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心の花  作者: そら
第3章
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第3章  第12話

これで3章は終わる予定です。

迎えがくるまでの2日というのは、ラージス側にも筒抜けだろう。


ならばまず2日、事態を知って即座にニルガが動いて更に1週間。


リーナは遠くからでも見える非常用の高楼のかがり火が2日後何色を掲げるか判断してからの移動を決めた。


私達だけが知る、その取決めのパターンを待つ、というのは小さいときから何度も誓わされていた。




コウの群れと奥深くまで移動し、この洞窟に今は閉じこもっている。


サバイバルその1だ。


まさか小さな頃のギランとの留守番が、こんな形で実を結ぶとは自分でも思っていなかった。


迷いの森や妖獣の森、そこでの強制かくれんぼやおにごっこのスキルが今こうやって役に立つ。


これを聞いたらギランは・・・考えるのは・・うん、やめよう。


まだまだ今日から始まったばかりなのだから、ギランを頭に浮かべるなんて縁起が悪い、最悪だ。


何にしても、まあ始まりにしては悪くない。


水も飲めたし果物も豊富にある。


コウの腹に凭れかかって、リーナはゆっくり目を閉じた。


ふと頭に昼間の麻袋に入り逃げ出す自分の姿が客観的に絵姿となり思い浮かび、あまりの光景にリーナは「う~っ。」とうなり、コウのお腹に顔を押し付けた。







マドリーンは、ここオルロンにきたときと同じように、また馬車の中にいて再び移動していた。


前の馬車にはバール子爵が乗っている。


2か月前、弟の出陣の祝いに、マドリーン達も久々に主館に呼ばれた。


そこでチルニー様とやっと久しぶりに話がすることができた。


場所も何もかもかまっていられなかった。


またいつお会いしお話ができるかわからないから。


震えはしたが、しっかりした声で私は言った。


「どうか今一度騎士にお戻りくださいと。」


「私の騎士になることを、許します。」と。



一瞬さんざめていたテーブルに沈黙が落ち、すぐさま元通りの騒がしさが戻ってきた。


まばたきもせずチルニー様をみつめていた私は、誰も彼もがまるで先ほどの私の大事な願いなど何もなかったかのような、それに、もう一度口を開こうとしたが、唯一こちらを見る弟のジュールの、まるで汚い物をみたかのような侮蔑の眼差しにかっとした。


何、何なの、その目は!


私は思わず立ち上がって弟の傍にいこうとしたが、その時、グレン様の


「どうする?リーナお前の犬が欲しいそうだよ。」


という言葉にそちらに目をやった。


いつもいつも、その膝に抱かれる非常識な礼儀もわきまえぬ、その娘は


「だめよ、父さま。ワンコは忠実なのよ。ちゃんと最後まで飼ってあげなきゃ。」


そう言うと私をみて


「あ・げ・な・い」


と声をださず言った。


思わず手を握りしめ、何かを言わなくては!と思ったのに、その時嬉しそうに娘にかけよるチルニー様の姿が目に入った。


チルニー様は娘の手を取り


「ワン。」


とおっしゃった、わんと。


茫然とする私に、あの憎いギランが同じように娘のそばに寄り、


「にゃんにゃん。」


と騒ぎだし、それをみて口を押える私に弟皇子が、


「すいませんが、お姉さま売約済みですので。」


とにっこり笑い、


「食事もお済みのようですので、お引き取りなされては?王族たるもの確かにジョークの一つ2つは必要ですけど、間抜けなものは・・・。」


と私の顔をみた。


それは共に育った弟皇子が姉姫に向けるにはひどく冴え冴えとした黒いもので、私はこちらに一度も目を向けることもなく、いや無視するならまだ良い。


私の存在さえ眼中にないチルニー様をもう一度みて、もはやこの蛮民達に取り込まれてしまった皇子を見て、震える足とこぼれそうな涙を王家の矜持でもって押えて


「ごきげんよう。ではお先に失礼させていただきます。」


と典雅に腰をかがめ頭をつん、とあげて退室した。


あれからすぐに傭兵団の自分の扱いを怨む後見の子爵を通して、ラージス側へ救助要請をした。


ジュール廃嫡の嘆願と共に。


この日主館以外には季節によっては毒を持つ野菜を混ぜた昼食を侍女たちが持ち込んだものを出し、捕虜とする主館には無味の睡眠薬を使った。


本当は主館のものこそ殺したかったのだが、ラージス側の条件は捕虜であったから。


乗り込む馬車の中で、自分は何とも遠い所にきたと思った。


あれほど後宮を嫌い王家を嫌い、離宮での穏やかな生活を祈っていた私が・・・。


それともこれが本当の自分であったのか・・・目をつぶると、おとなしい覇気のない弟に小言を言っている私に、弟君はまだこれからですよと優しく諭すチルニー様が思い出された。


後悔はしない。


私を空気以下に扱う彼らに、私は一人の立派に成人を迎える王族であることを、わからせたい。


ちゃんと生きている人間であると。


これから向かうラージス帝国に何があろうと、もはやこわいものなどない。


私が一番こわいのは、この手を汚すことを何とも感じない自分自身なのだから。







リーナは逃げて2日目の夜、木々の隙間から高く上がる狼煙がわりのかがり火を見た。


何度確認しても、それは安全を宣言する色とまたたく回数だった。


リーナはじっと考えた。


追っては深くまではこれなかった。


主館にいない自分に気づいてすぐこの森に入ってきても、ことごとく妖獣たちや翼狼にやられてしまった。



高楼から上がるそれを確認して、しばらく後、やっとリーナは決断した。


こちらを見るコウにリーナは頭をなで、


「大丈夫よ。」


そう言って歩きだした。



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