第3章 第10話
あと一回で、この章おわるかなあ。
昨日は夜更新できませんでした。
リーナはここオルロンで14才の誕生日を迎え、あと1年で正式にニルガ傭兵団の次期後継としてニルガに入団する。
父は半年前、ここオルロンに再び戻ってから、ニルガ傭兵団はここにこもったまま何の動きもみせなかった。
半年前、父が初めて挨拶代わりに、ラージス帝国に侵攻されたケルダスのハイリン領、これは幽閉された王家直轄領の最大の領地になるのだが、そこに出陣して、それを奪還し、反ラージスを掲げる官民混じりのレジスタンスに、それをまかせてからになる。
ルークとチルニーは、その時は留守番で、ルークは、やはり遊撃隊は全て私がそのまま指揮していた方が、と父に陳情していたが、父に目で笑われて撃沈していた。
もともとギランが担っていた暗器隊を遊撃隊に統合し、その異質さから遊撃隊を2つに分けたのは自分なのに、父の出撃についていけないのは、許せないらしく、せめて私を置いていけといいつのり、父の怒りにあっていたのは記憶に新しい。
ラージス軍もここオルロンに、この間2度ほど攻め入ったが、地の利はこちらにあり、ナンが生き生きとして作っている罠の数々や、適格なシーガ隊の砲撃、おまけに翼狼の群れの空からの攻撃に、ここオルロンには手を出せないでいた。
チルニーの毎日かかさず行う勉強は、一般教養から各国の情報、謀略のエピソードなどくるくる変わり、確かにおもしろい授業で、新しく加わったうさぎちゃんこと、ジュールも目を輝かせている。
このジュールは珍しく、すとん、という感じに許されて私の傍にいる。
驚くことにギランになつき、ギランもそれを気にするそぶりもみせないので、若い傭兵がそれなら自分も、と自分を売り込みにギランの近くによったが、おってはかるべし、今は土の下だ。
ジュールの虚の部分、欲求はあっても欲がないありようがすんなり認められた要因かもしれない。
ギランが、
「俺はにゃんこでしょ、で、そいつは認めないけどワンコなんだってぇ~、だからあ、おまえはうさちゃんね。」
という事になったらしい。
「リーナ、ペットの飼い主はちゃんと最後までだかんね、愛情ないとぐれるよお。」
と本気で私に言ってくる。
父も子供には、ちゃんとしつけられたペットは大事だから、と、3人に首輪をプレゼントして、黒、真紅、黒銀の首輪を彼らも嬉々としてつけている。
ナンが、今度良い鎖をこしらえましょうと言うのを全力で止めたばかりだ。
私はどんな女の子だ!とシーガに泣きを入れて、ナンの部屋が吹き飛ばされたのは、私のせいではないと思いたい。
おおむね、この半年は穏やかにすぎ、時々誰かが入れ替わりで出たり入ったりしているくらいで変化はなかった。
ふと、中庭での勉強タイムを終え、チルニーがジュールに毎回出す宿題、どのようなものかは知らないが、それをチェックしている時、ジュールが珍しく前のように感情のこもらない視線を後ろに向けるので、何事かと思えば、こちらを毎回みているあのベランダに視線をやっていた。
それを戻して私をみるので、目で問うと
「何でもありません。」とそう答え、
「この間、グレン様に嫌いなものは何かと聞かれたのですけれど、これといって思いつかなかったんです。」
「けれど、一つみつけました、愚かさは嫌いです。」
そう言って後ろを振り返った。
グレンは会議室で、ケルダス王国の現状を聞いていた。
勿論リーナを膝に抱いて。
リーナの足が抱いた腕からはみ出ているのを眺めながら、その足を撫で、ずっと赤子のころから、こうやって抱き続けた愛しい娘が、こうして少しずつ大きくなるのを、ため息をつきたくなるような感慨深さで眺めた。
報告に聞くケルダスの現状に思った通りだと、ほくそ笑み、さあ、皇帝よ、どう動く、とグレンは獰猛なそれでいて静かな笑みを口元に浮かべ、引き続きナンの部隊にレジスタンスへの援助と、民衆への扇動をまかせた。
この半年なぜ動かなかったか?
