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心の花  作者: そら
第5章
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第5章 第5話

寒かったですね。

風邪に気を付けて下さい。

それは、それは本当に静かな昼食風景だった。


ラージスからかけつけた、ジェイムスの殆どの部下達は、一路正式な挨拶は後に、最新のニルガ拠点、ハンブルに向かった。


ただし、護衛としてリーナ達についていた傭兵達の先導をまって。


リーナでなくとも確信して言える。


あのきらきらしい甲冑やマント、それもニルガ紋章入り!あれで近づいた日には、いくら沸点の低い、あくまでも他の傭兵達と比べてだが、現在ハンブルをまかせているシーガでさえ、問答無用に得意の爆薬を雨あられと彼らに降らすのは間違いがないと。


その為、無言の父に代わり、リーナがいくら何でも彼らをすぐ殺すのもなあと考え、自分の護衛についてきた彼らを共にハンブルに向かわせた。


何せ彼らの内の一人は、シーガの甥っ子だ。




・・・父は一言もあれからしゃべらない。


真っ先にこちらに走ってきたギランに、ため息と共に、デコピンを、あれは・・・デコピンの範疇を軽く超えていたとは思うが・・・。


だって、あれ私がルークに教わった極刺のツボの一つだと思う。


人間がどんなに鍛えても、絶対鍛えられないツボ、場所によってはぽっくり、って奴。


ギランもそのまま屈んで苦しそうだったもの、ま、ギランだけど。


ギランはそのままおでこを押えて、なんでえ~って騒いでいた。


普通の人じゃ、あんた確実に死んでんよ!


珍しく弱ったギランに、綺麗な笑顔のチルニーとジュールが、


「お世話になりました、ねっ!」


「お先に逝って下さいね。」


そう言いながら剣を片手に本気モードだったのも自業自得だ。


でもまあこのテーブルにいるって事は、無事生き延びたのね。


しかし、はあ、静かすぎる・・・。


無言の父に代わり、とりあえず現状把握の為に、昼食をとりながら、となったんだけど・・・。


何せ少しは落ち着いたかなと、確かもう古狐は30を少し過ぎたはずだし、あれもそんな感じの年だと思うし。


ところがやはりウネウネだった。


開口一番、ジェイムスは父に、代表である父におざなりの挨拶をすると、私に向かって


「愛しい貴女が、とてもナイーブとはいえ、私の心からの手紙を見て下さらなかったのは、とても残念でした。けれど毎月貴女を思い送るプレゼントが貴女の身を飾る事を思えば、この3年こうして会える日を夢見て、毎日毎日自分を慰めておりました。」


私が引きつりながら、父の手をそっとテーブルに隠れて握りしめると、すかさず父が強く握りしめてくれた。


それに心を強くして、内心、あんたなんかの、あの口にするのも厭わしい読んでしまった最初で最後のあの手紙のせいで、何かなくした気がする私の心を返せ!と言いたい所なのに、ギリギリのところで我慢して、微妙に頑張って微笑みながら、話しかけた。


「うちのギランが、何か誤解してジェイムス様の所にご迷惑をおかけしたようで、申し訳ございません。本当に何を誤解したのかしら?」


ありったけの眼差しに、君らは呼んじゃいないし、お邪魔なの、消えて頂戴!と心をこめて言った。


ハジムは、この人30すぎて、ジェイムスもだが、ますます大人の魅力をむんむんさせている。


さてはこのウネウネマジで人間食べてないか、と本気で人外になったかと戦慄する。


何せ凄いパワーアップぶりだ。


ハジムは、にっこり父に向かい、ふっ・・・私は無視ね・・・。


「お久しぶりの邂逅、恐悦至極にございます。」


「ギラン殿は時々、我がラージスにお見えになっては、我が主ジェイムス様に、皆さま方の近況を、特に主が愛してやまないリーナ様の近況をお伝えして頂き、主の無聊を慰めて頂いておりました。」


それを聞いた私たちは思わずギランを睨みつけ、こいつ当分エサ抜きだ!と、このどんよりとした雰囲気も顧みず、むしゃむしゃ一人で誰一人手に付けぬ昼食を嬉しそうに食べている。


