表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心の花  作者: そら
第4章
47/78

第4章 第1話

4章はじまりました。

驚くほどたくさんの人が読んで下さり嬉しいです。

ありがとうございます。

ルークはラージス帝国の実質の宰相といえるハジム公爵と、3度目の会談を、フォンド湖畔の彼の別邸で、それぞれ数人ずつの護衛を引き連れ行っていた。


ハジム側の護衛は毎度こちらの覇気におびえており、使い物にならない。


けれど、このハジムという男はあえて、それをおもしろがっている節があり、一癖どころか、この男を見ているだけで、もう腹いっぱいになるという性質の悪さだ。


あえて団長であるグレンとリーナ命のペット3馬鹿は、隔離している。


もう手をつけられないほどの状態で、ナンの部隊が命がけで、彼らを隔離している。


本当に自分は損だとルークは思う。


自分だってはらわたどころか、体を素手で引き裂いて裏返しにしてやりたいと思う、本気でだ。


けれど、彼らが先に狂ってしまうので、かろうじて怒りをおさえ、自分とナンでこの2週間、ラージス帝国側と停戦の話し合いをこうして行っている。


リーナを獲られた段階で、こちらはお手上げだ。


レジスタンスは九分九厘こちらに有利に転がる状態で、いまさら調停など、と反対した。


本当に彼らレジスタンスたちには感謝している。


グレンとペットどもの怒りの最初の矛先になってくれた4日間、彼らがことごとく殺されていくうちに、ナンとハジムの最初の折衝が終わり、話し合いの下準備が終えられた。


そして、何とか最初の爆発を彼らレジスタンスで解消してもらい、あと2週間と期限を切って、彼らを隔離させてもらった。


もうそれだけ、隔離をするだけで傭兵団は疲労困憊で、別の意味で傭兵団の暴走を止めることができた。


そして、今あらかた話は終わり、ケルダスの今後も決められた。


今から戻りグレンと合流後、傭兵団全軍でリーナをラージス帝国とケルダス国境の場所で引き渡しすることが決定した。


リーナを売ったあの女だけは、皆が皆自分の手で殺したいだろうが、今回は我慢してもらうしかない。


ルークは、ぞっとするような目で傍らのナンを見、ナンも同じくうなづき、ハジムのあいさつを最後まで聞きもせず、湖畔を後にした。


ハジムは、彼らの怒りをさらっと流しながら、硬直して動けない護衛の騎士たちをみた。


「やれやれです。これで陛下がリーナ嬢にメロメロなんです、なんていった日には・・・。」


試してみたい気がしますね、そう遠く去る彼らを見送りつぶやいた。







リーナはラージス帝国の王都サラゼルの王宮内の貴賓室に軟禁されていた。


ここに近づけるのは、ごく一握りの人間で、その噂は憶測が憶測を呼び、王宮を騒がせていた。


また会議の席でジェイムスが、貴賓室に滞在する人間に近寄るものは反逆罪とみなすと宣言し、自分同様の扱いをするようにとも言ったので、ジェイムスの治世において初めての事態に更に噂に拍車をかけた。





