自宅で大量の経験値ゲット
ーーー2010年ある日の夜
風呂から出た三歳の息子は当時お気に入りだったアンパンマンのパソコンに夢中になっていた
これは私への【ゲームしていいよ】という合図である
「やっちゃいますか!」
私は携帯を装備して台所でオンライン麻雀を始めた
♦◇◆◇◆
15分くらい経っただろうか、【なにか】の気配に気付いた私はパッと目の前の壁に目を向けた
その瞬間ーーーーー
「うあああぁぁぁ…ぁぁ……っ」
間抜けな叫び声、しかも低い。私の声で息子が泣きながら私の方へ駈け寄ってきた
虫が大嫌いな私はゴキブリがヒュッと出てくると
『きゃっ!』とか『きゃあっ!』なんて可愛らしい声を出すのだが換気扇からゆっくりと、そして堂々と出てきたソレを見つけた私は人生で最初の本気の叫び声をあげたのである
引っ越してまだ半年も経たず夏場でもないのにソレは出た。初めて見るソレは完全体の日本のゴキブリの約3倍もあった
(ムカデか……?)
ソレは子供の頃に畑で見たムカデとは違い太くて短い、だが足は線みたいに細く無数にあったためムカデだと勘違いしていた(後にゲジゲジだと知る、ちなみに微量の毒がある)
ムカデだと思った私は息子を先頭不能にするわけにはいかないと思い【逃げる】選択肢を諦めソレと一騎討ちを決意! 運よくソレは這い回ることなく、ここが俺の定位置だと言わんばかりに止まっている
(潰せない……でもなんとかしないと……)
戦闘開始前から弱気になっていたがすぐにソレに対し攻撃力30%アップの伝説の武器が家に眠っていることに気付いた
【カビキラー】だ!
(ソレが現れてからここまで五分くらい)
すぐにカビキラーを装備したがやはり躊躇してしまう……向かってきて私に少しでも触れようものなら瀕死の状態に追い込まれてしまうだろう、再び立ち上がれないかもしれない
けど……っ! 躊躇も束の間、ソレに銃口を向け私は大きく息を吸い込んだ!!!
ここで私の体勢を説明しておこう
ソレから1メートルくらい離れたとこでカビキラーを装備した右腕をこれでもかってくらい伸ばし、腕以外はソレから精一杯離れようとしている状態だ。お分かり頂けるだろうか?情けないことこの上ない。しかし、私の虫嫌いを知っている家族はこんな体勢の私にこう言うだろう……
『勇者よ』
大きく息を吸い込んだ私はすぐにカビキラーを射出!
「駄目だ! 外した! もっと上だ!」
五発目くらいでカビキラーの泡がソレに触れた、当たったのではなくフワッと触れた。止まっていたソレはBダッシュ。速いっ! もの凄い速さだ!! ムカデより太くて短い胴体からは想像も出来ない!! 動き出した瞬間、私は叫びながら攻撃
「ああああぁぁぁぁーーーーっっ!!!」
サスペンスや刑事モノのドラマなんかで、銃を扱ったことがない女性が「きゃあーーっ!」などと叫びながら射つのをよく見る
(こういうことか……)
ソレは30センチくらいBダッシュして壁から床に落下、汚れることはお構い無しにカビキラーをかけ続ける
更に床を50センチくらいBダッシュしたソレは漸く停止した(射出してから30秒くらい)
チャンス!!
動きを止めたソレが泡で見えなくなるまでかけ続け、「ハア……ハア……」と額の汗を拭いながら泡が落ち着くのを待った
パチパチと音がする、ソレが蠢いているのか、カビキラーの泡が割れているのか判らない
(気持ち悪ぅ……)
ソレが泡から少し姿を見せた、完全に動かない。【倒した】と思った私はすぐに次の試練が待っていたことに気付く
どんなに大量のティッシュを装備してもソレに触れることは不可能だ、そう気付いた私は何かでソレを掬うことに決めた
何で掬おうか、薄い紙ではヤツの重い体は掬えない……
そうだ!
我が家にはまだ強い武器がある! 400Gくらい(激安)で購入できた掘り出し物、息子に買った幼児雑誌【めばえ】だ
めばえの表紙を切り離し装備。ソレを掬おうと近づくがすぐに断念する
(駄目だ……
これじゃ短くて近づくの怖い……)←ヲイ
めばえの裏も切り離し、表と裏を縦に長くなるようくっ付けガムテープで強化。リーチが2倍になっためばえを再び装備しソレに触れた瞬間
「きゃあっ!!」
動いた、いやズレた。めばえがソレに触れて少しズレた(当たり前だろ)一瞬やる気が失せ、ソレから目を背けた私の目にすぐに映ったモノは……
【携帯電話】
最強の助っ人が居るじゃないか! 女神○生、ペ○ソナ、デジタル・デ○ル・サーガなど、ア○ラスのゲームで音楽を手掛けている目黒○司さんの曲。これさえあれば私は無敵だ
すぐさま携帯を装備しYouTu○eからペル○ナ4のバトルミュージック【Reach ○ut To The Truth】を選曲
「いける」
私は無敵になった。マリオがスターをゲットしたくらい輝いている。携帯からめばえに装備変更し、音楽を聴きながら静かに目を閉じ覚醒を待つ。間もなくカッ! と目を見開きついに勇者が覚醒した
めばえでサッとソレを掬い(実は)用意してたゴミ袋に素早くソレを落とす
ボトッ
落とした音で、ソレの体が泡により結構重くなっていることが分かる
「ひいぃっ!」
と鳥肌が立ったが、叫びながらも覚醒中の真の勇者の動きが止まることはなく(実は)用意してた輪ゴムで袋の入口を巻いた
漸く経験値が入った感覚を覚える、しかも大量だ。かなり不利だと思われた一騎討ちだったが激闘の末、見事にソレを倒した! 私の虫嫌いを知っている家族はこの勝利を目にし、こう言うだry
完全にゴミ袋に閉じ込められたソレは半分くらいに小さくなっていた。ちょっと近づいて見てみた、かーなーり足が長い
虫世界では美脚の持ち主だったのだろうか……何本か取れてますけど
ソレの手下がいつ仇討ちに現れるか分からない、私は神武器【殺虫スプレー】を探しに明日、コープまで旅に出ることを決意したのだった