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心の花  作者: そら
第4章
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第4章 第12話

今日2度目の更新です。

「ねえ、ばっかじゃないの、何で私が遊びに行かなきゃならないわけ?」


リーナは、顔を上に向け、腰に手をあてて、自分よりはるかに背の高いギランをにらんだ。


傍には珍しく父もいない。


父とルーク、それにナンなどの幹部たちは、ケルダスの会議にオブザーバーとして今の時間は会議に出ていた。


新生ケルダス軍についての話らしいが、部隊長以上が、その会議に出席するようにニルガ傭兵団の副長のルークの通達があったはずなのに、何故か隊長であるギランがここにいた。


その代り私の護衛につくはずのチルニー先生がいないので、どうやらギランは自分の代わりにチルニー先生を人身御供に出したらしい。


ルークの後でおこる様子が目に浮かぶ。


別段、父達もチルニー先生が出た方がスムーズに会議は進むだろうし、ケルダス会議のメンバーは、反対にほっと胸を下ろしているだろうと思う。


だけど、だからって、


「何で私があんたと、あの古狐コンビの所に遊びにいかなきゃならないわけ?」


「ないわ、絶対ない!私は今日ゆっくりノビノビ過ごす予定なの。」


「この所の異常なほどの父さまの過保護ぶり知ってるでしょ?やっと落ち着いて自分の時間をとるのよ!」


「どれだけぶりか、ギランだって知ってんじゃない!」


「絶対、絶対い・や・よ!」


そうギランをにらみつける。


それなのに、ギランは、


「知ってるよお~、ほんと。」


「だからあ、いくんじゃん、リーナほらいこ!」


そう言って私をひょいと肩にかつぎあげると、駆け出した。


あまりの事に、こんなの、こんな扱い初めてで、私は声を上げようとして、思わず上下に揺さぶられるせいで舌を噛んでしまった。


「つっ・・・。」


涙目になっているのがわかるけど、あまりに揺れるので最後は必死にギランにつかまって目をつぶってしまった。


あんたなんか、あんたなんか~、エサ抜きよ!私はきつく目をつぶったまんま、覚えておきなさいよ~、と心で叫んでいた。






本来はこのケルダス王家の皇太子の部屋であるここは、上品な造りと程よい贅沢さがそれに加味されていて、ジェイムスは新しく移ったこの部屋が気に入っていた。


ハジムも、


「まあまあ、これを作った初代をほめてあげてもいいですね、ただしあの初代は正妃の尻に敷かれて、その実家にも頭があがらず、結局こういう造りもので自身を慰めていた、とんだへ垂れであったようですがね。」


「なぜ、そんなめんどくさい女を生かしておいたのか、まったく理解できませんね。」


そう言って、新しいフレーバーのお茶のブレンドに機嫌よくいそしんでいた。


ジェイムスも、ゆったりと書状をしたため落ち着いた充実した時間をまったりと楽しんでいた。


あのギルとの共生も2か月たった今は問題なく過ごせていた。


そこに、外が何やら騒がしくなり、主従は思わず顔を見合わせ、お互いうなずくと、さっと立ち上がり、二人してテラスにある王家専用の庭へ逃げ出す算段をした。


さすが、この敵なしといえるラージス帝国帝王とその側近でさえ、逃げるのが一番だと思える苦手な相手が一人、このケルダスにできた。


いや、とジェイムスは考えた、あれは人外と呼ばれる自分やあの男さえ超える、ある意味最強の生物だと。


急いでテラスに足を踏み出した時、バーンと扉が蹴破られる音がした。


ま、またしても・・・。


ここの重厚なドアを何度壊せば気が済むのか、いや、このドアを蹴破ること事態信じられぬ。


またあの善良そうな王室ご用達の家具職人が、ひどく目を血走らせてやってきては、気の毒にも頭をかきむしる事になるだろう。


ハジムに言って、あまりに気の毒なあの職人は我がラージス帝国に連れ帰ろうか、とジェイムスは思った。


これでギルをこの手に移植してから4度目の乱入になる。


なぜ、あのギランという男は、普通にドアを開けられぬのか、いや、それよりも私がラージス帝王である限り、先触れなしに来てはならぬと、許可ないものとは会えぬ、と何度言おうと、理解できぬらしい。


