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醒めた夢。

慎也はただ優奈を抱き締め続けた。

激しく嗚咽する優奈の背中を撫でながら、この夏祭りに足を踏み込んでからのことを思い返す。

すると突然さっきまで雲1つなかった空を真っ黒な雲が覆い始めた。

数分も経たないうちに辺りが暗くなり、ゴロゴロと雷が為りだす。

やがて真っ黒な空から冷たい雨が降り始めた。

慎也は優奈の体を少しでも雨から守ろうと庇うように抱き締める。

優奈の頭に顎を乗せる様にして、何か見落としている点はないかと考えた。

雨はどんどん激しさを増していき、慎也の額に濡れた髪が張りつく。

すると突然背後で何かものを引きずるような音がした。恐怖で背中が冷たくなる。恐る恐る振り返ると、坂の上に黒い物体が見えた。それは少しずつ近づいてくる。小さい方は青い甚平を纏っていって、大きい方は紺の浴衣を纏っていた。雨の水圧で体にはブスブスと穴が開いていき、無数の虫が周りを飛び回っている。その顔は林の中で見た

「高政由希子」

と瓜二つだった。慎也の体がガタガタと震え始める。

「・・先輩?」

ただことじゃない慎也の様子に優奈が顔を上げる。

肩越しに後ろの光景を見て悲鳴をあげた。

慎也は歯を食い縛り、ヨロヨロと立ち上がる。

上手に力の入らない腕で優奈を立ち上がらせた。

雨水をぐっしょりと含んだポシェットを掴み、優奈の手首を握る。

戸惑う優奈の手を引っ張って走りだした。

雨を顔に受けながら慎也は無我夢中で走る。

2人で手を繋ぎゆっくり上がってきた道を、今度は全速力で走り抜けた。不思議なことにあんなにたくさんいた人々の姿が今はどこにもない。その代わりに背後に迫ってくるズリッ、ズリッという音は次第に大きくなっていく。今にも引きずり込まれるのではないか・・。そんな恐怖に優奈は何度も後ろを確認しようとする。

「優奈!振り返るな!」

突然前を走る慎也の鋭い声がする。

ハッと神社で聞いたあの老人の言葉を思い出した。

あのおじいさんは誰なの?ホントにここはどこ?優奈の頭はますます真っ白になる。

何も考えられずにただひたすら走ることだけに全力を注いだ。転がるように坂を下り、やっとあの山のふもとが見えてきた。細い道路を渡り、空き地に辿り着く。そこまで行くと急に体の力が抜け、座り込んだ。汗と涙と雨で顔はグショグショだったがもう拭う力も残っていない。そのまま意識が遠くなっていった。

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