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心の花  作者: そら
第5章
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第5章 第4話

はい、続きです。

ハリウスの街は、表だっては何事もないように活気に満ち溢れていた。


ただ、誰もがこの街の中心にあるこの街一番の宿ホウランの方を意識していた。


この4日、そこには、あのニルガ傭兵団の、それも団長の一行が逗留している事は、瞬く間にこの街に広まった。


まるでそこだけ切り取られたかのように、異質な静けさの中にたたずんでいた。




「お父様、ねえ、ほら大丈夫よ。暖かいものもちゃんと飲めるし、もう沁みないわ。」


父はこちらを見ても、リーナの頭を撫でるだけで、また手元の書類に目を向ける。


それを見て、父の書類を見る顔の前に、むっとしたリーナは横にかしいでそれを見えないようにし、父の前に、自分の舌を見せ、もう切れた舌がちょっと赤いくらいになっているのを見せた。


グレンはふっと目元を和らげると、書類を脇に寄せ、リーナを抱えた。


それにリーナはまた父に舌を見せ、話をしようとしたが、父が目で舌をもっとと催促したので、父によく見えるよう舌をひらめかせた。


その舌の噛み後の部分をグレンは顔を寄せ、まだ赤みがとれてないのを確認し、その部分をおのれの舌でそっと舐めた。


さらに舐めつづけようとするので、リーナは、恥ずかしくて手で押さえた。


ところが父はその掌も舐め始めるので、リーナは、ま近かにある父の目を見て、そのそそのかすようなその笑んだ目を見て、しょがないなあ、とあきらめた。


スイッチの入った父を止められるのは、スイッチを入れてしまうリーナだけなのだが、そういう時の父の蕩けるような愛情は、リーナにとっても、幼い時からの大好物なのだから仕方がない。


父の膝に抱かれ、どろどろに甘やかされていると、ジュールがリーナの足元に座り込み、こちらも甘えるようにリーナのひざに抱きついてきた。


反対側にはやはりチルニーがもたれかかり、何やら書物を読みはじめ、どこかまったりとした、その癖濃厚な気配をまとい、まるで一つの置物のように優しい時間が過ぎていった。


ところが一瞬でグレンの体に力が入り、きつく外に目をやる。


それと同時に、その素晴らしい時間は、窓の外からの突然の騒がしい悲鳴や喧噪に破られた。


めったにない至福の時間を邪魔されて、グレンたちや珍しくリーナでさえ、不機嫌さを隠さず窓の外に目をやる。


その耳に入るのは大勢の馬たちのひずめの音と、聞き間違えでなければ、聞き間違えでありたいとせつに願うが・・・、出立したのは一緒でも途中いつのまにやら、どこかに消えたギランの大声が響き渡ってきていた。


「リーナあ~、リーナ~。どっこ~!どこにいるのお~!」


と繰り返し、答えがないと知るや、どうやら周りのハリウスの人間を脅しつけている声が聞こえた。


「俺のリーナ隠してる?ねえ隠してるわけえ~?ねえ?聞いてんだけど!」


その理不尽な問いかけに、ギランの殺気を浴びた普通の人間はたまらないだろうと思いつつも、何故か皆で目を合わせた。


そう、ギランだけなら、いつもの事だ。


だが続々続く馬のいななきや足踏みの音・・・。


それは窓の外に、それだけの人馬が集結している事をあらわす。


「・・・お父様、護衛の傭兵の数をお増やしに?」


そう、ありえない事は知っていても、父たちがいて、えりすぐりの護衛数名がいるのだ。


父グレンを見ると、ひどく冷たく見すえたまま窓をみていた。


ゆっくり、今までにないくらいゆっくりリーナを抱き上げ、窓辺に歩み寄る。


父の腕の中で、窓辺から見下ろす宿場町の道と言う道は、人馬があふれかえんばかりになっていた。


野生のカンですぐさまギランがこちらに顔を向け、ニパッと笑うと、


「リーナ~、みっけ。いたねえ~、やっぱここだったあ。」


そう言ってブンブン手を振る。


リーナはそんなおバカを無視して、そのすぐ傍に控えた数年ぶりにまみえる、あの迷惑主従に目をやり、その豪奢な甲冑やマントから、数百どころではない数の人馬に乗る人間のきらきらしいそれにも、ラージス帝国の紋章はなく、変わりにニルガ傭兵団の旗印である黒竜に赤の紋章が縁どられているのを見つめた。


「お父様、ニルガの紋章をおのれにつける愚か者を初めて見ましたわ。」


「お父様は見たことあって?」


そう聞いた。


「じいさまの時代に、タペストリーはかかっていたな、まさか、みるとはな。」


そう答え、自分が殺せなかったあの主従をにらみつけた。


ハジムはそれを知らぬふりをし、リーナに向かって頭を下げた。


それをみた兵達も一斉にこちらに頭を下げる。


それにジェイムスが馬を一歩こちらにすすめ、グレンの視線を真っ向から受けて、ふてぶてしく微笑む。


それを見ながらリーナはまた、父に問う。


「確か我らニルガは傭兵、その場その場で仕えるものも代わる、それゆえに無紋だ、とそう認識していました、唯一旗印を除いては。」


「間違いない。」


父は外をみつめたまま、答えた。


「あれはニルガのありようをかえる、との意思表示でしょうか?それとも、やはり、ただの馬鹿?」


そう言うリーナにグレンが答えようとした時、


「ボ~ス~!リーナ~!ほらみて!みて~!」


そう言って後ろを指さし、自分の背後に最早いない主従に気が付き、指し示す指を前にかえ、


「呼んできちゃったあ~。」


とほめてほめてとアピールするギランを、珍しくリーナより先に父がため息をついてみせた。

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