何度ハジムがその手に剣を握り、


「なあに、頭でわからぬというなら、その体にわからせるだけです!」


と言って目をすわらせてやりあったのかわからない。


けれど、たちの悪い事に、あのギランの剣の腕は流石で、ラージス帝国でも私の次にくるハジムの本気の攻撃を、互角で受け流す。


とうとう我らは部屋を3つほど取り替えた後に悟った。


世の中には逆らわぬ方が良い、言葉の通じぬ生き物がいると。


ハジムと二人テラスに出て、今回は綺麗に逃げ出せた、と二人にんまりとしていたら、目の隅に、やはりあのギランが部屋に乱入するのが見えた。


私が急に立ち止まるのを見て、ハジムがこちらを怪訝に見た。


私は全てを頭から追い出し、ギランの肩に荷物のように掲げられぐったりしているリーナ嬢を目にした。


その瞬間、自分の目がすわるのがわかった。


ゆったりとテラスから部屋に戻ると一言ギランに言った。


「・・・何をしている。」


すぐさま部屋にかかる剣を片手に取り、やはり最高の義肢となった指の代わりの5本の鋭い剣で、初めてこの形になっての本気の攻撃をした。


ギランは、


「のあっ、おっと、ちょー危ないってえ~、ちょいまちってばあ~。それ反則~。」


そう言ってリーナを担いでいるとは思えぬ身軽さで飛び退った。


「陛下!」


ハジムが叫ぶが私はギランに言った。


「何をしている!苦しんでおられる!すぐさま降ろしてさしあげろ!」と。


ギランは、


「もお、せっかく遊びにきたのに・・・、でも・・・それ楽しそうだね!」


そう目を楽しそうに細め、次いでリーナをそっとソファーに降ろすと、こちらを振り返ったその目は、何も映さない2つ名の血風のギランと言われる男の目になっていた。


すぐさま、いつ手にしたのか両手に大型とそれより小ぶりの刃をかかげ、私に向かってくる。


本気でやる気か!


よかろう、この私も本気で答えよう!


ハジムを目でおさえ、何度もカキーンカキーンと鋭い刃が噛みあう音がする。


さっとお互い刃でぶつかり、またさっと離れた時、ギランがその手にいつの間にか幾本もの釘のような細いナイフを持ちそれを一斉にこちらに鋭く投げつける。


みな目とか喉とかの急所を器用に狙ってくるのを、新しい5本の義肢でそれぞれはじく。


ところが一本ほど軌道をそれ、私の頬をかすっていった。


つっと頬に熱い痛みが襲い、血が流れるのがわかった。


ハジムが私のそれを見て、その感情のままその両肩から細長い繊毛手があふれでてきた。


まずい!まだ私も制御が完全でない。


対のギルにつられて、私の義肢からも繊毛手が這い出てくる。



それらが風もないのに舞い上がり数を増やしてくる。


何とかそれを制御しようとするも、私の深層に影響されるそれは、ギランを無視して、ぐったりとする愛しいリーナにその触手を伸ばし始める。


あせるあまり片手の剣を放り投げ、その手で義肢をおさえる。


けれどおさえる指の隙間から触手はこぼれゆく。


愛しいリーナに向かって。


ハジムはハジムで自らの繊毛手をおさえる気がなく、うっそりと笑いギランに向かっていく。


ギランは私たちのそれをみて、一気に遊びモードに切り替わり、鋭い角度に変化して突き刺そうとするハジムの触手に自ら近寄り目をキラキラさせて言う。


「わあ~今まで何度も見せて~って言ってもダメだったのにい~。見せてくれるなら飴かなんかもってきてあげたのにっ!」


「わあ、俺の手の平ささったよお、ちょー痛いけど、へえ~これって、ぷちょぷちょな癖に、がんばる子なんだねえ。」


そう言っておのれの両手の平に刺さり、さらに太ももにも狙いを定めるそれを見てニコニコしている。


その相変わらずの論点のずれに、ハジムも私もギルを落ち着かせることができた。


ハジムの奴は絶対確信犯だが。


まだうごめくそれらに、


「う~ん、名前何がいいかなあ、ギンちゃんにルーちゃんでどお?」


「ねえ、俺に名前つけさしてくれるよね、ね。どう、ギンちゃんにルーちゃん。いい感じだよね。可愛さ100倍じゃん。」


そう言って自分の手の平に空いた傷口からあふれる血をブンブン振ってギランは、こちらを見てお願いモードに入った。






やっと貧血から回復しつつあるリーナは、ソファーから、おねだりモードのギランを見て、さっきまで何やら危ない感じだったのに、何事もなかったように、この古狐たちにまでおねだりできる自分のペットは、やはりある意味すごいんじゃないかと思った。


しかし、このラージスの主従は、もう古狐コンビじゃなく、うねうねコンビに改名しなきゃね。


自分の方に足元から這いよる繊毛手と、それがつながる片方の腕をだらっと下げたまま、にこやかにほほ笑み歩み寄るジェイムス三世を見て、また父さまが怒るわね、とため息をつくリーナだった。









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