夏祭り。
たこ焼き、焼そば、わたがし・・。
いろんな種類の店が軒を連ねている。
優奈は慎也と手を繋ぎ、歩き始めた。
山に沿って微妙な上り坂になっている細い道は足元がおぼつかない幼児から腰のまがった老人まで、どこにこんなに隠れていたんだろうと思うくらいのたくさんの人でごった返している。しかしどの顔にも笑顔があった。金魚すくいやおもちゃ屋さん、いろんな店を覗きながら進んでいくと、古ぼけた小さな店が右手に見えてくる。
「ちょっと見てく?」
じっと見つめる優奈に慎也が聞くと、優奈はコクンと頷いた。
重いガラス戸を押して店内に入ると、中はパン屋だった。
少し薄暗い店内ね棚には何種類かのパンが並び、入り口の正面に1人の老婆が座っている。優奈は白いトレーにクリームパンとカレーパンを取った。老婆の前の机に置くと、老婆はパンパンと電卓を押す。190という表示を見てから、優奈はポシェットから財布を出した。すると先に慎也が100円玉を2枚、机の上に置く。
「オレ、おごるから。」
慎也はそういって老婆からお釣りを受け取った。茶色の紙袋に入ったパンは腕の中でまだほんわり暖かい。パン屋から少し離れた所に横に長い黒い小屋があった。黒いカーテンで囲まれた入り口には
「おばけ屋敷」
と書いてある。
「なんか暑いし、ちょっと入ってみねぇ?」
額の汗を拭いながら慎也がいった。
入り口の横に入場料50円とある。
慎也が小さな窓口に100円玉を差し出すと、しわがれた手が出てきて入り口の方を指差した。
ギリギリ大人が2人通れるぐらいの通路を手を繋いで進んでいく。慎也の手を握り締める優奈のはじんわりと汗ばんでいた。10メートルほど歩いていくと少し広い空間が広がっている。そこの真ん中に学校で使うような机と椅子が置いてあった。その上には裸の豆電球が揺れている。机の上にはレトロなパンダのポーチが置いてあった。中にはキャンディーが入っている。
「すごい。可愛い・・。」
薄暗い明かりの下で優奈がホントに嬉しそうに笑う。すると慎也は突然優奈の肩をグッと引き寄せ、キスをした。唇が触れ合ったのはほんの一瞬だったが優奈は驚いて目を見開く。
「もう一回してい・・?」
慎也が少し擦れた声で聞く。優奈はコクコクと頷いて、顔を上げた。ドキドキしながら目を閉じる。今度はちゃんと唇の感触を感じた。恋い焦がれた人との初めてのキス。おばけ屋敷の小さな部屋で、優奈は最高の幸せを感じていた。