第4章 第14話
続いてます。
リーナは何がおきているのか、わからなかった。
自分の唇に触れるそれが、父のような優しいものではなく、ペットたちのように暖かいものでもない。
ただただ熱く熱く全てを食い尽くすような激しい口づけだった。
その癖「愛してる」と繰り返しこぼす、その言葉はあまりにもその落とす口づけとは違って、静かで悲しいほどの響きを持ってささやくのだった。
リーナは、このラージス帝王ジェイムスに対して、面倒な男だとしか認識を持っていなかった。
それが、自分を覆い尽くす触手でさえも、こんなにやさしく悲しいのは何でなんだろう?
そう思いつつ長く繰り返される口づけに、息が続かなくなってきて、思わず、コテンとその胸にすがる形になってしまった。
ジェイムスはそんなリーナを更にその身で覆い尽くすと、
「どうか、どうか私を拒まないでください。」と少し震える声を出して、リーナの頬に自分の頬をくっつけては、また愛の言葉を何度も繰り返すのだった。
思わずその力のぬけかけたリーナであったが、その力をふいに抜こうとして、突然、あのバンナ村の家々のろうそくが頭の中に浮かびあがり、あのアンナたちの笑顔が声が聞こえてきた。
瞬間、リーナは、自分に頬を寄せるジェイムスの無防備にさらされる首筋をみて、ためらいなく、その首筋に噛みついた。
ぎりっと噛んだそれは、やがてぷつりと切れて、血がしたたり落ちてきた。
ジェイムスは目を下に向け、おのれの首筋に噛みつくリーナをその目に写した。
あまりの愛しさにうっとりとし、自分の首筋を噛むその唇が、流れる自分の血で染まるのを見て、天井にも上る心地とは、この事を言うのかと恍惚とした。
そのままおのが触手に包みその顔をその力で首筋から引きはがし、更に首筋が傷つくのをかまいもせずに、そのまま再び唇をむさぼるかのように味わう。
一度ゆっくりと全身を触手とおのが手で触れる。
そして、リーナの耳元に囁いた。
「あなたの全ては私のもの、そして私もまた、あなたのものです。」と。
リーナは、私をにらみつけ、そのまま怒りにまかせて部屋を出て行った。
挨拶するハジムの足をダンっと踏みつけて。
ハジムは足の痛みに目を笑みの形にすると、慇懃に礼をし、リーナを見送った。
そして、ソファーにもたれて、気だるげに座るおのが主をみつめて、腕を組んで上から見下ろした。
「なぜ、お逃がしになられたのですか!このままご自分のものになされればよいものを!」
とジェイムスをにらみつけた。
ジェイムスは、そのまま自分の顔を天井に向け、その腕を上に伸ばしながらハジムを見た。
「私がリーナを逃がすと思うか?あれの全ては私のものだ。誰ともわけあうことはない。」
「私はその身も心もたとえ本人だとしても、分け与える気はない!」
「少しずつ少しずつ、私で浸食してやる。ただ一度の激情で、上辺だけ私で塗り替えるのなど許すはずがなかろう?」
「今日は私の感触をその体で味わってもらっただけだ。ふふっ、可愛いリーナは、嫌でも私のこの感触を忘れることはできないよ。」
「少しずつ、すこ~しずつだ。」
「ああ、可哀そうなリーナ、こんな狂った男の本気をしっかり、その身に味わってもらうよ。」
そう言ってこちらを見た主の目をみて、珍しくハジムもその身を震わせた。
しかし一度目をつぶると、
「さすがわが主でございます。」
とそばに寄り手を取り、立ち上がらせた。
立ち上がったジェイムスが珍しく自分の肩に頭をつけて甘えるのに、その噛まれた首筋に自分のハンカチをあて、しばしじっとしていた。
そこにドーンというドアを思い切り開ける音が聞こえた。
二人ドアに目を向けると、更なる衝撃に、とうとう内側に傾き倒れるドアが見えた。
派手な音をたてて倒れるドアには、あのギランが引っ付いて、一緒に倒れこむのが見えた。
主従は急いでテラスに向かい、
「陛下、陛下にあられては、そのようにお急がれなすのは、あまりに下品!どうぞごゆっくりと歩みなされるのがよろしかろうと存じますが。」
そういった。
それに対して、
「主に付き従うのは臣下のありようではあるが、それも状況による。一度立ち止まり、臣としてのありようを、あっぱれ我に見せてみよ!」
そう、ジェイムスが答えた。
そこに、ギランの
「ね~ギーちゃん出して~、ルーちゃんでもいいからさあ、何二人で鬼ごっこしようってゆーのさ!
それってずるいよねえ、必然的に、俺おにじゃん。」
「よし、俺ってば負けないもんね!強い子だからさあ。数えるよお、いぃちぃ~、にい~・・・」
その声を聞いた主従はお互い目を合わせ、わき目もふらず駆け出した。