隊長である自分が本気で出撃し、傭兵団の力の片鱗を、やっと一進一退の現状に自信を取り戻しつつあったラージス軍に、思い切りみせつけた。
ただし、実際あの戦いは傭兵団にとっても、いっぱいいっぱいのものであったのだが。
彼らはその戦いでの傭兵団のすごさに圧倒された。
その後傭兵団が引き上げてから、ハイリン領はまたたくまに再びラージス軍に取り戻されたが、駐留するラージス軍にとって、いつまたニルガがやってくるかもわからない現状はぴんと張りつめていた。
まして、ここの人間は反ラージスを明確にした。
どんどんニルガ傭兵団を警戒して、守備兵が増えるばかりのここは、最初に住民に手を出したのは些細な理由の若い兵士だったらしいが、それが徐々に広がっていき、力に狂った兵たちによる住民への虐待が日常茶飯事と化し、駐留上層部がその事態を知って、それを抑えるべく憲兵隊を組織しても、その憲兵達も同じように暴挙を行うようになり、住民への虐待はとどめようがなくなった。
他の町に逃げ行くあてのあるものは、次々逃げ出し、それを追って憲兵隊も近隣の町まで繰り出すこともあり、今やラージス軍はケルダス内では蛇蝎のごとく嫌われていた。
そう、今やケルダス内はラージス帝国憎しの声と、それに言いなりの傀儡の現王室ではなく、前王家への忠誠の声が大きくなりはじめていた。
グレンは中庭で遊んでいる愛しい娘の傍により頭を撫でキスをすると、ジュールの方を向き、その首輪を似合うぞと褒めた。
そして、静かに「どうする?」と聞いた。
ジュールは傭兵団の会議に自然とギランに連れられ参加するようになった。
何でもペットは飼い主の傍は離れてはだめだ、というので、当たり前に参加するようになった。
バール子爵などは、自分が参加できぬそれに出席する自分に理由をつけて、後見である自分も参加する義務があるとかなんとか言い募り、聞いていたルーク副長に耳元で何やら言われ、青い顔で首をぶんぶんふり、その後自分も参加するとは一切言わなくなったが、代わりに自分に根掘り葉掘り聞いてくるので、閉口している。
昨日の会議で、最後、急にグレン隊長に呼ばれ皆の注視の中聞かれた。
「踊る気があるか?」と。
考えておけと言われたが、考えることなどあるはずもなく、今聞かれたそれに当たり前に答えた。
「それでリーナが笑うなら。」と。
グレン団長は、良いペットだ、と私の頭を撫でて、それをみたギランが、
「え~、何それ、え~。」と隊長を指さし、
チルニー先生が、さっと胸元から出したナイフで、その指を切り落とそうとしたが、かわされて、
「人様に指をさすなんて、けだものの分際で許しません。」
と小言をはじめ、リーナがまたくすくす笑うのに、ギランは嬉しそうにそれをみて、
「いいもん、頭なんて撫でられたら・・・俺こわくって寝れなくなる自信あるもん。」
「ね、ね、そしたらリーナ一緒に寝てくれる。」とリーナにすりより、チルニー先生の本気モードの怒りに触れて大騒ぎになった。
グレン様の闇色に染まるのは、どんな気分だろう、とふと思ったが、この愛しい空間にいられるのなら、と思い、自分の幸せに、うっとりと目をつぶって笑った。
確かに自分は皇子だが、ケルダスなど考えたこともない。
一緒にグレン様が踊ってくださるなら、それはまあ、どんなにおもしろいことになるのか、チルニー先生をみると、同じように感じているらしく、楽しそうにギランと切り結んでいる。
本当に・・・楽しみだ。
ふと、先ほどのベランダを見やるが、すでに誰もおらず、あれらをどうするべきかと考え始めた。