第4章 第15話
そろそろ、この章も終わる気配です。
いつも遊びに来て下さる方、ありがとうございます。
グレンは、ここの所、何やらイライラしている娘リーナを、ルークの報告を聞きながら、じっと見ていた。
ルークは、それを見て、やれやれだ、という風に肩をすくめ、それでも自分の報告は、その耳にしっかり入っている事を知っているので、しっかりと最後まで報告した。
リーナを昏い目で見つめつつ、
「やはりそろそろ、ここを出る頃合いだな。」と言って、一度目をつぶった。
「はい。ナンの部隊に命令を発令します。」
そう言って、すぐ傍にいる自分の部下に、言付けの幾つかを託し、急ぎそれを各隊にも伝えるよう言った。
ルークはそのまま留まり、グレンに軽い酒を渡し、自分もそれに口をつけた。
「ジュール王には、何かありますか?」
そう聞くと、グレンは、そのままグラスに口をつけながら、
「あれはあれで、なかなか使える。馬鹿な王族にしとくには、少し惜しいな。」
「ええ、生粋の我らに混じっても見劣りしなくなりつつあります。」
グレンは、ルークのそのほめ言葉に、珍しく口角を上げニヤッとした。
「お前、それは褒めているうちに入らないぞ。」
「ふふっ、それだけ悪辣さも程よく身に着けたと、褒めているんですよ。」
「何より、リーナ様の良いペットぶりじゃあないですか?・・・たっぷりこの国から稼いで、それは綺麗に貢いでくれてますから。」
「気が付けば、この国には何も残らなくなりますよ。早晩には。」
「資産も、我らまかせにしたせいで、武力もね。」
そう言って自分のグラスに新たに今度は強い酒をつぎ、グレンにどうしますか?と目で問う。
おかわりのグラスを差し出すのを見て、グレンにも新しく酒を注いだ。
「ジュール王の代わりを虎視眈々と狙う、あの馬鹿従兄弟、あの男に、このはりぼてになりつつあるこの国をくれてやれ。」
「誰の目から見ても、つつがない善譲にみえるようにな。」
「それと、むこう1、2年くらいはやっていけるような体制を整えろとナンに言え。」
「決して、このはりぼてになりつつある国のありようを悟らせるな。」
そう言うと、次にルークが言おうとした報告を遮った。
ルークはそれを、その態度を面白いように笑うと、
「あなたも本当に我々と同じ人間なんだと安心しましたよ。」
「けれど、いい加減にしないと、あの男相手では、足元をすくわれますよ。」
そう言って、ラージスに関する話のことごとくを拒絶する、おのが全てをかけて、付き従うグレンをきつくにらみすえた。
自分をにらむルークをみて、それ以上にきつく冷たくその視線を返すと、ルークはおどけて両手をあげた。
ただ、そのグレンをにらむ視線は負けず冷たく激しいものだったが。
ルークは、
「あの馬鹿が、あそこに入り浸っているようですよ。あれで本能に忠実で、なおかつリーナ様大事な奴ですからね。」
「あなたもおわかりのはずです。奴は何とかあなたの手からリーナ様を守ろうとして必死なんですよ。至上最強なあなたの手から、必死に守ろうとしている。」
「私もあれのけなげさぶりに影響されたのかな?あなたに余計な話をしてしまいます、年甲斐もなくね。」
「どうぞ、あなたがあなたを制御できなくなったら、最初に私に教えてください。」
「なあに、共倒れまでもいかないことは百も承知ですけど、足止めにはなれると、私があなたの足止めくらいにはなれるよう頑張りますから。」
ルークは無表情のグレンをしっかりと見据え、
「まかせて下さい、あなたを昔も今も私は一人にはさせませんから。」
「きっちりこの命使ってみせます。」
そう言って心からグレンに笑いかけた。
グレンは暖かいそこで、いつの間にか昼寝をしてしまったリーナを再びみた。
さきほどまでの昏さを払拭して。
「頼む。」
そうリーナを見ながら、一言言った。
少しだけ肩の力を抜いて、久しぶりの酒を、自分から愚かな自分を出さぬよう食べることも、飲むことも制限していたのだけれど、ルークの、今はいないギランの顔を思い浮かべ、少しだけ力を抜いて、その酒をあじわった。