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心の花  作者: そら
第5章
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第5章 第1話

これで最終章になる感じです。


「用意はできたか?」


父グレンの言葉にリーナは、周りにいるペットズを見渡した。


ギランは、一本にお下げにした髪を嬉しそうに触りながら、グレンの傍に行き、背中を見せて、どうよ!とばかりに、グレンを見た。


「さすが、リーナだ、とても綺麗に結わえている。」


そう言ってリーナの肩を抱く。


「ん、俺、この髪誰にも触らせないよお。ふふふ、俺だけの髪型だからねえ。触った奴も真似した奴ももコロスから!」


もはや、男盛りの入口に差し掛かり、見た目だけは極上の、それも傭兵団で数百の自分の隊を率いるニルガ最悪最凶危険人物とは相変わらず見えないダルダルぶりのギランだった。


それに邪魔だとばかりに、チルニーが蹴飛ばそうとして、ギランが軽やかにかわしたそこに、ジュールが両手をあげ、自分のせいではありません、とばかりに目はすまなそうにギランをみつつも、その片足はしっかり飛びのいてきたギランの脇腹にしっかり入っていた。


うっ、といい脇腹をおさえつつギランは、


「ねえ、うさちゃん、お前ねえ、年々凶暴うさちゃんになってなあい?俺ってば育て方間違えたあ?」


そう言って、ごめんなさい、僕は何もしていません的な攻撃を仕掛けるジュールに、ギランはその頭を撫でつつ、


「めっ!そろそろきびし~躾しちゃうからね!」


そう言って既にその細身のナイフで、その自分を蹴った足の太ももを軽く刺していた。


けれどジュールといえば、平然と先ほどの表情を一変させ、艶やかに笑っていた。


ジュールの身に流れる王家の血は、爛熟させ腐敗させれば、このような人間をつくるのかと、同じ傭兵団の人間達とは一線を画した独特の雰囲気を持つ青年へと鮮やかな変貌を遂げていた。


傭兵団内ではチルニー同様ギランの部隊に属しているが、チルニーとジュールを皆もギラン同様取扱い注意の仲間にひとくくりしていた。


舐めてかかった奴らは、悉く返り討ちにあい、その上、自分の世話する雛たちと未だ豪語するギランによって、更なるとばっちりが、その周囲に及んだからである。


「もう、仲良くじゃれてないで、あんた達、大丈夫でしょうね?当分ここに帰るつもりはないんだからね!」


腰に手をあて、3人をみやり、次に父をすまなそうに見たリーナは、


「お父様、お待たせしました。すぐさま出立ですか?」


そう優しく肩を抱える父に寄り添う。


この新しい拠点となった街は、ケルパス国に実質属していたハンブルという大きな街で広大な草原と山脈に囲まれ、旅の途中の中継を担っていた街だった。


長期病気療養中であると通し続けたジェイムス三世主従の帰国に合わせて、ケルダス王家使節団の一行とそれらの護衛という形で、ナンの部隊とルークの部隊がつき従ったのだが、彼らを抜きにしても、この街は瞬く間にニルガ傭兵団の拠点と化し、ケルパス国としては、触らぬ神に祟りなし、という状態になっていた。


あれから既に3年近くが立ち、リーナはしなやかに強かにあでやかに育っていた。


17という、まだまだ普通であれば少女という年頃を、彼女はいっそ見事なほど飛ばして、ニルガ傭兵団次期リーダーとして、ここに立っていた。


規律を乱すもの、抵抗するものを、自らの手で処断もしてきた。


そのいつもは毅然としたリーナが、ここまで慌てているのは、どうやらラージス帝国内であのエロおやじの退位が滞りなく行われるという情報が今朝方、この街にも届いたからだ。


絶対、絶対無理!帰国後、すぐリーナあてに届いた贈り物の中に手紙があり、律儀にもあけたリーナは、そう、私の純真さを帰せって感じだわ!と、思い出しても怒りで手が震えるくらいだ。


