第5章 第8話
帰ってきました。
気のむくままの旅の予定を、わずか数日で切り上げ、宿場を出て夕刻にはハリウスへと戻ってきた。
そうか、うん、出発地点に行って帰ってきた感じか?そんなバカみたいな事を考えてるのには理由がある。
ルークとナンが、まるで待ち構えたように、街の入り口に立っていた、いつからいたのあなた達、と、いうかいつ戻ったの?
私が街を出る時は、あなた達はラージス帝国で仕事していたはずよね?
しっかり背中に暗雲どころか、手に刀を持って、それはいい笑顔で・・・。
「ちょっと遊びたいなあと思いまして。ラージスより帰還いたしました。」
って、それこそギランじゃない、っていうか、ルークを怒らせるなんて・・・、ギラン以外いなかったのに。
あんた達やはりギランの眷属だわ。
眷属認定ね。
先についたはずの、元ラージス兵の方々はどこかな、と、嬉々として飛び出すギランと、やれやれといった感じをだしつつも、目は楽しさを隠さぬハジムが二人の元に駆け出し、遣り合いはじめるのを、目の端にとらえながら、見渡した。
すると肝心の親玉の癖にわれ関せずといった風に馬の手綱を持つジェイムスと目があった。
どうやら、ずっと私を見ていたようで、それを幸い近づいてくるのを、父がさりげなく私の背中に手を回しブロックする。
ナイス、父さま!にっこり父を見上げる。
そこに邪魔されたジェイムスが軽い感じで声をかけてきた。
「ちょうどいい。少しお話させて頂きたいと思っておりました。」
「あの宿場町での、食事の席でも、リーナ殿の手を握るそれを、どこから切り落とせばいいか真剣に悩んでいたものですから。ちょうどお聞きしたいもので、どちらの手からいきますか?」
そう言って優雅な物腰で父に話しかけるジェイムスに、父も振り返り、うん、二人の顔なんて見る元気なんかないわ。
それにどちらの手からって、両方切る気満々じゃないの。
人外同志の威嚇しあうそれなんか、私の範疇外だわ、ありえない。
私は、
「もう疲れたわ、なぜ街の入り口で、私が立ち往生しなきゃいけないのか理解できないわ。ありえないわ。」
そう言って、一人ずんずん歩く。
それに、真っ先にギランが気がつき、
「あ~っ、俺も!1ば~ん。」
そう言って走り寄ってくる。
ギランのいう事は基本考えまいとしているが、あまりの嬉しさのあふれる、その「いっちば~ん」の声に、何が一番なのか、ふと考えてしまった。
父もすぐきびすを返し、私の腰に手をかけ、なだめるように優しくさする。
それに何か気配がしたかと思うと、カキーンという金属音が背中でなる。
チラっと後ろをつい見てしまったが、ジェイムスと父、二人のあまりのブリザードぶりに、これからを思うと頭が痛い。
父のすぐわきの定位置にルークがすぐさまついて、ジェイムスには同じようにハジムがついた。
落ち着きなくギランが前に後ろに駆け回り、いくとこいくとこで邪見にされていた。
前を見れば迎えにきたのか、めっきり背も高くなり少年の域をあっという間に飛び越えて、いかにも高貴そうなそれに妖しさを漂わせるようになったジュールがいた。
にぎやかに街中に入る私たちにチルニーはおもしろそうな顔を隠そうともしないし、シーガ、あなたその手に持つそれをどうする気?
誰に投げたいのか知らないけど、私のいない時にね!そう目でシーガをにらみつけると、しぶしぶ懐にしまう。
久しぶりの全員集合に、あまりの規格外ばかりの面々に、変わらぬそれに、つい私は笑い声をあげて駆け出していく。
後ろを振り返って、父の手を握り、もう一度かけだす。
なんかもう片方の手をを当たり前のように握って、ついでのようにそれにキスをしてきた男にも、今の私は笑いかけてやった。
もう、なんかハイテンションになった私は、今夜はお祝いをする!と宣言し、ハリウスの街は朝までどんちゃん騒ぎのお祭り騒ぎになった。
昼過ぎに飲みすぎたお酒と寝不足で、ふらふらな私に、チルニーとハジムは仲良く黒さ全開でお茶を飲みながら、
「それは高揚なされたというのではなく、自棄というんですよ。」
「我が主にあれだけ甘えて頂ければ、臣下としては幸いでございました。」
と言ってきた。
私は答える元気もなくソファーにもたれたが、二人はおのおのの発言に何やら思う事があるらしく、それはそれは穏やかながら、一言ひとこと相手をえぐるべく、黒さを通り越した普通の人間なら真っ青になって再起不能になるだろう会話を、静かに再開した。
なるほど、二人以外ここにいないわけだ。
最早、お茶の時間さえこれなのか、と痛む頭に手をやりながら、まあ壊れた人間がいくら増えようと、ニルガはビクともしないはず・・・、と気を取り直して、喉がかわいたのでお茶を頼むと、二人同時に立ち上がりお互いの目を見合わせガチンコ状態に陥った。
あなた達、お茶では、全て取り払ってガチンコでいくのね・・・覚えておくわ。
どちらでもいいから、私においしいお茶を頂戴、そう思いながら、またソファーに沈み込むリーナだった。