池袋駅にて
柱にもたれ、いつものように人の波を眺める。
今日もうんざりするほどの人の数である。
マンウォッチングの獲物には事欠かない。
しばらくそれを楽しんでいると、スーツに身を包んだヤクザ風の男が三人、俺をチラチラ見ながら通り過ぎた。年の頃は四十前後だろうか。
なんなんだ、と思いながらもやり過ごしたが、しばらくすると、その中の一人が正面から近づいてきた。左を見るともう一人の男が。そして右からも。
俺を包囲するように三人が近づいてくる。
とっさに心が身構えた。
『なんだテメーら』
俺の目は鋭くなる。
三人が拳の射程距離に入ったところで、正面の男が胸の内ポケットに手を伸ばして言った。
「あんた日本人?」
内ポケットから取り出したのは警察手帳。
身構えていた緊張が解けるのと同時に、笑いがこみ上げてきた。たしかに薄汚いジャンパーに無精ヒゲだけどさ。しかしそれにしてもなあ。
「まったく、君達は」
なかば笑いながら、
「お~ら」
俺も運転免許証を見せてやった。
免許証を確認した刑事は、つられ笑いで謝罪する。
「失礼しました」
あとは簡単な職務質問。最後に再度、「失礼しました」と謝り、人ごみへと消え去った。
しっかし、なんで警察は人の楽しい時間を邪魔するかなあ。誤解を招く俺が悪いのか?
まあ、彼らが頑張っているから日本は平和なんだろうけどさ。にしても、こんな柔和な顔をした犯罪者はいないだろうに。