私達の視線に気が付いたギランは、目の前の山盛りの皿に手を回し、


「ダメ!これ俺のだよお!」


と、がばりとばかりに、その皿を守った。


隣に座るジュールがそれを静かに見、つい手にしたグラスを滑らせたかのように、本当に自然にしか見えない動作で、その皿の上に、ギランの囲む腕にも綺麗にその食前酒のグラスを落とした。


ギランが声も出さずに茫然とジュールと自分の皿を交互に見て、次に目をあげた時は、雰囲気をガラリとかえ、2つ名を持つ傭兵となり、


「お・し・お・き。」そう言って立ち上がろうとした。


それを父が、ここで初めて声をだし、止めた。


「遊ぶな。」


すぐさま言う通り座りなおしたギランに、さしもの主従も驚きを隠せない風で、言う事をすぐさま聞くギランを唖然として見ていた。


そりゃそう、ギランに関わった人間なら、まさかの光景だと思うわ。


それより父がやっと話しだしたわ、もうやっぱりやだ、この主従。


父の手をぎゅっと握って、エールを送った。


父は私をみて目元を和らげると、皿を見てしょげかえるギランに自分の皿を渡し、本当に少しでもここにいたくない食堂の面々が厨房の出入り口にべたりと張り付いているのに、新しい料理を皆に注文し直し、やがて嬉々と皿にかぶりつくギランを見て、何故か優しく笑った。


私以外にあんな笑い方するなんて珍しいと思いつつ、やりとりをはじめた父とラージス主従を頭から追い出し、私も新しくきた暖かい料理に舌鼓をうった。


ほんと、私じゃあのうねうね主従は無理!やっぱ無理と再び実感しつつ。


父にバトンタッチして、心行くまで食事を楽しんだ。


やっとデザートまで進んで隣の父をみると、全然食べてない。


私はテーブルが一応の落ち着きがあるのをみてとると、ハジムの相手はチルニーがしていて、うん、チルニーあんたのその笑顔ハジムに全然負けてないわ、なんだか怖いけど。


ジェイムスの相手は何とジュールがしていて、それに時々父が加わっていた。


す・すごい、ジュールあんたさすが腐っても王族だわ。


あのうさんくさい高貴な笑み、あんたできるじゃない、その皮肉の言いあいも、言葉がとても綺麗なせいで、私達には真似できないほど恐ろしい芸だわ、それを嬉々とするあんたって何者?。


それよりも父だわ、もう、このまま食べないでお酒ばかりじゃ、体に悪いじゃない。


私は少しずつ、タイミングを見て父の口に食べさせやすいものをせっせと運んだ。


そして・・・・・・、今に至る。


私の目の前に体を伸ばしてそれさえも優雅にみえてしまう、がばっと口を開けるおバカが一人。


その喉元に食事用ナイフをつきつける父。


そして、冒頭の静かな静かな会話の一切なくなった食事風景にもどる。


私は面倒が一番嫌い。


このまま二人とも引く気配がない。


父を目で押さえ、この馬鹿に適当に果物をそれも、わざと手づかみで大きめにきられたそれをわざわざ選び、その口にぽん、と放り込んでやろうとしたら、更に首を伸ばし、何気に自分の背が高いの、足が長いの自慢してないか?


そう、更に首を伸ばすと、私の指ごと、指にある方を狙って、舌で指を舐めとりながら果物をかじっていった。


それからの騒ぎは、もはやひどいものだったとしかいえない。


うん、久しぶりにウネウネ見たよ・・・。





ギランから旅にいくと聞かされたジェイムスは、すぐさまハジムを呼び、退位と同時に飛び出せるよう準備していたそれらを急ぎ用意させ、唖然、茫然と珍しく固まったルークに退位行事の全てを丸投げし、それを阻止しようとするナンの部隊を蹴散らかし、位を譲る予定の先代の子供かも、と強引に連れてきた気の弱い、けれど強欲な男のもとに赴き、急に体の不調がでたゆえ、かねてからの静養を早めにすると、どこが不調かというほどの勢いのまま、そのままラージスを飛び出した。


ギランがきてから飛び出すまで、この間2時間。


稀代の帝王は、まるで風のように消えた。


怒りのあまり、ひどく目のすわったルークを残して。











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