第4章 第10話
少し短い、グレン視点の話です。
グレンは、部屋のテラスから中庭の陽だまりでペット達と何やら遊んでいるリーナを見つめた。
そして同じようにどこかから見ているだろう男の存在もまたその脳裡に浮かべた。
思わずギリギリと胸が痛み、またしても、リーナを閉じ込めておきたい衝動にかられるが、あのひと月のように、部屋にこもった所で、愛しい娘の成長が止まるわけでもなく、ただ自分の悪あがきにしかならないことはわかっていた。
隣にたたずむルークに目をやり、何かいいたい事があるのかと目で促す。
ルークはまた、おわかりでしょう、と目で答えてきた。
そう、あのペットどもなど、いかほどもない。
あの男だ!あれはいつかリーナを自分から奪い去るだろう。
あれは自分同様規格外の男だ。
あの化け物じみた男は決してリーナをあきらめないだろうし、確かにこの自分が見ても、あれほどの男はいないのは確かだ。
けれど、まさかこんなに早くそういう男が現れるとは思っていなかった。
まだまだリーナは子供だ。
いずれリーナにも、そういう男が現れるだろうとはわかっていたが、そこらへんの男にリーナをぎょせるわけがなく、ましてやいくらリーナに懇願されようと、そこらへんの男など、この手で返り討ちにしてやるつもりでいた。
しかし現実にあの男が現れた。
あれはリーナの感情など関係なく、その手に囲い込みリーナを決して離さないだろうとわかった。
自分があの男ならそうする。
全ての邪魔なものを、おのが力で排除し、必ずリーナを手に入れる。
しゃくだが、それだけの力がある男だ。
そもそも、ふざけた事にあの男は本気でこのニルガ傭兵団とぶつかる気がなかった。
まるで何かの気まぐれのような所がかいまみえた。
あの戦いでさえそれなのに、あの男が初めて本気になったのがリーナに向かう愛情だというのは、本気で勘弁して欲しいと、この私がせつに思う。
ああ、早くあの男を殺しておけばよかった。
もし、時間を戻せるなら、あれが腹に宿った瞬間に八つ裂きにしてやるのに!
いっそあの男にとられるくらいなら、この手でリーナを!との昏い激情が湧き上がる。
それを抑えるためにも、リーナを腕に抱き引きこもったというのに、またぞろリーナを殺し、自分もまた命を絶ちたいとの歓喜を伴った欲望が湧き上がる。
ルークは私がその危うい天秤の上で、部屋に引きこもっていたのを知っていた。
ギランはあの部屋で私が暗い欲望に取りつかれるたび、その瞬間にはわかるらしく、そのたびこちらをじっと見ては、その手に隠れるほどのナイフを私に向けてきた。
私にかなうわけがない事を知っていてなお刃を向けるか・・・。
緊張をはらみ、お互い目を合わせるが、ギランの哀しそうな目をみる度、苦笑を浮かべ、何も考えないよう再びリーナを抱きこむ。
それを見てギランもまた遊び始めるのだ。
チルニーはギランの様子をみると、その体でいつでもリーナの盾になろうと身構える。
リーナは良いペットを飼っている。
最近ルークは子離れの良い機会だと私に言うが、お前などの言葉には実がない。
何せこのルークは数度、邪魔だという理由で、おのが女と自分の子を殺している前科がある。
そんなルークに子離れしろなど言われてもな、の話だ。
リーナがこちらを見て手を振る。
それを見て私も微笑む。
微笑みながら、この手で共に死ねたらと甘い夢を見る自分がそこにいた。
そんな自分をやはりギランがじっと見ていたが。