第4章 第6話
パソコンに触れる環境でなかったので、携帯で更新しようと思ったのですが、やはり挫折しました。
携帯投稿の新しく編集までは何とかなっても、はい、例によって後はちんぷんかん。
あきらめて、今日やっとパソコンに向かいました。
これなら書いて更新できます!(えばれませんね。)
リーナは、久々に切れていた。
小さい時に翼狼のコウを、父が処分しようとした時切れて以来だから、たいがい自分は穏やかな性格かもしれない、そう頭に浮かんだが、きれた原因の人間達を前に、今にもとびかかりそうなギランとチルニーを制しつつ、前を向いた。
新王即位と新制ケルダスの祝賀の夜会が、王城の大広間で催されていたが、リーナは面倒なので出席する気もなかったが、主役の一人の新王ジュールが最初に顔だけ出して、リーナの元に引っ込んでしまって、さすがに新らしいケルダスの重臣たちに懇願され、急きょ堅苦しい祝典後の、気軽になったさんざめく夜会の途中に、しぶしぶ正装に着替え出席した。
自然ジュールが引っ付いているせいで自分も面倒な挨拶を何故か受けていたのを、それをみたルークがうまく連れ出してくれて、やっと大広間の隅に避難していた。
さすがルーク、伊達に父さまの副長をしてないわ!
あの馬鹿らしい媚びた集団から、自然な動作で私をすぐ連れ出してくれた。
まあ、誰もルークのあの怖い笑顔には道を譲ってくれるだろう。
そりゃあ、あの「死ぬか?」的な笑顔に逆らえる人なんかいやしないわよね。
ジュールも、ごめんなさいって思わず謝っていたし・・・。
大広間の隅に避難したと同時に本当に野生の生き物じみて、すぐギランがよって来た。
横から腰にぎゅっと抱きついて、私の肩に頭をこすりつけながら、口をとがらせて愚痴をこぼす。
いやいや、ギラン、あなたが口をとがらせても可愛くないし、ほら、傭兵団のみんなは、顔青くして見ないふりしてるよ・・・。
「俺さあ、さっき、うさちゃん、どうしてやろうかって思っちゃったよ。」
「ほんと、俺の嫌いな空間にリーナといっちゃうんだもんさあ。あれはないよねえ。」
「シーガからこの間取り上げられちゃった、小型の爆薬があったら、絶対どっか投げつけてやったのに~。」
「それにルークからはさあ、この夜会にもし出るなら、絶対暗器のたぐいを持ちこんじゃダメって、正式の命令がでてさ、信じられる?め・い・れ・い・だよ。」
「わけわかんないよねえ、ありえないよねえ~。ど~しちゃったんだろねえ?」
とぶつぶつ言うのに、リーナは、それはギランがこの会場で、仮にも身分がある人間ばかり集まるこの場所で、いつものオイタをさせない為じゃないかなあ、と思ったけれど、何も言わなかった。
それでなくても、この国の有力貴族の娘である女官たちをついこの間殺しちゃったばかりだしねえ、あなた達。
それにしても、シーガをほめてやろう、ギランから何か取り上げるなんて至難の業だもの。
めんどうな事は嫌い。
もうちょっといたら急いで帰ろうとリーナは思った。
ジュールもさすがルークの笑顔の下の、ちゃんと仕事をしろ!光線に大人しく挨拶を受けてるしね。
リーナが会場である大広間を見渡していると、
「グレン様ならラージス帝国のハジム殿とあちらに。」
と、目でそちらの方向を促し、チルニーが教えてくれた。
そして、手にはリーナに飲み物を持ってきて渡してくれた。
うん、この気配りはさすがだわ、できれば目の前で毒見と称して、そのグラスに舌をつけてなめまわすのは勘弁だけど。
まあ、それを平気で口をつける私も私なんだけど、こればかりは嫌がっても無駄だとわかったからね。
