでワクワクしマす!」
「まぁ、慣れると普通になるよ。あそこのアホがやらかすと喧しいけどね」
嬉しそうなフィアに親指で俺を指すマクレイ。
「マクレイ…。一体どういう認識なんだ? 俺は大人しいし、落ち着いているぞ」
「へぇ~。そーなんだー」
マクレイが剣の手入れをしながら返事をする横でフィアがキョロキョロしている。
俺は横になってその様子を見ていた。そしてこの状態。何故か責められている…。先日から俺の扱いが雑になっている。ここは水をぶっかけて…〈それがいけないのです!〉アクアに怒られた。
フィアはマクレイに向かって感想を漏らす。
「賑やかでとても楽しいデす。お三人に合えて良かったデす」
「そうかい。良かったねぇ。さあ、もう寝るよ」
「は、ハい!」
マクレイの指示に慌ててフィアもしたがい横になる。って、フィアって寝るの? 不思議だ。
翌朝、日の出前から出発して荒野の先を進む。
太陽が真上に来る頃、こちらに向かってくる集団をソイルが教えてくれた。地面レーダーで十人ほどの足取りを捉えた。
慌てて隣を歩くマクレイに警告する。
「マクレイ! 何か集団が来るみたい」
「ホントかい? アタシには捉えられてないけど、凄いね!」
マクレイは関心して荒野の先を目を細めて確認している。
「どうしようか?」
「ま、成る様にしかならないんじゃない?」
そこに近くにいたフィアがマクレイに聞いてきた。
「ワタシはどうしたらいいでスか?」
「フィアはいざとなったらアタシの後ろに来な!」
「はイ!」
「ヴ」
しばらく進むと人影が見え始めると向こうの集団もこちらを捉えたらしく、何人かが左右に移動してきた。
囲むつもりかな? にしても地面レーダーは便利! ありがとソイル!〈関知できない場所も多いので気を付けて〉…なるほど。
姿が見えるほど近くになると、全員が黒いローブに身を包んだ集団だった。なんか凄い威圧感がある…。怖えぇ。
ちらりとマクレイを見ると集団の一人を睨んでいた。知り合いかな? フィアはもうマクレイの後ろに隠れてた。ロックは俺の前に移動して盾になるようだ。無理するなよロック。
マクレイが真剣な表情で俺に向いて注意してきた。
「ナオ! 無茶するなよ。アタシが大変なんだ…」
「え? いつも無茶してないよ?」
「いいから! 無謀なことはしないで!」
「何か納得いかないが、わかった」
マクレイに無茶を言われる。俺は保身第一だって。ホント。
やがて声が届く距離になるとお互いに止まる。なんか緊張してきた。すると黒ローブの内、二人が前に出てきた。
固唾を呑むマクレイに小声で教える。ソイルが事前に知らせてくれたからだ。
「右側に二人、左側に二人が隠れてる……」
「ああ、ありがと……」
マクレイが相手を見つつ囁く。すると体勢を変えた。いつでも飛び出せるような感じだ。緊張感が辺りを支配する。
どうしよう、お互い無言だ…。ここは一発、
「こ、こんにちはー!」
「……」
やばい無反応。なんか黒ローブ達が頭を寄せてボソボソ話し合ってる。やがて一人が一歩前に出て低い声を出してきた。
「…お前、“転移者”だな?」
「はい、そうです!」
「……」
また無言だ…。コミュニケーションって難しい。マクレイが息をのむ。やがて、
「我々は“転移者狩り”だ。聞いた事があるかな? 後ろのこいつはお前の能力が見える。我々が危険と判断した場合は、お前を殺す…」
いきなりの物騒な話しにビックリする。なんなんだこの人達は?
「え? 危険って誰にとって?」
「この世界にとってだ。我々はどの国にも所属しない集団…。“紅蓮の刃”殿は一度会っているな…」
「“紅蓮の刃”って何?」
「そこの女の事だ! 仲間なのに知らないのか?」
チラリとマクレイを見る。顔が赤いし、耳がプルプルしている。思わず吹き出した!
「プフゥー! ワハハ! ぐれんの~やいば~、マクレイが? ワハハ!」
「ああーうっさい! なんでこんな時に吹き出してるの!」
真っ赤なマクレイが恐ろしい顔で抗議しているが面白いからしょうがない。
「ちょっと恥ずかしいんだろ? 二つ名ってやつ? カッコいい! ワハハ!」
「今それどころデは…」
フィアが慌てて止めてきたが笑い続ける。
「…の男は~!!」
横からものすごい勢いでどつかれた! フっ飛ばされて地面を転がる。い、痛てぇ。な、仲間に殺される!
俺達の様子を見て驚いた“転移者狩り”の一人が声を上げた。
「待て! お前たち!! 何やってるんだ!」
「うっさい! あんた達は後でやってやるよ! ナオ! そこにいな!」
激高しているっぽいマクレイがズンズンこちらに向かって来た。
やばい! 最近マクレイさんは怒りっぽくないっすか? ちょっとふざけただけなのに! めちゃ怖えぇ!
「ムゥ! 皆でその女を止めろ!!」
黒ローブのリーダーが叫ぶと、俺の近くから突然二人組が現れ、マクレイに向かって行く!
一人が目に見えない速さで鎖をマクレイに飛ばす!
