第5章 第6話
苦労人ルークです。
ルークは、大国ラージスの滅びの一歩を告げる、バカバカしい戴冠式を見つめていた。
この3年、ナンの部隊を筆頭に、ハジム子飼いの人間達をもフルに使って、大陸最大最古のラージス帝国を、外のはりぼてを綺麗に残したまま食い尽くしてやった。
彼ら曰く、予定よりも半分近くの年月で終わったのは、さすが、さすがだ、と手ばなしで褒めていたが、その「さすが」に込められた意味は考えないようにしていた。
連中にまともにかかわってはいけない、とルークが覚えたことの一つだ。
自分にとって長かった3年を思い、その間ジェイムスという男の底知れなさに関心もした。
そして、あのふざけた二人はこちらにけどりもさせず、あれだけの装備を準備していた。
あの人数でありえない早さであっという間に出奔した。
ギランが顔を出してから、短時間で連れて行くにふさわしい能力と忠誠を誓った若い人間を、ねこそぎ連れで飛び出ていった。
ルークが、ナンが怒り狂っているのは、それだけの人間と装備を、気付くことができなかった自分たちと、特に専門であるナンに、けどらせもせず、いつでも出奔できる状態を維持していた実力に、最早爪を隠すどころか、全開にしてニルガに参入するあの主従を懸念してのこともあった。
一刻も早く自分たちも戻りたいのに、こちらに丸投げしやがって!
この戴冠式もあの主従が、ナンいわく「とんずら」した翌日に、予定の日を繰り上げて、まあ脅しつけて、とも言うが、各地の領主などを集め派手にやるところを、神官長はじめ取り残された重臣たちのみで急ぎ執り行った。
ジェイムスがこの3年粛清の嵐を吹かせたおかげで不正をしていた、ある意味力のあった輩や、ついでとばかりにその財産もだが吸い上げつつ、自分に都合の悪い人間もそれらに紛らわせて処刑しまくったので、ここに残っているのは凡庸な人間ばかりで、屋台骨を支えていたハジムとその部下、それに自分たちが一気に抜けるこの国は、このでっちあげの新皇帝のもと、あっという間に瓦解するのは火を見るよりあきらかだった。
まあ、知ったこっちゃないが。
あのジェイムスという男は戦乱の世であれば、きっとこの大陸を統一するような凄い男であったのだと思う。
一度酒の席で、どうせなら戦をおこしてみてはどうだ、とからかってやったが、相手になる国もなく目に見えて勝てるそんな退屈などいらぬ、と答えてきた。
そして、この国を滅ぼすのも一興かと思った事もあるが、どうもいくつかそれをシュミレートしたが正当な考えしかなかったのだと今にして思う。
つまらぬとやめてしまった。
いやいや、さすが我らには及びもしないやり方だ、とジェイムスが褒めてきた。
それにハジムが、ガジガジはガジガジを知る!ですね。
そう言って二人にんまり笑った。
後でナンにガジガジって何のことだ?と聞いたら、ナンが不気味に笑い、あの主従の元にすっとんでいった。
はあ、早く戻らないと。
あの主従にギラン、それとあの俺からみてもできる兵達、急いでニルガの再編成をしなくては!
あいつらの統制は誰がとるんだ?
俺は、絶対嫌だ、あれが唯一本気の目をするリーナを思い、またため息をついた。
だらだら続くバカバカしいそれに、つい舌打ちが出る。
ルークの舌打ちに、その場が凍りつき、新帝は目に見えて震え、神官長の祝祈の言葉も途切れた。
それでも何とか続くそれに、ルークはついに我慢の限界を超えた。
ルークは大きな声でうなると、腕を組んだ不機嫌そうな様子も隠そうとはせず、先帝ジェイムス様よりの言葉だと、それをおざなり伝え、栄えあれとしめくくると、どこぞの男同様、体調不調により失礼つかまります、と言って王宮神殿を早足でとび出た。
こんなとこ、とっととおさらばだ!3年だ、3年!
まったく食い尽くせど食い尽くせど、あふれる富に、うんざりし、変な意味で大帝国を実感したルークとナンだった。
そのままルーク隊、ナン隊は急ぎ集結しグレン団長に合流すべく、ニルガ拠点ハリウスに、まだ一度も足を踏み入れてないそこに急ぎ馬を走らせ向かった。