苦い抵抗の数々を思い浮かべてリーナは苦笑した。
チルニーの言ったそちらを見ると、父とナンがいる所に、ラージス帝国のあの古狐と数人かが父に挨拶しているらしく、何やら父のブリザードを受けてラージス側の人間は目に見えて顔色を青くし固まっていた。
もちろんあの古狐のハジムは、まるでそれを春の穏やかな風であるかのごとく受け流し、穏やかな笑顔で、何事もないかのように父の不機嫌と対峙している。
あのルークをして、あのジェイムス三世とその側近中の側近ハジムは、あんな国に飼い殺しにさせるのには惜しいといわしめた人物だ。
父の本気のブリザードに、びくともしないあの根性は、絶対ろくでもない人間たちである証明なので、ぜひとも私の安寧の為にも、このまま一生ラージス帝国で飼殺されていてほしいとせつに思う。
チルニーの持ってきたのは、とてもおいしいベリーのジュースで、思わず私はそのおいしさに、にっこりとほほ笑んでいた。
それをみて二人もそれは嬉しそうに微笑んでいた。
そんなまったりとした空気を破ったのは、ラージス帝国の人間だった。
「お前が傭兵の娘かえ。」
そう言い近づいてきたのは、ラージス帝国皇太后アリエッタとその皇太后の姪ファリエル姫だった。
この度ケルダス王になったジュールに、このファリエル姫との縁組を取り付けに、皇太后自ら、ケルダス国に乗り込んできていた。
ケルダス側はとても丁重に皇太后及びファリエル姫を扱ってきたが、肝心の話は丁重に断られていた。
このケルダスには身に余る光栄であるが、それに値する何物もない小国ゆえ、お受けする資格もないのだと理由で。
確かにアリエッタは、どう転ぶかわからない、それもこんな小国の王家に、本気でかわいい姪を嫁がせる気はなかった。
息子であるジェイムスに再三再四、このかわいいファリエルを正妃にせよと、何度いっても聞く耳を持たない。
それならと、珍しくジェイムスが気に入ったというケルダスの新王に、それとない良い縁組を持ちかけて、息子であるジェイムスにゆさぶりをかけてみようと思ったまでの話だった。
ところが、物見遊山でケルダスに滞在してみれば、新王ジュールは慇懃無礼に、かわいい姪のファリエル姫を無視し、あろうことか傭兵風情の娘に熱をあげているという噂。
それを聞いた時は、まだまだ新興王家にすぎぬケルダスには、その程度の娘が分相応かもしれぬと、お付きのものと皆で嘲笑ったものだが、遅れてきたラージス帝国帝王である息子のジェイムスもが、その娘に懸想しているとの噂を聞いてしまった。
まして、帝国にいる時でさえ、めったにこの母に顔もみせぬ所か、ファリエル姫にいたっては口も聞く気もないという態度のあの息子がだ。
その上、このケルダスで手ぐすねひいて待ち構えていたのに、忙しいとの理由で挨拶に顔さえ見せに来ぬ。
そんな中、その噂を聞き、皇太后である自分の矜持を曲げてまで、こちらからファリエル姫を伴って、息子ジェイムスに昨日会いに行った。
そばには、乳母の息子で右腕のハジムがいたが、ハジムならとかまわず息子に聞いた。
「何やら奇怪な噂を聞きましてのう。恐れ多くも我が栄光ある帝王が、口にするにも忌まわしい身分の者を懇意にしておるとか。」
「あの未熟な新王をお気にかけるのは、さすがに我が皇帝。なれどそれについている者にまで、お近くをお許しあそばれては、ご威光に傷もつきましょう。」
「ファリエル、さ、さ皇帝に茶でもしんぜては、いかがじゃ。ほんにファリエルは、良い娘じゃ。」
そう話しをした時、息子であるジェイムスが母である皇太后の言葉をさえぎった。