マクレイは体をずらして避ける。するともう一人が短い剣を両手に横構えで接近し、剣を振るう!
と、マクレイが一刀で相手の横なぎの攻撃を潰す。え? 今度は何が始まったの? フィアは……いた、どうしたらいいかわからずオロオロしてる。
「フィア! ロックと一緒に! ロック! 守ってくれ!」
「ヴ!」
叫んで指示をするとフィアがロックの元へ駆け寄るのを見て安心する。
マクレイに視線を戻すと、なぜか四人と戦っていた…。もう、戦闘スピードが速すぎてわけがわからん!
すると、また黒ローブが二人、参戦した。これで六対一だ。すると背後から銃声のような高い音が聞こえ、マクレイが剣で防ぐ。
ええ! 拳銃みたいものあるんだ、この世界。と、そんなことじゃない! この騒動を止めなければ…。切っ掛けは俺だけど。このままだとマクレイが危ない!!
「アクア!」
するとこの辺り一帯に大量の水が洪水のように上から落ちてきた!
ヤベ! 俺も巻き込まれ…ゴボボボ……。
流され、あっという間に水が掃ける。ビジョビジョになった体を起こし仲間を探す。
「ゴホッ! ゲホッ! マクレイ!」
「ここにいるよ! もう! 無茶苦茶だよ! ナオは!」
後ろにいた。振り返るとずぶ濡れのマクレイが剣を片手に足を外にして座っていた。
周りを見ると黒ローブの一団が同じくずぶ濡れで、起き上がろうとしている所だった。
「マクレイ! 大丈夫か?」
「ああ。他のやつらより、ナオにやられたのが一番効いたね!」
「……ゴメン!」
「いいよ。アタシもカッカしすぎた…」
俺達が話している間に黒ローブの一団が全員でこちらに近づいてきたと思ったら、一斉に跪いてきた。
黒ローブのリーダーが口を開く。
「ひょっとして、お主は“契約者”か? 精霊主様に導かれし者か?」
「ああ、精霊主達にはそう言われているよ」
答えるとリーダーが頭を下げた。
「なら詫びなければならない、失礼した。まさか“転移者”が“契約者”とは」
「その…“契約者”って偉いの?」
「フフ、偉いとは違うな。“契約者”はこの世界では敬う存在なのだ。悪や善を超えた者だ」
「? 全然わからん」
「…今はそれで良い。お主は誰も束縛できないしな」
ちらっとマクレイを見ると微笑んでる。何?
と、そこに黒ローブの一団から一人が出てきて、フードを取った。黒髪の目が鋭い美しい女性の顔が現れる。
「私はカレラと申します。失礼ですが、契約者様! 精霊主様を一目、見させて頂けませんか? 精霊主様を見ることが私の悲願の一つなのです…なにとぞ!」
首を垂れて懇願された。マクレイを見ると頷いている。ソイル、アクアいいかな? 〈構いませんよ〉〈私も〉それじゃ、お願いします。
すると、カレラの前にソイルとアクアがふと現れた。
「あ…あ…! 精霊主様…」
『皆の者よ、我々は契約者と共にあります。…皆に幸多き事を……』
そう言うと精霊主達は風のように揺らぎ消えた…
「……契約者様…ありがとうございます!」
カレラは涙を流し、フードを再び被って後ろにさがり仲間の元へ戻っていった。
「よもや二柱とは…これは…」
リーダーがぶつぶつ言っている。見られていると気づくと、
「ああ、スマン。彼女は精霊を扱えるから、その主に会えるのが一種の証になるんだ。ワシからも礼を言うよ」
「いえ、そんなに凄かったんだ…。こちらこそ申しわけない」
謝るとリーダーが豪快に笑い出した。
「ワハハハハ! 面白いのうお主。ワシはこの集団を率いるバガンだ。それではな!」
「ああ、また!」
“転移者狩り”の一団は立ち上がると先へ歩み始めた。と、バガンが振り返り、
「そうそう、紅蓮の…マクレイ殿! 契約者をお頼み申した!」
そう言うと再び背を向け去っていった。
「やなこったい!」
マクレイ、後ろでつぶやいても聞こえるから! フィアとロックがこちへ向かってくる。
近づいたフィアが声を上げる。
「ナオヤさん! マクレイさんにあやまってくだサい!」
「ええ?」
「この騒動はナオヤさんが元なんデす! 失礼すぎマす!」
やばい、フィアが両手を上げて怒ってる…。俺って女運が悪いのかな? って、フィアって女の子かな?
「ナオヤさん! 聞いてまスか?」
「はっ! スミマセン!」
「ワタシじゃありまセん! マクレイさんにデす!」
「なあ、もう大丈夫だから…」
マクレイが助け舟を出す。って、謝られる側が助け舟って?
「違いマす! ああ…もウ…」
「ありがとフィア! 気持だけで嬉しいから…」
困ったマクレイが優しくフィアをあやしている。
「二人ともゴメンな?」
「ナオは黙ってて! ややこしくなるよ!」
俺が謝るとマクレイに怒られた。
え~! これってどう言う事? 何故かマクレイがフィアをなだめている。
しょうがないので落ち着くまでロックと体育座りで佇む。あー腹減ったなぁ~。
「ヴ」




