第7話
リーナは、もうすぐ6才になる。
父達と共に、年の半分は一緒に仕事についていく。
残りの半分は、父の率いる傭兵達の拠点のいくつかで、移動しながら、父の帰りを待つ。
その時には、いつも父の代わりの男たちが、リーナのそばに寄り添っている。
それぞれが、各隊を率いる者ばかりだが、リーナにとっての一番の相棒は翼狼のコウだ。
リーナの、いや、並みの大人でも大型の翼狼、特に、ニルガと共にある、この小さな群れのボスであるコウにはかなうまい。
今は数頭いる雌の翼狼の子育ての季節で、このダゴン山脈よりのアシパラ草原にある、大きさだけでいえば第一の拠点であるケルパ砦に、ここ数か月落ち着いていた。
元々コウは父が幼獣の時保護した翼狼で、普通であれば、人の手で触るだけで、命を落としてしまうほどの野生であるのだが、何故か父グレンの手で成獣まで育った。
ギランにいわせると、
「嬢ちゃん、ボスは、すんご~い生き物なの。あれは生き物?う~ん、生き物かねえ?」
「まあ、コウにしたら、野生に従ったかんじ~?」
と、わけがわからない事を言ったりするが、ギランのいう事なので、軽くスルーしている。
リーナは、このギランのおかげで、それはそれは、いろんな体験をしまくりなので、スルーするという、裏ワザを、既に6才にして身に着けていた。
幼いリーナのお守りは、副長のルースと特化隊長シーガ、それと荷係りのナンが主だってみていたが、運が悪いことに、たまにギランに回ってくる。
冷闇のルースなどと、通り名があり、冷静沈着で、自分の女、子供であれ、必要とあらば顔色一つ変えず、簡単に自らの刀で切り捨てた、その男が、髪をかきむしりながら、血走った目で、ギランに一言、
「この前のように、かわいいリーナに、実物の蛇を使って、毒のあてっこをさせたり、ああ、その前は 確か、本物の迷いの森でのおにごっこか・・・、そんな事をしてみろ!貴様の、そのどうしようもな い鳥頭を、即刻切り離してやる!!」
と、リーナをみながら、涙目になっていたのも、つい最近の事でもある。
相棒のコウがいなければ、リーナの命は、ギランに限れば幾つあっても足りないくらいだ。
シーガなどは、いつでもギランをやる気満々で、ギランいわく
「あーゆー、無口な奴に限って、なに考えてんのか、わかんないよね~。」
「あ~ゆ~遊びを知らない、よゆーのない大人になっちゃダメだよぉ。ちゃんと嬢ちゃんには俺がおせーてあげるね!」
などと発言し、シーガに更に狙われるはめになった。
リーナの相棒の翼狼のコウには、いつのまにか雌の翼狼のジーと名付けられた群れが、共に行動をするようになり、はじめての繁殖期と子育てのために、この砦に、しばらく落ち着くことになった。
ラクゼ地方神殿を襲撃してから、ここ数年中央神殿とは、緊張関係が続いてはいたが、表向きラクゼ地方神殿は、はやり病の流行によって閉鎖とされ、翌年新たに隣接地のホボツに地方神殿が建立されたばかりであった。
傭兵団はあいかわらず、いろいろな場所を隠れ蓑として、活発にこの大陸で、落し物の捜索から、祭りの警備、要人の暗殺、国同士の戦いなど、、ピンからキリまで、請け負っていた。
ラクゼの事もあり、雇い主達は、傭兵団に対して、何かをしかけてくるようなこともなく、ここしばらく、リーナもこの砦に落ち着いていられるようになった。