「母君は、ながの滞在にさぞお疲れのご様子。誰か、母君を丁重に部屋までお送りしてさしあげろ。」
そう言って、まだ何か言おうとする母を遮り、退室を促した。
「ああ、それと私はお茶にはひどくうるさいのですよ。私が茶を入れる事を許しているのはハジムのみです。そして、共に茶を楽しみたいと思うのも、母君のおっしゃる噂の方のみです。」
「とても私にとりまして喜ばしい噂をお聞かせいただき、嬉しい限りです。噂とはいえ、共に語られるのは。」
ジェイムスは、今までの貴公子然とした笑みをやめると、背を押されて出されるその母に向かって声をかけた。
「2度目はないとお思いください。」と。
皇太后一行は、新王ジュールの傍で挨拶を共に受ける娘を忌々しげにみていたが、それが大広間の隅にきたのをみてとって、ここできっちりおのが存在の卑小さを思い知らせてやろうと声をかけた。
簡単に背の高い女かと思うような妖艶な雰囲気の美しい男に腰を抱きつかせているそのあられもない姿に、口も聞くのも嫌だったが、仕方がない、我が帝王のためならばと、皇太后である自らが声をかけてやった。
娘がそのままこちらを向くのに、自分の側仕えの者が、
「無礼であろう、娘。こちらにおわすは、ラージス帝国の皇太后であらせられるアンリエッタ様、ならびに先の皇弟の姫君ファリエル姫である。」
「お控えあらせよ。」
そう言った。
リーナはめんどくさいのがきたなあ、と思いながらも、軽く頭をさげ礼を返した。
もちろん、ギランは腰にはりついたままだったが。
それに口々に、何たる不敬!だの、これだから下賤のものはだのと騒ぎ出す皇太后の取り巻き連中に、まいったなあ、と思いつつ、これは早々に退散した方がよさそうだと判断したリーナが、
「申し訳ありません。皆さま方にご不快を与えてしまいまして。」と答えた。
「この通り不調法ものですので、お目汚しになってしまいます。このまま下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」
と聞いた。
それに、
「仕方ありませんわ。礼儀も身に着けてない方には無理ですもの。」
「本当にこのような者たちが、仮にも王城にいるなんて、なんて恐ろしいのでしょう。」
「ジュール様にも、何が王族かをお教えさしあげなければねえ。」
「叔母様がわざわざ下賤なものに、お声をおかけする光栄もわからぬなんて。」
そう言って豪奢な装いの、ファリエナ姫が扇子を片手にリーナをみて目で笑った。
リーナが、これまた面倒なの2号がきた、と思い、早く退散したくて、
「ありがとうございます。」と答え下がろうとすると、
「お待ちなさい!いかに下賤のものとて、きちんと無礼を詫びていくのが筋。お前のようなものに恐れ多くも皇太后陛下がお声をかけて下さったというのに、答え一つまともに返せない、その不調法ぶりをきっちりと詫びなさい。その身分にふさわしく床に頭をつけてね。」
そうファリエル姫がリーナに言うのに、一番年かさにみえる側付きのものが、それに追従して言う。
「ほんに、姫様のおっしゃる通りにございます。これ、お前聞いているのですか!これがラージス帝国内であれば、お前の首など、とうにないものを!」
そうその女が言った時、急に何やら張りつめた雰囲気がその場を覆った。
リーナは、床に頭をつけろと言われた瞬間、自分が久しぶりに怒っているのを感じた。
これが怒りか・・。
ふざけた事を言うものだ!この私に床に頭をつけろと!
私のこの体の一つ一つには、どれだけの命が注がれたのか、どれだけの願いがそそがれたのか!
そんな私が頭を誰かに下げるなんてありえない!認めない!
