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心の花  作者: そら
第4章
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第4章 第5話

ほんと、笑っちゃうなあ~、目の前で自分に花を渡す王城の女官をみて、ジュールは、あとの二人をみた。


ギランたちにも、それぞれ取り囲んだ貴族の娘である女官たちがいて、本当に嘲笑ってしまった。


この王宮に国が落ち着くしばらくの間滞在するという契約の元、ニルガ傭兵団の半数が王城に残り、そこには主だったもの達がいた。


なに、支払いはラージス帝国です、といって笑うナンの命令の元、残りの半数は王都の警備にあたっている。


ジュールは形ばかりの戴冠式を終え、その間幽閉されていた皇太子一家は一人残らず粛清された。


もちろん、彼らは自分たちがくる以前に殺されていたと発表したが。


傀儡であった新王族の面々は、ほうほうのていで帰国の途についたが、彼らがケルパスについたとは聞かぬので、ラージス側にでもやられた算段が強い。


そんな中、議会制度を取り入れ合議制へと移行していくケルダスには、闇の中から現在の形にいく全てが明るく希望に満ち溢れているように感じるらしく、国民すべてが、何やら浮き立っていた。


また、このケルダスに移住を望むものも増えてきていた。


本当に愚か者ばかりだ。


足元の闇はその明るさに比例して、もっと昏く深くなっているのに。


まあいい、適当な所で、とれるだけのものをとったら、愚かな幻ごと誰かにこの王冠をくれてやろう。


花を差し出す女官をみながら、王城のそこかしこで、リーナと共に過ごすうち、どうやら自分たちは、誤解されたらしいと考えた。


馬鹿らしい。


チルニー先生には、どうやら実家の男爵家つながりの女官が、まとわりついている。


会話のはしばしに、昔夜会にてお会いしたのがどうとかこうとか言い募っているのが聞こえる。


ギランには、その若さでニルガ傭兵団の幹部だなんて、と自分では可愛いと思っているらしい上目使いで、数人の女官がまとわりついていた。


そして自分には、行儀見習いで女官になり、その取り巻きに仕事をさせてきただろう、どこぞの公爵家の娘が花を手に、今度の新王即位の夜会のパートナーを申し込んできた。


確かに前面に出ぬまだ若い王と、そばにいる二人は、とても優しげで声をかけやすいと思ったのだろうが、それはリーナがいる時限定だ。


ジュールは数を頭で数え始めた。


そろそろか・・・、ほら、きた。


「ねえ~、俺に触るの誰がいいっていったの~?」


そう言って目の前の女達を見る目は、温度を感じさせぬ冷えた声同様のもので、その手には既に小さな刀があり、自分の腕にからみつこうとしていた女の腕を、もうその声より先に切り裂いていた。


チルニーも、自分にからみついていた一番近くの女の髪をきつく引っ張り、自分のそばからはなした。


「いつからここは、商売女の巣窟になっていたのでしょうか?これは一度とことん粛清が必要と思われますが?」


そう言ってジュールを見た。


王城の廊下の一つで上がる女達の泣き許しを請う声に、来るものは誰もいなかった。


通る傭兵の面々も肩をすくめ興味を示さず、王城のもともとの警備兵たちは、ジュールがそこにいる事で不動を貫いていた。


傭兵団のものはそもそも理解していた、自分たちでさえうかつに近づけぬものを、と冷めた視線で馬鹿な女達をみては通り過ぎていく。


あのギラン隊長が大人しくなったなんて、とんでもない。


危険度はルーク副長が初めて皆に警告したくらいだ。


今までは、何かの枷をあれでも自分にはめていたらしく、チルニーとジュールという自分の懐に落ち着いた雛、ギランは彼らを自分の拾った雛と言ってはばからない。


その雛を指さして、ふにゃっと笑い、


「俺ってば、雛を守る親鳥だから、もう優しい自分にサヨナラしたからね!気を付けてね。」と宣言した。


その通り、ギランのかもしだすものは、より一層激しくなり、初めのうちは勘違いした若い傭兵が何人も不用意に近づき、その命を落とした。


今、その廊下にいた8人ほどの女官は、ことごとく本人たちも何がなんだかわからないうちに殺され、ジュールの傍にいる令嬢とその取り巻きはそれをみて動けず腰を抜かしていた。


それをみたジュールはにっこり笑い近づいて、まず令嬢の手を取った。


涙をこぼしながら、ジュールにすがろうとした令嬢は立ち上がらせてくれたジュールに抱きつこうとした所を、そのままジュールに強く押され、刃を振るうギランの前に突き飛ばされた。


「忘れないでくださいね。」


そういって後ろで震える女達に目をやる。


「え~、全部いいのお~、チルチル、うさちゃんからのプレゼント、俺んだからとらないでよお。」


そう言って目の前に突き飛ばされてきた女を綺麗な軌跡を描くその刃で一突きし、そのままひらりとジュールを飛び越え嬉々として刃をふるった。


「だいたいさあ、グレン様、リーナを独り占めするなんて、ずっちーよねえ~。」


眉を情けなく下げて唇をつきだして文句を言いいながら、右に左に舞うように刃を振るう。


「確かに。」


「僕もそう思います。」


二人は壁によりかかり、それをみていた。


「だけど、超グレン様機嫌悪いからさあ~、さすがに俺でも危ないんだよねえ~。」


「お前らなんて、ふ~ってグレン様の息一つのうちに、やられちゃうよお~。」


「「・・・・・。」」


「でももう半日たちましたからね。」


「僕もチルニー先生の考えに賛同します。」


「え~なにそれ、その会話、二人して俺のけもの~、俺超傷つくんだけどぉ~。」


「うん、でも、そーかも。リーナと半日いれば、ご機嫌直ってるよねえ、グレン様!さあ、もどるよっ!」


駆け出すギランの後をおって、二人も急いでその後に続いた。


急ぐギランの背中をみたあと、二人自然とその目をみかわしながら。


生粋の傭兵育ちでない自分たちが今思った事。


それは、あの化け物じみた二人、ジェイムス三世と団長グレンが、共食いで倒れてくれれば、こうやってリーナのもとから追い出されることがなくなるかもという思いだった。


二人はもう一度みつめあった後、今日は一度も会えないリーナの元に急いだ。






慌ただしく3人が去ったその後には、倒れ伏す女官たちと、どうしたらよいかわからぬ警護のものが茫然とたたずんでいた。









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