第3章 第9話
あと二話くらいで、この章は終わりそうです。
マドリーンは、何事もないふりでベランダから、隣の主館の遠く見える中庭を、午後のお茶を飲みながら眺めた。
そこには、チルニー様と陽だまりにあるガーデンセットに座る団長の娘リーナと、自分の弟、それにリーナの足元でごろごろしているギランの姿があった。
にこやかに何やら話すチルニーの顔は遠くてわからないが、その優しい雰囲気は、この間まで自分も知っていたそれであろうと、一瞬きゅっと唇をかみそうになるが、ケルダス王家の姫である自分の矜持が、そんな自分を許さなかった。
皆が理由があると繰り返し言い、こちらに顔を急に見せなくなったチルニーをおもんばかっていたのだが、弟皇子のジュールが、いつの間にやら、主館に寝泊まりするようになり、あの中庭で毎日ああやって過ごしているのをみると、侍女たちも戸惑い気味になる。
弟のジュールは、とてもおとなしい静かな子だったと思っていたが、離れたここから眺めると、何か活発に話している様子がうかがえる。
バール子爵が何度も、弟にご自身の立場をわきまえるよう話にいったのだけれど、弟は静かに笑うばかりで、答えないという。
弟もあそこにいるのだからと、この間乳母と侍女にうながされ、直接皆で散歩と称して主館の中庭へ入っていったのだが、庭の入口にいた傭兵達に通してもらえなかった。
姫様に向かっての無礼と、怒り狂った乳母たちだが、傭兵達の本気の目に、あきらめて帰ってきたのは記憶に新しい屈辱だった。
チルニー様と会う機会がなくなり、なぜ、なぜとぐるぐる考え、傍に誰もいない時は泣いてしまうが、弟のジュールが良くて、なぜ姉姫である自分がダメなのか、子爵はお怒りをお納めくださいと言うだけだし・・・。
向こうを見たい衝動を、チルニー様を見たい衝動を、自身の矜持でもっておさえつけ、周りには何でもない風を装う為、お茶のカップに口をつけると、そこには自分の顔が映っていた。
そこに映るきつい目をする自分をみたくなくて、カップをテーブルにおいた。
バール子爵は、面と向かって私には言わないが、私とて王家の一員である。
幽閉された異母兄の一家に何かあれば、唯一の男子たるジュールが世継ぎになる。
ここオルロンにきて、今までなかった、まずジュールに話しかけるようになったバール子爵に、私は気が付いてはいたが、あの影の薄い弟である、全然気にかけはしなかった。
けれど、あの中庭にいる弟皇子が、世継ぎになる可能性だけで、あそこにいるのなら、それゆえチルニー様の傍にいるのなら、なぜそれが、姉姫である私では、女王ではいけないのかと思う自分がいた。
彼が剣を捧げるのは、ケルダス王国の騎士だった彼が剣を捧げるのは、なぜ私ではいけないのかと、初めて本気で考えた。
夜、時間があれば、更新したいです。