何故あけちゃったんだろう?私・・・、あの時の私に言ってあげたい、その手紙は見るのもいけない危険なものだと。


あの腐れ帝王は、それは筆舌に尽くしがたい手紙をよこした。


最早私以外抱く気もないので、からまずはじまり、これはまあ、これくらいは私だって大目にみたかもしれない。


けれどその後、延々と私を思って〇〇してますだの、会ったならば〇〇したいと、それはそれは具体的なそれを書き綴ったもので、まだ誰とも肌を合わせる事を考えることもしなかった私を、思考停止にする手紙だった。


それは正式なラージス帝王の刻印を封した手紙で、まだ素直だった純真な自分は、使者の手前最後まで目を通してしまった。


もちろん、それ以降はきちんと使者と会うのは避けて、今日まで来た。


途中、私と会えない場合は、帰国後その使者は処刑されると聞いたけど、私は最初の失敗以外、二月に一度の割合で届けられる贈り物は手にしても、その手紙は決して受け取らなかった。


帝王の封がなされた手紙を受け取らないのは、何たることか!とラージス帝国内部では声高に非難する声が当然あがったが、ジェイムス三世の無理強いはせぬ、との声と非難した者の一族郎党、幼な子にいたるまで、後日難癖をつけられて処刑されたのを見て、誰も何も言わなくなった。


失礼しちゃうのは、賢帝との名君との声が高かったジェイムス三世が、ケルダス王国での長の療養のあと、帰国後後宮の廃止や、人が変わったかのような暴君ぶりに、私に溺れたせいだと忠臣たちが泣いているとの噂を聞いた事だ。


まったく、あのエロおやじとあの古狐が、かぶってる化けの皮を1、2枚はがしただけじゃない!


まだまだある、あの皮外すまで、あの主従人生終わりそうなくらいあるのに、なんで私のせいなの、ふざけるな!だわ。


何度目かの使者の時、数人いる使者団の一人が、一人の若い女を指し、


「彼女はある貴族に数か月後には嫁ぐことが決まった身でございます。お慈悲を持って、この手紙を、中を見ずともよいのです、本来ならそのような事言った時点で不忠の極み、私は覚悟の上です。」


「どうぞリーナ・ウェンデル様にこの手紙を受け取っていただけませんか?」


そう言って自分の礼装の上着をあけてみせ、既に自ら刺した刃をさらけだした使節団代表がいた。


最後意識が薄れるまで、どうぞ、どうぞと懇願する男は文官の中堅どころの役職で身分が低いため、それ以上の出世は見込めなかったが、人望厚い男だったらしく、リーナがいつものように無視して返したため、その傾国の悪女という噂に拍車をかけた。


それこそ、ふ・ざ・け・る・な!だわ。


手紙を渡せなかった使者たちが、母国へかえったら処刑されるのなんて、私がやってるんじゃないじゃない。


あんたたちの帝王様がやってる事よ。


なぜ私がそれに合わせて、いや~な変態エロおやじの手紙またみなきゃいけないわけ?


ない、ない、絶対ないわ!


あんたたちが嫌なら、ちゃんと嫌だと言いなさいよね!ま、結局殺されるのは一緒でもね。


人望厚き人ね、盲目的な馬鹿は嫌いだわ。


肝心の事見て考えてないじゃない。


ほんと、何人も、そしてどんな人間が殺されるっていってもね、私の守るべき人間じゃないのは確かよね。


あ~、いけない、いけない。


つい現実逃避に走っちゃうわ。


うん、動くに早いは越したことはないわ。


とっとと退位の話を聞いた今、父さま、あ、いけない、もう小さな子供じゃないんだから、お父様よ、お父様。


お父様たちと、いわゆる戦略的撤退をすることにしたの。


あのウネウネ主従が開き直ってニルガに来るのよ。


あの二人が来るのは認められてるんだから仕方ないけど、何も私も大人しくニルガにいるなんて約束してないわ。


馬車の旅は楽しそうだわ、とリーナは傍らの父をみて、本当にペットズの準備終わってるんでしょうね?と疑わしくギランを見つめた。

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