第5章 第7話
今から、ちょっと出かけますので急いで更新です。
「で、どうなさるつもり?」
最早、旅に出る意味もなく、顔を見たくないので旅に出たはずが、こうも目の前にいるのでは、リーナでなくとも、やる気も何も、そこはかとない希望まで潰えてしまった。
まあ、最高の朝陽をみることができて、自分としては、この男から逃げる以外の旅の目的は果たせたので、それはそれで、きて良かったと思っているが。
昨日の朝などは、湯桶をわざわざ窓辺まで運ばせ、朝陽を浴びながらの朝湯を楽しんだ。
部屋の外まで運ばれたそれを、父が受け取り、私にかけてくれた。
うん、あれは癖になりそう、手間がかかるのと、父を追い出せないのが課題だけど。
いけない、いけない、つい楽しいことを考えて逃避しちゃった。
今、目の前のウネウネに集中しなきゃ!
昨日の昼の大騒ぎの後、それぞれ今朝まで自由行動を宣言して、ぶっちゃけ勝手にして!ってことになり、私も父も部屋に食事を運んでもらい、この朝食まで部屋にこもっていた。
そして、このままハリウスに戻ることが決定したが、その前に私は聞いておきたいことがあったのだ、馬車に乗る前に。
私の馬車につきそうように控える二人に、馬車に乗る足を止めて、さりげなく聞いた。
いずれ早晩ラージス帝国で混乱はおきるでしょう?、その時はあなた方を頼るものがきっと出るわ。
私のニルガに面倒を持ち込む気なのかしら?と。
それに対して、ジェイムスではなくハジムが優雅に微笑みながら答えた。
「1、2年以内に、騎馬民族である遊牧の民ラファン族がラージスに攻め込み、綺麗に帝国を蹂躙してくれますので、ご心配には及びません。人も国もそれを形づけるほど残らぬでしょう。」
「もちろんラファン族は、すぐさま我ら新参のニルガ兵により滅び去る運命。邪魔な物など、何一つ残しませんよ。何一つね。ご安心下さいませ。」
そう、そうね、そうでしょうね・・・国も民も全て根こそぎってわけね。
まっ、案外傭兵には向いてるかもね。
そして私は、本当は、この何年も聞いたかった事を、声が震えないように、そっと聞いた。
「昔、子供の頃綺麗な辺境の村にいたことあるの。もしあの時私が貴方につかまっていなかったら、・・・いいえ、何でもないわ。忘れて・・・。」
そう言って馬車に乗り込こもうとする私の耳に、ジェイムスの声が聞こえた。
「貴女がみつからなかったら、それこそ次は大陸中を血に染めても全てを崩壊させても探し出したでしょうね。どんな辺境とてね、情報を集めるために。」
私は聞こえなかったふりをして、馬車にゆったりと座って、窓から漏れる外の光をその手にあてた。
手に当たる光のゆがんだ円を見つめながら、父の肩にもたれた。
・・・うそは下手ね、あの人。
古狐の親玉だから、舌も幾つにも分かれて、いいように言う男だと思ってたけど・・・。
宿場を出る時には、入るときとは違って静かなそれに、何てげんきんなんだろう、と笑ってしまった。
父に髪を撫でられながら、少なくても、みんなとの約束の一つはかなえたかしら、そう思って遠い空に思いをはせた。
当分この大陸が落ち着くまで大変そうね、どうせなら楽しまないとね。
ギランとでも覗きにいこうかしら?そう思った私を、父は、小さいときに私のいたずらを見つけた時のような目を細めて、私に目で問うてきた。
うっ、ギランと抜け出すには、いろいろとクリアしなきゃいけない関門が幾つもありそうだと、あれやこれの顔を浮かべながら、でもやりがいはあると思うリーナだった。