後宮で一番の権勢を誇る側妃のエリザ妃は侍女たちを連れ、後宮との境にある庭園で、部屋に飾る花を選んでいた。


そこにこのところ後宮で休むことが減ったジェイムス三世のこちらに来る姿が見え、皆叩頭しそのお出でを待った。


ジェイムスが来た所でエリザは挨拶の為、顔を上げた。


そこに見えたのは、ジェイムスが手を引く小柄な女の姿で、驚くことに、その女はジェイムスのまとう至上の紫に合わせた、薄紫のドレス姿だった。


皇帝のみに許される紫、同じような色のものなど許されるわけがなく、それをみたエリザ達一行は声も出ず立ち尽くした。


「へ、陛下・・。」


同盟国であるケルパス王家の1の姫として、自分はいずれ正妃になるものだと信じていた。


入れ変わる側妃の中で、唯一自分は不動の側妃としていた。


そして、この後宮の主と自負していた。


陛下と声をかけるもジェイムスは鷹揚にこちらをみるのみで、その先どうしたらよいか、思わず固まってしまった。


その時、その女が、


「この花、これがそう?」


と陛下に対して、不敬とも思える言葉使いで問いかけをした。


「ああ、この花だ。気に入らないか?」


陛下は、これがあの陛下と思えるくらいの、人一倍気難しく厳しいあの方かと思えるくらいの、聞いたことのない優しい声音で、その不敬を怒るのではなく答えていた。


思わず二人をみつめていると、その女が、あなたは?という目でこちらをみた。


その瞬間、


「無礼にもほどがございましょう。どちらの王家の姫君かは存じませぬが、礼儀を知らぬその様子では、お連れになる陛下の恥にございます。よくもまあ・・・」


最後まで言えなかった。


陛下がつかつかと厳しい顔でこちらに歩み寄り、そのままエリザを手打ちにした。


あがる悲鳴や侍女たちの懇願の声で、一気にそこは大騒ぎになった。


止めをさすべくジェイムスが上げた刃に震える侍女や、どうしてよいか困惑する警護兵の耳に、


「やめたら、めんどうそう。」


そう声が聞こえた。


驚いたことに、父皇の言葉でさえ、その指図を受けなかったジェイムスが、それを耳にすると、倒れるエリザを一瞥後、刀をおさめ、


「これの手当てをする事は許さぬ、私の目に触れることもな。」


そう言って、花を数本手にすると、リーナを伴って王宮側に戻っていった。


この話はまたたくまに後宮だけではなく王宮全てを震えあがらせ、貴賓室に滞在する人間が女性であり、紫の色を身に着けることを許している、というので更に王宮に激震をおこした。


  



リーナはこの贅沢な部屋の椅子に座って、つまさきにぶら下げた繊細なつくりのサンダルをぶらぶらさせていた。


宝石をあしらったそれは、銀鎖も編み込み、これが大層な価値のものだというのはリーナもわかっている。


それをポンとふりあげ前に落とす。


そこにちょうどドアをあけて、ジェイムスが宰相と内務大臣を連れて入ってきた。


ジェイムスは転がるサンダルを見ると、ふっと笑って、それをかがんで拾うと、リーナの足元にひざま付き、そのきゃしゃな足にサンダルをはかせてやった。


それを見た宰相や内務大臣は、初めは陛下に対して何たることかと怒りで顔を赤くし、何かを言ってやろうとして、言葉を出しかけ、エリザ妃の件を思いだし、次に顔を青くした。


ジェイムスがせっかくはかせたそれを、またリーナ前に放った。


ジェイムスは困ったものだとばかりに、またそれを拾いリーナにはかせた。


そこにちょうどハジムがきたので宰相と内務大臣は何事か弁明をしてジェイムスに挨拶をして出て行った。


ハジムが


「大慌てで逃げていきましたよ。・・・確かに日頃のあなたを知る身ではきついでしょうね。」


そう言って嬉しそうに少女の足元にかしずく自分の主をみやって、首を振った。


「ほら、大事なお話があってきたのでしょう。遅いと思ってきてみれば。」


「はあ、何が嬉しくて、私は足にほおずりしそうな主を見てなければいけないんでしょうか?まだ記憶喪失だとおっしゃって下さった方が皆納得してやりようがありますよ。この忙しいときに。」


「そのくせ最近は、隠していた爪どころか牙が全開で、愚か者たちが戦々恐々で右往左往しています。やる気を見せろ、とはいつも言ってましたけど、何も外が大変な時に内を粛清しなくても。めんどくさいったらありゃしない。」


ジェイムスは、そう愚痴るハジムなど無視して、


「リーナ、君を父君たちが迎えにくる日が決定したよ。もちろん、すぐにまた迎えにいくから、どうか待っていて欲しい。」


そうリーナの足を持ったまま言った。


「迎え?」


そうリーナは聞き返すと、


「やっと話してくれたね。」


とジェイムスは満面の笑顔になる。


そんなジェイムスを足でからかいながら、ハジムを見たリーナは、


「やっぱり、あなたとは気が合うわね。あなたも一緒にけとばしてみる?」


そうにっこり話しかけた。


ハジムはリーナの足でちょうど胸をさすられて、嬉しそうにその足に、ほおずりする主を見て、やっぱりしたかとあきれ、


「ええ、いいですね。」


と答えると、


「それより、昨日、おいしいお茶が手に入ったので、ケーキとご一緒にいかがですか?」


と手を差し出しながらリーナを誘った。


それにリーナは、


「喜んで。」


と答えた。


思ったより早く父さまたちに会える、りーナはここにきて、初めての本当の笑顔をみせた。


それをみてジェイムスは、思わず抱きしめ、すかさずリーナの冷たい視線にさらされた。


ハジムにガバリと引きはがされ、二人仲良く部屋を出ようとするのに、ジェイムスはニヤリと笑い、すぐさま後を追いかけた。


ジェイムスはリーナを離す気はなく、もちろんハジムもそれを知っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
http://ncode.syosetu.com/n4154o/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