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心の花  作者: そら
第3章
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第3章 第7話

中途半端でしたので、更新です。


思わず入り口をみると、あの恐ろしい男が、よく見ればその腕に誰かを抱いて入ってくる所だった。


それに続いて数人の男たちが、何事か大声を上げながら続いて入ってきた。


何やら揉めている様子に、下座の方の傭兵団の男たちがぴたっと会話をやめて、皆下を向いて急に静かになった。


副長のルークが、周りを見渡し私たちに頭をさげた。


「静かにしろ!客人の前だ!」とたしなめると、あの男が、


「え~、俺じゃないよ~。後ろにいってよねぇ~。」


そう言って頬をぷっと膨らませた。


その顔は昨日の、何をみているかわからないそれではなく、腕の中に納まる、たぶん子供に、こちらが見ても幸せそうな笑顔を向けていて、昨日のあの凶行を行った同じ人間かと、不躾を承知で、怒りも忘れしみじみ見つめてしまった。


それに続いて、


「いい加減にしていただきましょう。」


との、とても低いが怒りをたたえた声が聞こえた。


昨日よりずっと探していたチルニー様だった。


私が思わず腰を浮かしかけるのをみて、乳母が、


「まあ、チルニー様、よろしければこちらのお席に。」


と声をかけたが、聞こえなかったのか、あの恐ろしい男に向かって再度、


「その腕を下していただきましょう。」と、今まで私たちが聞いたことのないような低い声を出した。


それにまた別の男が、


「約束破る気だな、よし、外に出ろ!新しい爆薬のいい実験になる!」


と言い放ち、


「あのさあ、邪魔って言葉知ってる?ほ・ん・と・・邪魔!」


と歩くのをやめて男が振り返った。


あの男の傍にチルニー様がいるのに、私はどうなることかと心配のあまり、血の気がさっと下がっていくのを感じた。


何やら不穏の空気が漂い、みな食事も忘れ見入っていると、


団長であるグレンの


「さあ、おいで。遅かったね、さあ、早くおいで。」


と小さいがよく通る優しい声が聞こえた。


すると、くすくす笑う女の子の声が聞こえ、初めてあの男の腕にいるのが女の子だとわかった。


「ギラン、おろして。」


そう言うと、初めてこちらをその子が向いた。


あの私の大切な護衛兵を殺した男の名前を初めて知った私は、ギラン、と小さく呟き、忘れないよう心に刻みつけ、そして強くにらみつけた。


ギラン、ともう一度呼ばれた男は、眉を思い切り下げ、その子をそっと下すと、ぎゅっと一度抱きしめて、手を引いてグレンの傍にいこうとした。


だが、その子のもう片方の手をすかさず取り、共に歩むものがいた。


チルニーだった。


その小さな子の手を取り、その子にのみ向ける微笑みは、はじめてみるそれで、私は自分の胸が苦しくなり、思わず下をみて手を握りしめた。


それを見た乳母が私の手をそっと撫でてきたので、私は心配させたくない一心で、うつむいた顔をあげた。


おそるおそる彼らに手を引かれる子を見ると、黒髪のとても華奢そうな綺麗な雰囲気を持つ小さな子だった。


彼らは、いえ、チルニー様は、その子をグレンに渡すと、当たり前のように椅子を運び、すぐ近くに腰を下ろした。


今日の主賓である私達の傍でもあるが、話しかけるタイミングがなく、それとなく様子を伺っていると、団長のグレンから改めて紹介を受けた。


あのギランという男はチルニー様の上司にあたるのだったのに、驚きを隠せず、他にも数人紹介されたが、頭はその事でいっぱいで、他の事は入らなかった。


他の皆も驚いていた。


あの温厚で紳士的なチルニー様の上司があの男なんて、と私達は唖然とし、最後の主菜の後、グレン隊長の愛娘だとあの女の子が紹介された。


デザートに入り無礼講的な流れに入ったので、何度か乳母や弟や私がチルニー様に話しかけたが、いつもこちらを決してそらさず、受け答えしてくれる彼から、一度も返答が帰ってこないので、皆のおしゃべりで聞こえないのだと思い、それは弟も同じくそう思ったらしく、傍の護衛にチルニーのグラスにワインを、と指示をした。


チルニー様とよくお酒を飲んでいたザックが立ち上がり、ワインのボトルを持って後ろに立った。


何事か話しかけグラスにワインを注いだが、ザックをちらっとみただけで、何の反応もない。


ザックが私達の方を指し示し、返礼を促した。


私は髪が乱れてないか、そっと乳母に聞き、乳母は、


「いつも通り、大層美しい自慢の姫君にございます。」


と言ってくれたのに、ちょっとほっとし、そしてあわててチルニー様に顔を向け下品にならないような笑顔を向けようとして、固まってしまった。


なぜなら、見たこともない冷たい目で、私達を一瞥したから。


えっ、何?何か御気分を害していらっしゃる。


何、なに!何が・・・。


私は初めて見るチルニー様の様子に、泣きたくなり混乱した。


その後のことは、全てがぼーっと目の前を通り過ぎたかのようで覚えていない。


この間は幸せのうちにベッドで泣いたのに、悲しくて悲しくて泣く私に、乳母や侍女たちは、きっと何か理由がおありになるのだと、きっと、あの恐ろしいギランなる男が傍にいたせいで、こちらをおもんばかって、心やすくなされなかったに違いないと口々に言いだした。


私も確かにあのようなチルニー様は見たことがなかったので、


「そうだ、そうだわ、私が知る騎士の中でも、騎士以上に騎士らしいあの方だもの。何か理由がおありになるのに違いないわ。」


そう確信し、お茶会にでも改めてきていただこう、という事になった。


チルニー様には、どうかお気になさらないよう、私どもは心得ておりますと、ちゃんと伝えようとあれやこれやと盛り上がっていた。




けれど、数度招待しても、すべて返事もなく、こちらにおいでになることもなく、自然自分たちのこの館は静かな暗さに包まれていった。


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