第5章 第2話
また、例によって時間オーバーで投稿できなかった私。
幻の第2話は昨夜の就寝と共に消えました。
気を取り直して、第2話です。
何やら気配が濃厚に・・・。
リーナ達は馬車と馬とで、とりあえず昼までには出立できた。
案の定何も用意せず、荷物のかけらも見えないギランは別として。
夜のとばりをむかえる頃、街道の宿場町ハリウスに到着した。
ここハリウスはケルパスの王都や主要な街にいくには、ちょうど良い位置にあり、年中にぎわっている。
宿場の入口には、宿の客引きが大勢群がっており、警備の人間達も心得ているようで、グループ毎に通している。
リーナの一行は、先導する馬に乗る男達も、たいそう立派で見応えがあり続く三台の馬車、とりわけ二台目の馬車は、このようなにぎわいを見せるハリウスでも見たこともないくらい大層な馬車だとわかるものだった。
客引きも目の色を変え、我先にと殺到するが、馬に乗る男達が馬車を守るよう展開し、その威圧で、皆目を見合わせ、どうしたらいいかお互い伺いあっていた。
そこへ一台目の馬車から、いかにも貴族様といった風体の理知的な怜悧な印象を持つ男が出てきて、
「部屋毎に風呂がある部屋を五つだ。ただし一つは、最上の部屋でなければならぬ。その条件に合う宿はどこだ?」
そう男達を見た。
部屋に風呂がつく宿は限られており、二人の男が近づいてきた。
チルニーは男達の説明を聞き、男達に待つよう言った。
チルニーは二台目にいるグレン親娘の馬車に赴き、どちらにするかを聞いた。
グレンは、同じような宿なら、思い切り朝陽のさす部屋に、と希望を伝え、その日泊まる宿が決まった。
リーナは宿へ向かう途中、グレンに思い切り抱きつき、その膝に乗り上げると父の胸に思い切り顔を埋めた。
昔、あの辺境の村で過ごした日々、森の木で背の高さを測りながら、村の小川で遊びながら、よくみんなとおしゃべりしていたあの日々。
そういう時に決まって、誰かが、
「あ~旅に出たいなあ」と言いだし、それに、
「無理無理、きっと王都にだってさえいけやしないわよ。」
と現実的な子が答え、それを聞いてリーダー挌のアンナが、
「馬鹿ね、無理なんかじゃないわ。きっといこうと思えばいけるわ!」
と断言する。
いつものそれを聞くとみんなでクスクス笑い、そこからどんな旅がしたいかだの、一気に話が女の子らしく盛り上がっていく。
あの村のいろいろな場所で繰り返されたその話は、いきたい所はころころ変わっていったものの、決して変わらなかった事が一つだけあった、それは、
「絶対、素敵な部屋でね、朝のめざめは、信じられないくらいの、荘厳な朝陽でめざめるの!朝陽よ、朝陽!朝陽じゃなきゃあダメ!」
「「きゃあ、素敵!!」」
そんな感じで繰り返されるそれは、山のすぐそばの村ゆえ、早い時間の朝陽には無縁だった自分たちのささやかな願いの一つだった。
父に再開した時、部屋にやっと二人だけになったあの時、あのろうそくの夜を経て、泣くことなど許されぬと心をぎゅうぎゅうと縛り付けていた私に父は言った。
「あれらは二度目の人生を、はじめて自分の意志と自由で生きた。自分が歩き食べ仕事をし、笑い、泣き、全てはおのれ自身に生まれ、おのれ自身に帰したものだ。わかるかい?」
「さあ、さあ、可愛いリーナ、愛しいリーナ。今、受け止めるべきはせん無い事だよ。それはお前の生きる中での糧の一つであって、枷になってはいけないことだよ。それより父さまにお前を抱かせておくれ。」
そう言って抱きしめられた時、私は初めてわあわあ泣いた。
その時、父さまに泣きながらわめいた事の一つが、
「一緒に旅に出るの、出ようって・・・。それで朝陽がこれでもかってさす部屋に泊まるの。」
そう言った気がする。
後にも先にも、あの村での話をしたのは、あの時だけだ。
宿の注文で、それをちゃんと覚えていてくれた父さまに、いえ、お父様に、思わず甘えてしまったのは仕方がない事だと思う。
朝陽のさす部屋・・・。
遠い辺境を、バンナの村を思い、そういえば、あの祭りの季節がもうすぐ来ると思いをはせた。
馬車の窓から、あのゾワンの花のかすかな香りが、あのくらくらするほどの強い香りではないにせよ、それが匂ったような気がして、リーナは父の胸から顔をあげ窓をじっとみつめた。
もちろん、こんなところで、あの香りがするわけはないのだけれど。
グレンは最愛の娘が甘えた顔から、この年頃の子には持ちえない壮絶な覇気を宿し、その凛とした目をどこか遠くへと向けるのを、思わず自分の娘とはいえ、その美しさに、そのたたずまいの美麗さに、ため息と共に湧き上がる誇りに胸を熱くして、もう一度自分の胸に抱きしめ直し優しくその髪にキスの雨を降らせた。