そう思いリーナが顔をあげた時、私の首をとる、との言葉がたとえ脅しであろうと聞こえた。
その瞬間、リーナは本格的に切れた。
あの父でさえ、あの時切れたリーナにはたじたじだった。
ギランの、チルニーの怒気が膨れ上がり、それに目の前の人間達は目をやり、その恐ろしげな雰囲気に震えた。
それでもここが安全な王宮だとどこか安心しているせいか、ファリエル姫などはこちらを、つんとしてみていたが、切れたリーナが無表情に、感情を一切感じさせない冷えた雰囲気のまま、その後ろの恐ろしすぎる怒気をあらわす男達に命令するのが聞こえた。
「下がりなさい。」たった一言。
そう言ってリーナは二人に、初めて有無を言わさぬ命令を下した。
二人は静かにリーナの左右にさがった。
そしてリーナは改めて目の前の人間達に目をやった。
ゆっくりとドレスのすそを持ち上げ優雅に腰を落とすと、
「確かに、確かに承りました。」
「私はニルガ傭兵団の次期統領のリーナ・ウェンデルと申します。」
そう言って冷えた目で、彼らを見渡し、皇太后に目を止めると、
「この度のニルガ傭兵団に対するラージス帝国の宣戦布告、確かにこのリーナ・ウェンデルお受けいたします。」
そう言って温度を感じさせぬ冷たい笑みで答えた。
それを聞くやいなや、後ろの二人がすかさず大声をあげた。
「ニルガ傭兵団に告ぐ!」
「ニルガ傭兵団に次ぐ!」
ギラン達が大声を上げると、大広間にいる傭兵団は全て直立不動になり、団長であるグレン、副長のルークがこちらにゆったり物騒な笑みを浮かべて歩みよってくるのがみえた。
それに目をやりながら、続けてチルニーが、
「ただ今、本日この時刻を持ってリーナ様の命により、ラージス帝国との宣戦を布告する。」
「これより半日の時間の猶予を持ってラージス帝国側は、ここケルダス王宮より疾く出られるべし!」
ギランがまた続けて目を細めて笑い顔で言う。
その狂った笑いで。
「それ以降の身の安全は保障しないよ~。というか、殺しまくってやるからねえ、待っててね~。以上!」
ギランのまともな口調は最初の一言だけか、と副長のルークが首をふりふりグレンとともに、リーナの傍まで歩み寄ると、くるりと振り返った。
そして、冴え冴えと冷酷といわれる所以の表情で、
「ニルガよ!刃を掲げろ!血を流せ!我らリーナと共に!!」
そう大声で叫ぶと、夜会の為大広間に武器らしい武器を持たずにいたニルガ傭兵団の面々は、その大広間の床に靴を振り上げては落とし、ずん、ずんという低いその音を繰り返しならしはじめた。
その異様な大広間を覆い尽くす重く低い音に、繰り返されるその音にその雰囲気に声がでなかった王太后一行は、何がおきたのか茫然としていたが、人一倍気の強いファリエル姫が叫んだ。
「何、何ですの、これは!こ、これは何の騒ぎですの!」
とわなわなと声を張り上げたが、それに答えたのは静かな怒りを含んだ声だった。
「私もぜひ知りたいですね。」
「あなた方は、よくも・・・」
そう言い、皇太后が見知った顔に安堵し声をあげようとするのに、それを手で制し、
「いえ、あなた方の言葉など聞きたくもありませんので、お話してくださらなくて結構です。」
「リーナがこれほど怒るなど、かわいそうに。」
そう言うと、皇太后一行を見据え、
「我が王宮からは半日どころか、半時で出て行ってください。」
「それを過ぎたら、我がケルダス国に対する宣戦布告と私はみなします。」
ジュールは大広間を振り返り、大声を出した。
「ケルダス国諸兵に告げる。これよりのち、我がケルダスも恩あるニルガ傭兵団にならうよう。ここに
ただ今、我が名を持って宣誓する!」
「な、何と!無礼な!」
「たかが数十年の新興国の分際で我がラージス帝国に仇名すつもりかや!」
そう怒りのあまり震える皇太后に、すかさず後ろから声がかかった。
「間違えて頂いては困ります。」と。
そう言って静かにハジムが主人であるジェイムスを伴って現れた。
ラージス帝国現皇帝ジェイムス三世は、リーナがいないのをみてとると、早々に自室に戻っていたが、リーナが姿をみせたとの報告で、また夜会に姿をみせにきた。
大広間に入ると、すぐリーナを探したが、その傍に母である皇太后の姿をとらえ、眉をしかめた所に、この一連の騒ぎがおきた。
自分が声を出す前にハジムが声を出した。
その声は床を踏み鳴らす靴の音でかきけされるような、あまり大きな声ではなかったが、不思議と通った。
グレンは表情をなくして、その怒りをこらえるリーナの纏うピンとはりつめた鋭い雰囲気と、その濃い紫の瞳が底知れぬ濡れた黒さに変わるのを、うっとりとみていたが、聞こえたハジムの声に手を挙げて、踏み鳴らすその音を止めた。
ずん、ずんと低く響いていた音がやんでも、まだその音が続いているような余韻が残った。
そんな中、二人の主従の往くてを、そこにいるものが道を開けた。
騒ぎの元に赴くと、もう一度ハジムは言った。
「間違えて頂いては困ります。」と。
そしてリーナに向かって静かに頭を下げた。